説明書はしっかり読みましょう その1
萎縮している彼女、そして困り果てたカミサン、いろいろハプニングがありすぎてすっかり疲れ切っている俺がテーブルを囲んでどんよりしていたところ、階段からトコトコ音がして、息子がひょっこり顔を出した。
すっかり忘れたけど、小学6年生の息子は夏休みらしい。
それに合わせて夏休みをとっていたのもすっかり忘れるほど、とにかくいろいろありすぎて、頭がぐるぐる。
とにかく息子にも飯を食わせないと話にならないと思い、またそうめんを茹でようとしたら、
「おはよう ん? お、おはようございます?? って、ごめん、誰?」なんて息子の声。
「うん、父さんも母さんもわかんないんだ」なんて返答をしながら、キッチンから声をかけていると、「ふ~ん」なんて不思議な顔をしながら、自分の席についてご飯を待つ息子。
すかさず「手伝え!」と言い、机を拭かせたり、箸を置かせたりしている間に、カミサンは彼女が封印?されていたパッケージなどを熟読しているらしくすっかり空気に。
当然、彼女も何をしたらよいのかわからず、ただただ緊張しているだけだったので、その異様な空気が嫌で、キッチンから「ちょっとテレビでもつけてよー」なんて言うと、息子がテレビをつけて、すぐに録画しているお気に入り番組を見始める。
止める間もなく操作するもんだから、半分諦めて見ていると、画面には『世界のハプニング映像』なんてタイトルが目に映って、「もう何度みたんだよ!」と思わずうんざりしていたら、ふと彼女が
「う、動いてるっ! 四角い箱の中で人が動いていますよ!!!どうなってるんですか?!!!」と興味津々な様子。
目にお星さまでも映ってるんじゃないの?この子!なんて思うくらいとってもかわいらしい光景に思わず頬を緩ませていると、息子が「えっ?テレビ知らないの? つーか、良く見たら頭の耳も尻尾も微妙に動いてるじゃん!これ本物?ホンモノ?」なんてそっちのほうに狂喜乱舞してるよ!
おまえ、少しは空気読めよ!なんて思いながら、息子用に作ったそうめんと、口が寂しいから上げたフライドポテトを机に並べ息子に食べるように促すと、彼女のしっぽを凝視しながらガツガツ食べまくっている。
絶対あとで「その尻尾触らせてもらってもいいですか?」なんて言うんだろ?ちょっと待てよ、本当に。
そんな中、ようやくパッケージを読み終えたカミサンも息子と一緒にそうめんを食べ始め、気が付けばもう9時。
寝たような寝てないような頭がぼーっとしている状態の俺を見て、カミサンが「ちょっと楽しいことが出来そうなんだけど」と俺にだけ聞こえるような声で話す。
ちょっと彼女と息子に聞かれたくないらしいので、少し離れたキッチンに移って話を聞いたらさ、
ほ、ほうほう
それはまた楽しそうな
おぬしも悪よのう~ふへへへへ
なんて、某時代劇の悪代官のような台詞がこぼれ出てきて、思わず悪い笑顔が出る。
ただ、これをするにはいろいろな事が顔に出てしまう俺よりも、くーる&びゅーてぃなカミサン主導のほうが都合が良いので、再びリビングに戻ってカミサンと俺、そして彼女と三人でテーブルを囲む。
息子は夏休みの宿題をするという名の強制退去だ!
すまん息子や。
そして、カミサン主導で話がはじまる。
「えっと、改めて自己紹介するね。私の名前は村主 幸、隣は旦那の正木。さっきの息子は勇気なの、よろしくね。あなたはイデアさんだよね」
『は、はい!私、獣人族のイデアと言います。領主メリアデスの奴隷として働いていました。』
「いろいろ大変だったと思うし、いろいろ戸惑って疲れてしまっていると思うけど、私も旦那も貴女の事どうにかしてあげたいと思ってるから、ちょっといろいろお話させてくれないかな?」
そう言うと、彼女・・・これからはイデアと言おう・・・は、奴隷時代の出来事を話してくれた。
物心つく前には人間の領主の奴隷として売られていて、父母の記憶もおぼろげであること、小さい身体を生かされた狭い鉱山での過酷な作業に、同い年くらいの子供たちが倒れるのを何度も見たこと。
身体が大きくなると、狩りの仕方を強制的に学ばされ、領主の狩猟遊びの為に獲物を呼び込んだり、捕った獲物を運び解体する作業などをしていたが、獣人と言う種族でありながら美しさが備わってきたイデアを見た領主が無理やり襲おうとして、そこで記憶が途切れたらしい。
イデアが最後に聞いたのは、金髪の美しい女性の声で、
「貴女はこんなところで汚されてはならない人。いつか貴女を導いてくれる人に会えるまで、ゆっくりお休みなさい」と言う言葉。
その言葉だけは忘れず記憶していたので、俺やカミサンが目の前に現れた時、この人達が私を導いてくれる人だ!と思ったらしい。
うん
それ完全に人違いだよな。
そんな力もないごく一般的なおっさんのところでごめんよ。
そんな身の上話を聞いたあとだからかもしれないけど、珍しく熱のこもった口調でカミサンが口を開いた。
「今までの貴女はたまたま巡り合わせが悪かっただけ、だけど、ここに来たのは何か意味があると思うの」
そして、パッケージにあった説明書を確認しながら、うんうん頷き、
「私達には貴女に手伝えることがあるの。貴女が一人で生きていく為に最初に必要なものが用意出来るかも知れないのよ!」
『それは、何でしょうか?』と言うイデアを見て、にやっとしたかと思うと、カミサン、親指と人差し指を丸の形にしてこう言ったんよ。
「お、か、ね! マネーよマネー!!」
「私たちのある意味財産と貴女の力があれば、当面のお金はなんとかなると思うんだけどね。もし良かったら少し協力してみない?ねっ?ねっ?」
目力も押しも強すぎだぞカミサン
イデアも俺もドン引きだぜ
まあ、カミサンの話を聞いていた俺も、チャンスがあればやったほうが良いと考える人なんで、決して悪いようにはならないと思うんだけどね。
決して危険な事ではないし、もし失敗しても危険はほとんどないと思うよ、と俺もイデアに説明すると、複雑な顔をしながらも了承してくれたので、カミサンと俺は早速準備にとりかかったんだ。
今日しか出来ないことを思いっきり楽しむ
我が家で俺が勝手につけている家訓の一つだけど、それをやるためだから本当にワクワクするのよ。
駄目で元々、まあ~モノはためしで、楽しんでやってみるか~
評価を頂きありがとうございます。
見て頂けるだけでも嬉しいのに評価まで・・・本当に心から「ありがとう」と言いたいです。
今現在、第11話まで投稿が終わっているのですが、徐々にキャラクターが動き出してくれて物語が進んでいくのを自分自身で感じています。
今まで書いては消して書いては消してを繰り返して、なかなか投稿まで行きつかなかったのですが、ようやくひとつの物語をスタートさせることが出来てとても嬉しいです。
まだまだスタート段階ですが、楽しく続けたいと思いますので、これからもお付き合いいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。