銀色の人 その1
時は少しさかのぼり、村主家と村の面々が洞窟を出た少し後の事・・・
洞窟の入り口に光が集まったかと思うと、徐々にそれは人型へ姿を変えていく・・・
パッと光がはじけたかと思うと、そこには、大きなボストンバックを抱えた女性の姿があった。
銀色の髪に猫のような耳、そしてふさっとしている銀色のしっぽを持つ女性は、にこにこ顔でうんしょうんしょと言いながらそのボストンバックをさすりながら入り口へと入っていく。
「今日狩った熊さんが思いのほか高く売れてくれて良かった・・・これで子供たちに美味しいもの食べさせてあげられる・・・ボロボロの着物も新しいのに替えることが出来る・・・」と、言いながら「ただいま~!!」なんて笑顔で入ると・・・
「あれっ?誰もいない!!!!」
「嘘っ!うそでしょ?」
「ここってほとんど人来ないし、魔物も近寄ってこないから、子供がいても大丈夫だと思ってたのに・・・もし子供達が何かに襲われたりさらわれたりしたら・・・どうしよう・・・どうしよう・・・」
そんな事を言いながら、慌てふためき、慌てていろいろな場所を探す銀色の人。
あまりに慌てすぎてて、洞窟の一番上にあるスライムハウスにまで手を突っ込み、びっくりして出て来たスライムにまで「貴方!子供達しらない?」と聞くも、「大丈夫でありんす。凛々しく聡明な魔導士様が大切に保護してるでありんすよ」というスライムママの言葉を銀色の人がわかるわけもなく・・・
隅から隅まで探したつもりでも全く見つからない事実に唖然としながらも、近くにあったタオルで汗を拭き、丁度椅子らしくなっていた岩に腰をかけると・・・
「あれっ?タオル?なんでこんなものがここにあるの?」と驚く銀色の人。
そして、丁度腰かけた岩の近くに手紙が置いてあり「子供を大切に預かっています 村長」と書かれたメモが・・・
「子供を大切に預かってます・・・それって誘拐?身代金目的?それとも奴隷行き?!!!!大変!大変大変!!すぐに行かなくては!!!!」
そう言うと、何やら魔法の呪文を唱え自分の体を急に上昇させると、そのまま空に飛び立とうとして・・・
唯一あった天井らしいものに頭をぶつけてそのまま急降下する銀色の人・・・
・・・・
・・・
・・
「いててて・・・」と頭をさすりながら、再度飛翔の魔法を使い、村へと急ぐ銀色の人の目に、一人の男性の姿が見えたので、慌てて急ブレーキをかけるように止まり、「すいません、ここら辺で小さな子供達を見かけませんでしたか?」と言うと、男は、いきなり空から降りてきた事に驚きながらも「あ~あんたが銀色の人か。大丈夫、今子供たちはおいらの家で預かってるよ」との事。
一見人の好さそうな褐色の青年だが、いったい何者なんだろう・・・信用しても良いのだろうか?なんて顔をしながら銀色の人が悩んでいると、「まぁなんだ、一度うちに来てみてよ。子供達見れたほうが安心でしょ?」という事なので、青年に連れられ歩いていく。
「私はこの村に来たこともなければ、縁もないのに、なんで子供達を連れて行ってくれたんですか?」と銀色の人が青年に尋ねると、ちょっと苦笑いをして「いや~俺じゃないんだよね。超お節介な塩売りのおっちゃんと奥さんがやったんだよ」頬をぽりぽり掻きながら言われた。
ますます状況がわからなくなってきたけど、ここまで来たら絶対に子供達だけでも見ていこう!と心に決めた銀色の人は、情報収集という名の雑談をしながら道を歩いていく。
・塩売りは40代くらいのおっちゃんで、奥さんも同じくらいだけど魔導士らしい。
・食糧と引き換えに、子供達と一緒にいたあの山を購入したらしい。
・何か大切なものを探しているらしいが、何なのかわからない。
・ただ、大切なものを探すために、周りも幸せにしないといけない・・・なんて訳の分からない事を言ってる。
そんな事を話す青年をよく見ると、どこかで見たことのある恰好をしていることに気が付きハッとしてしまった銀色の人。そんな様子を見て「あっこれ?これ、塩売りのおっちゃんにもらったんだ~」なんて言って上のシャツと下に穿いている短パンをちょっと引っ張る。
「これ、すごく軽くてさ、風も通って気持ちいんだぜ!子供たちもおんなじようなもの着てるからさ、きっと今頃、気持ちよく寝てるんじゃないかな?風呂もとっても気持ちよかった~って大喜びではしゃいでたぞ」なんてにこにこしながら言う青年に、何気に異世界で父と言ったあの人の事を思い出し、銀色の人目から涙があふれてくる。
「おいおい、そんなにあの子たちの事が心配なんか?大丈夫だよ、怪我とかないし、元気いっぱいだよ」と女性の涙に弱そうな青年は必死に慰めようとしているのだが・・・それがかえって可笑しかったのか?銀色の人はありがとうと言いながら、ぽつりぽつり自分の事を話し始める。
小さい頃は、あの山の鉱山で朝から晩まで叩かれながら岩を掘っていたとか、この年になるまでずっと奴隷として働いていて周りの事が全くわからなかった事、そしてあるきっかけを得て、自分が自分らしく生きて良いんだという事を知った事・・・
「そっか・・・あんたも大変だったんだな・・・俺らがいたずらして遊んでた脇で必死に働いていて・・・あの鉱山で小さい子が大変な目にあってたなんて・・・全然わからなかったよ・・・」と言い謝る青年に戸惑いながら、銀色の人は「過ぎたことですから」と言う。
過去にとらわれて恨み言を言うのは簡単だけど、過去にとらわれて明るい未来を逃してしまうのはもっと怖いと、異世界の父と母と弟に教えてもらったんですよね。と銀色の人。
そんな事を話しながら歩いていると、青年は「ここが家なんだけよね」と言うと、ソロっと家の戸を開け中を覗いてみる。
青年が口に指を一本あてて、もう片方の手で手招きをするので、中に入った銀色の人が見たのは、幸せそうに寝ている子供達・・・洋服もピカピカで何気に良いにおいもするので、きっと大切にしてもらったんだなぁと嬉しそうに笑う。
そんな笑顔を見て、ぽーーーっと赤くなっていく青年に気が付かないまま、一度外に出ようと戸に向かって指をさす銀色の人を見て慌てて同意する青年。
外に出てから「塩売りさんと魔導士さんにお礼を言いたいのですが・・・」という銀色の人なのだが、「今とっても忙しそうだったから、当分の間あちこちに行ってると思うよ。もし良かったらちょっと待っててもらえれば声かけるけど」という青年に、「そうですか・・・では、また明日にでもこちらに来ますので、よろしく伝えていただけませんか?」と答えると、呪文を詠唱して飛び立ってしまった・・・・
「やべぇ・・・めっちゃくちゃ綺麗な人だった・・・心臓バクバクいってるよ俺・・・どうしようどうしよう・・・」
そんな事をブツブツ言いながら赤くなっていく顔を抑えながらワタワタしているアデルに、「あの子なにやってるんかしらね・・・」と、あきれ顔で出て来たお母さん。
そんな母さんにも気が付かず、「明日も会えるといいなぁ」そんな事を思った青年アデルでありました。




