囲まれていました・・・ その1
「ちょっと外に出かけてきます」
アデルの家の一室に荷物を置かせていただき、カミサンと二人でケルの村を散策しているのだが、久しぶりのデートというよりかは、俺は敵情視察、カミサンは探偵という気分で歩いている。
一番の目的はイデアを見つけることだけど、無理やり連れ戻してもまた同じことの繰り返しになるのは目に見えているし、少しでもこの世界に安住の地があればいいなぁ~と思うんだけど、俺らがたまたま良い人たちに恵まれているだけで、周りを見るとバイオレンスな世界が広がっているとかだったら嫌だし、そうでないことを願っている俺。
カミサンは、イデアの魔力の残り香的なものを探しているんだけど、徐々に残り香が薄くなってきているので、かなり焦っている。
カミサンは俺に比べてあまり体力がないので、仕方なくおんぶしてダッシュしてたんだけど、とある山のふもとで残り香が完全に消えてしまったらしい。
「やっぱり付け焼刃の魔法じゃあまりうまくいかないか」とがっくりしているカミサンを見て、でも魔法が使えなかったらここまでこれなかったんだから、結果オーライだよ!と励ましながら、どうせここまで来たんだから、この山の周辺でも回ってみようか?と言って手を引いて連れ出す。
アデルのお母さんと雑談していて聞いたんだけど、この山は鉱山石炭などいろいろな鉱石が取れたらしく、首都の貴族や商人が手当たり次第掘りまくり、多くの鉱山関係者により、ケル村にも利益があったらしい。
ただ、ここ最近は、鉱石を掘り尽くしてしまった感が強く、鉱石目的で近づく人はいなくなり、山の所有者も持っていても仕方がないということで、山を手放し、今では一応村の管理ということになっているらしいが、あまり人は寄り付かない場所らしいんだ。
地元の人も、鉱山が盛んな時は近づく事は許されなかったため、今はどうなってるかわからないと言うことだったんだけどね。
人が寄り付かないって事は、あまり良い事がないって事で・・・
う~ん・・・これどうしよう・・・
いつも間にか、木のヤリ、短剣、農具などで武装したのかな? 物騒なものを持ったお子様たちに囲まれちゃってるんだよね、俺ら。
「ここに何しに来た!」
「俺たちを追い出そうとしたってそうはいかないぞ!」
「とっとと帰れ!!!」
・・・うん・・・
威勢はいいんだけど、足ガクガク震えてるよ、キミタチ。
カミサンも気が付いた見たいだったんだけど、果たしてどうしたもんかねぇ~いきなり脅してくるのは良くないことだと思うけど、本当に必死なんだろうなぁ~って思ってたら、きちんと話をしたくなってさ、目の前にいるのは一人の人だと思って話をしたんだ。
いや~申し訳ない。
俺らはここがどこだかわからないまま来たんだ。
君達を驚かせてしまったのは本当に申し訳ないと思うんで、まずはお詫びにアメちゃんどうぞ~と言いながら、自分もカミサンも目の前で飴をなめて、あとの飴を人数分2つずつ用意して目の前に差し出す。
すると、リーダーっぽい男の子が恐る恐るひとつ食べると同時に「あんだこれ!めっちゃくちゃ甘いぞ!!うまいうまい!」なんて言ってさ、それと同時に子供達が殺到しはじめ、俺とカミサンは手分けして子供たちにアメちゃん配りまくったのよ。
最初囲まれた時には気が付かなかったんだけど、10人くらいかな?と思ったら、後方にも子供がいてさ、倍の20人ちょい。
危ない、アメちゃんなくなるところだったよ。
ただね、こうやってみているとさ、最初は緊張していてこわばっていた子供の顔が、アメちゃんひとつで柔らかくなってきてね、「おいしいね」なんて隣の子同士で話しているのを見ると、人種性別関係なく、普通のどこにでもいるようなお子様なんだなぁ~って思ったんよ。
で、ちょっと落ち着いてきた感じがしたんで、子供と一緒に座り込んで話をしてみたんだ。
いろいろな子の話を聞いてみて、まとめてみたんだけど、どうやらこの子達、モンスターや不慮の事故で親を亡くしたらしく、人さらいに奴隷にされそうになったところを、銀色のお姉さんに助けてもらってここにいるらしい。
今は、この先の鉱山跡で寝泊まりをしていて、ご飯も銀色のお姉さんが持ってきてくれたり、用意してくれているということ。
銀色のお姉さんという事は、魔力の残り香の事も考えると、イデアだろうな。
そう思っているとカミサンも「そうね、あの子だったら子供を助けたいって思うだろうね」との事。
たぶん、この鉱山も以前イデアが働かされていた場所だったのかな?人が来ないのに気が付いて、よい隠れ場所になると思ったんだろうけど、う~ん甘いな。
もしこの場所に人さらいが来て、まとめて子供がさらわれたらどうするんだよ。
アメちゃんひとつで笑顔になっちゃう、まだ本当にかわいいお子様たちだらけでさ、これからこの子をどうやって食わせていこうと思ったんだよ?なんて思ってると、いてもたってもいられなくてさ。
カミサンに、この子達含めてどうにかしてやりたいんだけど、と言うと、首をすくめて「言うと思った」と苦笑い。どうにかなると思うんで、もう少し付き合ってとお願いしたんだ。
この子達も、良く見ると服はボロボロ、あまり良い食事も出来てないみたいだし、表情も良くないよなぁ。
まるで最初のイデアみたいだなんて言うと、カミサンはくすっと笑って、近くの子の顔をタオルで拭いてあげたりしてるの。
あれっ?タオルと水どうしたのカミサン?
あ~魔法のかばんの中に入れてたんだね、タオルにプラスチックの桶に、水何本か。本当に準備いいなぁ~
う~ん、せめてここら辺に水が湧き出る場所があればいいんだけどなぁ~なんて思っていたら、子供の一人が「洞窟の中に水がいっぱい溜まってるところがあるよ」なんて言ったので、みんなに案内してもらうことにしたんだ。
湧き水の一つでも出てれば、子供達を綺麗に出来るんだけどね。




