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アデルくんの授業 その2

「ごちそうさまでした」と手を合わすと、アデルが「そりゃなんだい?」と聞いてくる。


聞いてみてば、こちらは自分達が信じる神様にお祈りしてから食事を食べる習慣があるらしいんだけど、俺達みたいなのははじめてという事だったので、自分なりの解釈で説明する。


「いただきます」は、自分たちが命を頂いているという事を自覚すること。

すべての作物を作ってくれている人や、料理を作ってくれている人に感謝しながら言う言葉。


「ごちそうさま」は作ってくれた人への感謝の気持ちと、おいしかったですという気持ちを込めて言う言葉。


人によって解釈は違うと思うけど、俺はそうやって思って言ってるという事を言うと、ふ~ん、神様じゃなくて人やモノに対して言うんだと、面白がってる様子。


「じゃあ、俺も、母ちゃんに「ごちそうさま」かな?」

と言って手を合わす真似をするアデルに好感を持ちながら、今まで聞いてきた【身近な食糧事情】と【通貨】の話を聞いていると、今から出すものがとってもヤバイものじゃないか?と思ってしまい、思わず周りを見渡す。


あいにくお客様は俺達だけのようだったので、アデルとアデルのお母さんに「申し訳ないが俺の品物を見ていただけないか?」とお願いして一緒の椅子に座ってもらう。


俺が用意したのは「砂糖」「塩」「胡椒」

中世ヨーロッパでも受け入れられやすそうなものを用意したつもりだったんだけど、入れ物は現地調達でいいかな?と思い、プラスチックの小皿くらいしか持ってきてない。


とりあえず一袋ずつと思い、机に並べてみた。


砂糖は、1kg228円の上白糖と書いてあったビニールに入ったもの。

塩は、1kg320円のCMが印象に残ったメーカーのもので、同じくビニールに入ったもの。

胡椒は、30g250円のブラックペッパーホウルというものをビニールで用意。一応ミルというものも買って所持してるけどここでは出してない。


それらの端をハサミで切り、すこしずつ出して感想を聞こうとすると、


「母さんこれ!!」

「・・・いやぁ・・・あんたとんでもないもの持ってきたね・・・」

一通り味見をした親子が一点を見て驚いている。


・・・それは「砂糖」・・・


なんでも、この世界で甘味を結晶化させて形にしているものはないという事なんだ・・・甘味は果物や牛乳からとるのが一般的らしい。


その他、塩や胡椒に関しても、通常ここまで不純物がない状態のものは見たことがないらしく、アデルやアデル母さんでは手にあまるものらしい。


「うん、とりあえずあたし達には手に余る案件だねぇ、アデル!ちょっとひとっ走りして雑貨屋の旦那さん捕まえてきて!」

「うんわかった!あんたたちどっかいかないでおくれよ!頼んだよ!」なんて親子のやり取りを見ていると、ふと勇気の事を思い出し笑ってしまう。


俺が笑っているのを見て首をかしげているお母さんに、いや、仲が良いんですね、と声をかけると、「旦那が亡くなってさ、女手ひとつで育てたんだけど、割と素直でいい子に育ってくれてるよ」と笑顔で言い、「あー今日は店じまいだ!大変な一日になりそうだな」とやれやれと言った表情で店のカーテンを下げる。


なんかすいません、エラいことになってしまったみたいで、というと、


「いやね、あんた達はあたしたちにとって、とても良いものを持ってきてくれたのよ、それもとびっきり良いのをね!だけど、あまりに良すぎるもんだから、あたしらが持て余しちゃってるだけなのよ、全然気にしないでね。何もない店だけど、こんなおばちゃんと一緒に待っててくれるかい?」


と言ってくれたので、じゃ、俺らにいろいろ教えてくれますか?俺らここら辺の事も、この世界の事も全くわからないんですよ。身近な事からなんでも聞かせてくれませんか?というと、「それだったらあたしにも出来るかね」と俺らの目の前に座り笑顔で話し出す。


生活全般の事から、この国の事、途中から息子たちの成長話なんて脱線もしたけど、息子を置いてこちらに来ていることを話すと、お互い頑張ろう!なんて言いながら泣いたりもしてくれている。


そんなお母さんを見て、アデルに会えて良かったし、この異世界で少なくともいきなり人に騙されて帰るという事だけはないのかな?とほっとし、カミサンと三人でその場の会話を楽しんでいると、アデルと、50代と60代くらいの男性二人がついて歩いてきている。


「ぉっ、来たね。まぁ~そこらへんに座りなよ、あ、村長さんも来たんだね。」とお母さん。


「そりゃね、あんなものを見せられた日にゃ、俺の手にも余るよ」と、こちらは雑貨屋さんらしい。


「ワシもこんなものはじめて見るわい。果たしてどうしたものかのう」と、こちらは村長さんらしい。


皆さんわざわざありがとうございます。と夫婦で頭を下げると、いやいや、こちらこそ・・・と言いながら、何となく場の空気が柔らかくなっていくのを感じたので、話し合いをはじめる。


・・・と言っても、問題はわかってるから、みんな頭を悩ませるだけなんだよね・・・


未知なものや、品不足の品物だけど、品が良すぎて値が付けられないという、売り手としてはとっても贅沢な悩みなんだけど、正直、俺がここに来たのはあくまで「イデアを探すため」だし、商人というのはあくまで仮の身分として名乗っているだけだから、正直、原価で販売してもいいんだけどさ、


あまりに安すぎたりすると、周辺の村や町からの反感を買うのは目に見えているので、いったいどうしたら良いものか?と、村側の皆さんが頭を悩ませているのが良くわかります。


正直カミサンに移転の魔法を使ってもらって往復すればいくらでも砂糖、塩は手に入るし、軍資金も行っちゃ悪いけどかなりあるので、最悪、周辺の村を回って塩をまきまくってもいいんだけど、せっかくこうやって縁が出来たのに、それを不意にするのもなんだか嫌だなぁ~と思う俺。


結局、


「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ駄目だ・・・・どうしても良い案が浮かばない(ねぇ)」」」」と、4人同時にギブアップしてしまったので、とりあえず、自分で沢山所持している塩、砂糖、胡椒は自分で持っていることにし、塩だけ二袋、2kgを雑貨屋さんに卸す事にした。


一袋200G(2万円)を提示されたんだけど、元値が元値なんで、これから何か協力いただくことがあればお願いしたいと言い、二袋で100G(1万円)で手を打ったんだよね。


そして、イデアの家に泊めてもらいたいとお願いしたところ、快く承諾してくれたので、宿泊代として塩一袋を渡し、改めてよろしくお願いしますと頭を下げると、こっちが申し訳ないよとお母さん。


今のところは信頼がおける方のところで、いろいろ考えたいのもあり、カミサンもそれに同意してくれたから良い手かな?


あとは、この村に何があるか見てないし、カミサンが拾っているイデアの魔力の残り香的なものを追いたいのもあるので、とりあえず今日のお話はこれまででと言い、明日、また何かアイディアを持ち寄って考えませんか?と言ったところで、塩会議はお開きになりました。


どうせやるならみんなが笑顔になる商売がいいなぁ~

自分だけ儲けるのは簡単かもしれないけど、この人達の笑顔を消すような商売はしたくないんだよね・・・どうしようかな?


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