救世主登場?その名は・・・ その1
呆然とし、自分の不甲斐なさを感じ頭にくる。
何とかイデアを連れ戻して、馬鹿な事はやめろ!と全力で止めたいが、俺にはそれをする手段がない。
さっきから、イデアが封印されていたパッケージや説明書を読んでいるが、何も手掛かりを掴めない。
何かの手掛かりになるかと思い、イデアが住んでいた場所、彼女の立場などを整理して書いて見る。
・メリアデスという領主の奴隷として長い間働いていた。
・狩猟遊びという単語が出る限り、少なくとも近代的ではない。
・奴隷制度がある、中世ヨーロッパのような世界である。
・鉱山がある、山に囲まれた地域であるらしい。
・人間が上に立ち、亜人は奴隷になっている地域らしい。
・魔法は特権のある人間しか出来ないもの(偉い人しか出来ないとの発言から)
ダメだ!こんな事しか思い出せない!!
焦れば焦るほど、怒れば怒るほど、徐々に冷静さを失い、正解から遠ざかっていく気がするが・・・正直、俺に出来る事はないか?なんでもいいんだよ!
自分に出来る事か・・・
そう言って、息子は朝から宿題やってる。
宿題早く終わらせて、おねいちゃんが帰って来たらいっぱい遊ぶんだ!なんて言ってる。そうだよな、きっと帰ってくるよな。本当はすぐにでも追いかけたいけどな。
自分に出来る事。
カミサンはソファーに座って何かブツブツ言っている。
ああいう時は、必死に何かを考えている時だから、しばらくほっとこうって思ったらさ、なんかカミサンの周辺がおかしいのよ。
ジジッ
ザッーー
う~ん・・・なんといえばいいんだろう?
昔のテレビで、テレビの放映時間が終了すると、画面がざーーーーって音と同時に砂嵐のような画面表示になったんだけど、あれに似たような表示がカミサンを囲ってるのよ。
な、なんだこれっ!と驚きながら、カミサンを囲ってる砂嵐を退かそうと手をかけようとすると、
「さわんな!黙ってろ!」と、はじめて聞く暴力的な言葉に、攻撃ではなく必死さを感じ、静かに見守る事にした。
よく見ると、カミサンの足元には沢山のメモ用紙があり、何やら関連性を思わせる文字が沢山書かれていたので、それらを手にすると、「異世界に行く方法」と書いてある文字を見つけ、思わず読み出す。
・コンビニアルテミスを探す
「時間がないので却下」と書いてある。
そうか、全てはあのコンビニからだから、はじめから探せば良かったんだ!と思いながら、スマートフォンで情報を探すも、検索にものってなく、記憶していた店舗の位置には違うコンビニがあるらしいことがわかった。
・ゲームの世界で受け取った特技、スキルの活用。
ん?なんだこれ?
確かにカミサンはゲームの世界に行った事はあるけど、そんなものあったっけ?
確かにゲームの世界に入って、いろいろなモノを頂いて来て、それらが魔法のかばんに入っている事は知っているけど、俺がテレビ画面で見た表示の中に「スキル」なんて表示はなかったし、魔法を習得するのに、魔法を買うというゲームはあったけど、スキルを買って装備するゲームをやった記憶がなかったよな・・・
なんだろう?この「スキルの活用?と疑問に思っていると、「さっきはごめんなさい」と言いながらこちらを見るカミサン。
カミサンを見るまで、自分が何もできないとあきらめていたから、絶対にあきらめないと必死になっているカミサンを、尊敬することはあっても怒ることはないよと言うと、ちょっと泣きそうな顔をしながらも、「スキル」について教えてくれた。
以前イデアとゲーム内のアイテムやお金を集めた時の事。
とあるゲームの世界に入り、アイテムをもらった時、とあるキャラクターに話しかけられたそうだ。
ゲームの世界の人間が、自分の意思で動いていることに驚きながらも、イデアを待たせて話しかけると、
「長い間私を愛してくれてありがとう。どうぞ私をお使い下さい」
と言って自ら魔法のかばんに入り込んだらしいのだが、本当に一瞬の事だったので驚いたのと、イデアの事でいっぱいいっぱいになってしまい、今まで存在を忘れてしまっていたという事だったんだ。
そのキャラクターの名前は「自由騎士マネックス」
他のキャラクターのスキルや特徴をコピーして、そのスキルや特徴を用いて敵を攻撃するサブ的な存在のキャラクターなのだが、自分でそのキャラクターを操作することが出来なかったため、自分は早々に使わなくなった。
ただカミサンはこのキャラクターをいたく気に入り、この自由な感じが好き!と、最後まで愛着を持って育てたと言っていた。
ゲーム上では、他のキャラクターの攻撃時に、その攻撃を真似して攻撃を重ね合わせて、攻撃力を倍増させたり、守りの魔法を見て攻撃力アップの魔法やスピードアップの魔法を重ね合わせ、パーティーメンバーに貢献したのだが、レベルの低いうちは、属性のある魔法に相反する魔法をかけ魔法を打ち消したり、攻撃に合わせて攻撃をしたつもりが、自分にダメージが行ったり・・・と、とても頼もしいとは言えないキャラクターだったので、俺は見ていてイライラしていた記憶がある。
ただ・・・そんなキャラクターの大きな特徴であるスキル「まねする」が、もしかしたら役に立つのではないか?と思ったりしてたけど、マネックスが入っているであろうかばんはどこにあるのかわからないんだ。
まずは、駄目もとでイデアと唱えた移転の魔法を使ってみようという気持ちになって、さっきの現象を起こしていたと言うことだった。
いくら現実世界でイデアが魔法を使っていたのを見ていたと言っても、カミサンが魔法使いって訳でもないし、よく試してみる気になったね、というと、「早くイデアに会いたい」との事。
自分に魔力があるかわからないけど、この世に神様がいるとしたら、もしかしたらひとつくらい魔法をつかわせてくれるんじゃないか?
もしかしたら、少しは助けてくれるんじゃないか?なんて思いを胸に、必死にイデアと一緒に唱えた魔法を繰り返しているんだけど、どうしてもあの魔法が出来ない!と自分が座ってるソファーに八つ当たりをしている。
そんな時、ピンポーンと音が鳴り「宅配便です」との事。
ちょっと勇気に受け取りをお願いして、カミサンを慰めていると、「ホテルからだよ」との事。
あっ、と思い出して、料金着払いの料金を宅配便のお兄さんに渡したあと、荷物が入っている段ボールを開けると、ホテルからのお礼状と一緒に見慣れた青と白のかばんが入っていた。
「あ、魔法のかばん」
そうカミサンが言った瞬間、魔法のかばんが自ら開きはじめ、一人の紳士が登場したんだ。
ひらっと飛び出してきたかと思えば、「マドモアゼル・・・貴女に涙は似合いませんよ」とカミサンの前で片膝をつき、華麗に白いハンカチを差し出す紳士・・・
「自由騎士マネックス」その人であった。