内緒話と契約と その2
「異世界転生、いや、移転か・・・イデアさん魔法使えるんですか?」と企画部さん。
男性30代前半。スーツ姿がとても似合う落ち着いた雰囲気を持つイケメソ。
「やっぱりイデアちゃん妖精?いや、妖精って言ってなかったから、きっと亜人?獣人って奴ですか?何にせよ、異世界って私もファンタジー小説見なかったら信じてないですよー」と広報さん。
女性20代半ば。わくわく感が消えてない、興味津々でスニーカーでバタバタ動き回る、リス見たいなイメージの人。
「ファンタジー馬鹿コンビが、妙にリアルな獣女子を連れて来たなぁと感心してたけどよ、まさか本物とはな恐れ入ったよ」とカメラさん。
こちらは、30代中盤の渋いおっさん風男子。重い機材を持ってるから体ががっしりしているし、身長もあるので、あれで黙って後ろに立っていたらきっと怖がられるだろうなぁ・・・
「イデアさんのしっぽ、妙に光が当りが良くてすんごい気になってたんですよね~今度さわらせていただけないかなぁ?」と照明さん。
こちらは、20代後半の好青年ってな感じ、でものんびり屋さんでマイペースな感じだから、カメラさんいろいろ大変だろうなぁ~
そんな方々を見ていると、「「私たちがいない間に何話してたんですか?ずるいですよー!!」」と女性スタッフさん二人が、何やら大きな紙袋を何個か持ってこちらに来る。
お二人とも20代前半のハキハキした爽やかな女性で、撮影中もイデアの事をいろいろ気にしてくれていただけに、あとでまたお礼と、イデアの事話しておこっと思った次第です。
そう思っていると、スタッフさんが紙袋をこちらに持ってきてくれたんですよ。
何かと思ったら、イデアの私服を選んで買ってきてくれたという事で・・・
「私、体育会系女子なんで、可愛いのわからないんですけど、動きやすい服装が好きみたいだったので」と、ソフトボールの主将でもやっていたのかな?と思ったジャージ姿のスタッフさんから1つ。
「好みはあると思いますが、いつまでもステテコとTシャツでは可哀そうだと思ったので、無難なものを選んでおきました。あとで持って行ってあげてください」と、こちらは白いシャツとパンツルックが良く似合うインテリ系女子っぽいスタッフさんから2つ。
こちらの事情を分かって買ってきてくれたんだ、と、じーんとしながら、感謝をし、かかったお金は?と話すと、「あ、企画部さんに請求しますから、あとでまとめて企画部さんとお話してください」との事。
あ~はいはい~なんて言いながら、請求書などを回収する企画部さんを見ながら、なんとなくこの人達はいつもチームを組んでいろいろやってるんだろうなぁ~
俺が働いている場所は、人間関係ぎすぎすしてるから、きっとこういう関係は生まれないだろうなぁ~と思うと、正直羨ましいと思ってしまった42歳の俺。
人って年齢じゃないよなぁ。
持ってるものと心掛け、そしてハートだよなぁ~と感じた次第です。
そう思ってたら「あっ!」と企画部さん。
「申し訳ありませんが、契約のお話を全くしていませんでした」と謝罪されたので、俺もそこで思い出したわけですよ。
あのごたごたの中、カミサンとちょっと話してたんだけど、正直言うとお金はいらない。
最悪の最悪、イデアのかばんの中に入ってる億のお金があるし、今回の撮影だって降って沸いてきた出来事で、そんな偶然できたお金をあてにして生活をしたら自分達が駄目になると思ってるから、それだったら寄付でもしてもらったほうがいいんじゃないの?って話してたんだ。
なので、こちらからの条件として。
・お金はいらない。
・企画が通り、映像などから収益があるようでしたら、自分達家族分は全額寄付にまわしてほしい。
・今回の映像。記念としてもらいたいので、複製できるようでしたらもらいたい。
・イデアを「普通の人」として社会に送り出したいので、さきほどの話は他言無用。ただし、やむ得ない事情があった場合は必ず俺に連絡をよこす。
と話し、おおむね同意してくれたので、ほっと一息。
企画部さんからは、それらを同意してくれた上で、
・撮影を明日で終わらせたいので、明日は朝6時から遅くまでかかることを了承頂きたい。
これはこちらの都合もあったので仕方がないですし、俺の仕事の休みを気にしてくれた企画部さんの提案でしたので、ありがたく受けました。
・他言無用の件。このスタッフは口が堅いので大丈夫、信じて欲しい。
ただし、上層部次第ではどうしても事情を説明しないといけないため、基本、「たまたま通りがかった家族を引き留め無理やりお願いした。イデアは海外の方で滞在期間が短く、芸能活動など興味がないという事で、住所などもお断りされ聞けなかったので、今回の撮影だけという条件で協力をお願いした」という設定ので話をする。辻褄はこちらで合わせるので了承頂きたい。
そんなんで大丈夫かな?なんてことを思いながらも、なるべくこちらに配慮してくれようとしているのが感じられたのでお願いしました。
そんな事を話していたら、もう時間は22時を回っており、さすがに遅いと解散になりました。
今日もここでお泊りか・・・と言う体育会系スタッフさんの言葉に申し訳ない!と謝りながら、スタッフ通用口へ歩いている途中。ふと天井を見ると月が見えたんだ。
実はイデアは、竹取物語の女の子なのかもしれない。
出会った場所や現れたところは違えど、いつか月の世界・・・イデアは異世界か・・・へ帰っていく気がしてならない。
親の気持ち子知らず、なんていう言葉があるけど、イデアも勇気も俺なんか気にしないで自分の信じる道を進んでほしいと思うし、俺もそれを邪魔したくないから、親のエゴは押し付けたくないなぁ~ でも、ついつい子供だと思っていろいろ言っちゃうんだろうなぁ・・・とぼんやり思った俺。
年を取るといろいろ余計な事を考えてしまうのかな?と笑いながらホテルへ帰りました。
イデア、カミサン、勇気にもいろいろ話しておかないと。
明日は早いし遅いぞ・・・
頑張るぞ・・・