果たしてそれは救済か、それとも......
建物に囲まれ視界が制限されている薄暗い路地で、僅かな月明かりが建物の隙間を縫い、暗闇を貫きある一点に差し込む。その月明かりが照らし出すのは一人の少女。路地の壁に背を任せる状態で眠っている。
目を引くのは月光に反射する煌びやかな白銀の髪。月の光に照らされる少女の銀髪は繊細で清廉で煌びやかで、青年は今まで見たことがないほどに、それを美しいと感じた。青年の目に強く焼き付くその少女はまるで精緻に精錬に作り上げられた人形のようで、不思議な雰囲気を纏っている。その雰囲気を最もうまく言葉にするのならば、それは普通じゃない。その少女は異常であった。そう、何か現実離れしているような、夢の中にいるような、そんな気にさせてならない。髪の色も、顔立ちも少女を物語る全てがまるでお伽噺の様で。
”だから青年は時間が止まっているように少女に永遠に見入ってしまう。”
まさに青年と少女は抜き取られた額縁の様で、その数秒間は永遠であり、されど数秒間であった。
青年は幻想に呑み込まれた。意識は虚空へと霧散していき、思考は切り取られた。
その時間の停留を崩すのは、少女が眠りから醒めたからか。停止していた空間は再び動き始める。
「.........」
青年の双眸と少女の双眸が交錯する。闇に埋まった瞳と光の透き通った瞳。黒い瞳孔と浅葱の瞳孔。
全てを透き通す様な浅葱色は、美しくも儚く怯えた。
少女は青年の存在に怯えたのだ。
「......!!」
青年を酷く警戒する少女は青年の一挙一動に過敏に反応し、立ち上がったと思うと、次の瞬間青年とは逆さの方向へと走り出した。
「!!!......待ってくれっ!!」
咄嗟に青年は逃げ出す少女を無意識に追い掛ける。
彼我の距離は10m程、しかし紆余曲折した道が更に複雑に絡み合った路地では、そうそう簡単に追いつくものでもなかった。
それどころか少女の背中が視界から外れ、遂に見失ってしまう。足音を頼りにしようとも音が反射して正確な方向が捕えられない。
それでも青年は探し続けた、いや、探し求めた。少女を知りたいと、そう思った。だから走り続けた。
「ヤダっ!!」
甲高い、か細い悲鳴が青年の鼓膜を叩く。
音を逃がさないように、離さないように、縋るように声のする方向へ駆け出す。光よりも早く何よりも早く。一秒でも惜しい。貪欲な闇は光を欲し続けた。
「うァァァァーーー!...」
少女は3人組の男に襲われていた。
それが見えた瞬間、少年はその男達を即座に排除した。危険も何も顧みずに狂乱とかして纏めて意識を刈り取った。
少女は青年から逃げようとするが、膝から崩れ落ちたかと思うと気を失った。
青年は少女を抱き抱えると路地を歩み出した。
空はほんのりと藍色がかってきて月は大きく傾いていた。