灰色
真っ白で汚れ一つ感じさせない清楚な床は最奥まで続き、そこからは階段が伸びている。階段を二階下り、そこから向かって左にいくらか足を進めれば体育館棟へと続く連絡通路が見えてくる。
連絡通路はガラス張りの壁で囲まれており、壁越しに覗く事が出来る外の様子は、既に雨も止んで灰色の雲が空1面を覆っている。乱れもしわも無い灰色がただ延々とどこまでも伸びていているせいか空を手で掴めそうな程近くも感じるし、どこまでも遠くへ突き抜けているように高くも感じる。妙な錯覚を引き起こす絵の具で丁寧に塗り潰された様な空を見ていると、その虚空へと意識が吸い込まれてしまいそうだった。
連絡通路の床は音が非常に鬱陶しいほどによく響く。
前からも後ろからもはたまた横からも床と靴底が接触し擦れる散発的な単発音が止まず耳に響き、心地が悪い。
視界に映るのは四方八方人間人間人間人間。隙間から見え隠れする外の景色もこれでは満足に見ることも出来ない。
視覚、聴覚、思考が騒がしくなってくるとまるで自分の世界が他人の世界と混濁しているようでとても快いとは言えなかった。
通路を渡りきり、再び階段を一度上ると、今度は大きく開けた広間に出る。そこに自分も含めた多人数が順々と中へ入っていき、広かった空間もやや息苦しいように思えてくる。
列に紛れて、クラスメイトに混ざって移動する事数分、漸くアリーナに着くと、学級委員が号令をし、整列を促す。
アリーナの入口は今も止めどなく流れ込む生徒で埋め尽くされていた。
「えー...、今日をもって今年の二学期も無事終了となりますが、皆さんはこの学校の生徒であることを忘れず、相応しい行動を取れるように各々が羽目を外し過ぎず有意義な冬季休暇を過ごす様に気をつけて――――――――――――――」
昨年も聞いた様な、内容もあまり大差ない校長のそれなりに長ったらしい話を聞き、その他も諸々諸教諭方からの連絡事項も終わるとアリーナ出入口に近いクラスから次々と教室へと戻っていく。
行きとは少し変わった、どこか浮かれた雰囲気に呑まれた同じ道を、教室へと足を進めた。