SHR
キーンコーンカーンコーン……
学校の朝のチャイムの鐘が鳴る。全校舎内に響き渡ったそれは、朝のショートホームルームの開始を告げる鐘である。
しかし未だにこのクラスの担当教諭はやって来ない。
チャイムの余韻が鳴り終わるまでには全ての生徒は席に着いていた。チャイムギリギリで登校してきたものは多少の汗をその額に滲ませながらもギリギリに間に合ったことをまるで武勇として語らんばかりの誇らしげな顔で席に着く。そうして、その男子生徒を会話のきっかけの餌にするように近くの生徒たちは教諭が来るまでの間、ごく自然体で快活な時間を過ごす。いつものように。
教諭が来るまでのごくわずかながらもどこか快い時間の過ごし方は、何も友達との何気ない会話だけというわけではない。
朝早くから学校に来ては、チャイムが鳴った後もできる限り勉強に励む者。端末をいじる者。ただ漠然とその時を待つ者。寝ている者。寝ているふりをしている者。
俺に関して言えば、俺は教諭がその扉を開ける時をただ漠然と待っていた。何も考えることも無く、何かをするでも無く、ただ、呆然と待っていた。
そうして各々がわずかな空き時間を思い思いに満喫していると、教室の扉がガラガラと開き、漸く担任がやや急いできた様子で教卓の前についた。
それを合図にクラスの喧噪も止み、朝のSHRが始まる。
今週の週番が号令を掛け、全員が起立すると朝礼を済ませる。
生徒全員が席に着いたのを確認すると早速とばかりに担任が遅れてきた埋め合わせをするかのように生徒の出席確認を事務的に行う。
有馬……五十嵐……伊藤……大原…、――――――
名前の若い順に廊下側の生徒から次々と流れるように名が呼ばれてゆく。
――――――――――――――……………………、葉月………………古谷……――――――
葉月という名を呼ぶのに少々流暢さを欠きながらも担任は残りの生徒の名を呼んでいった。
それが終わると今度は報告重要事項を口早に、淡々と述べてゆく。
「えー……、終業式はこの後九時二十分開始予定なので間違えても遅れないように、各自自分のロッカーを空にしたらなるべく早くアリーナに集合するように、最低でも終業式五分前には既に整列の状態であるように――――――――」
生徒は席に着きながら静かに担任の話に耳を傾けていて、担任の声だけがその静寂から浮いてしまったように響いていた。
そうして話が終わると、朝のSHRの終了の挨拶を済ませ、再び教室を喧噪が包み始める。
担当教諭はまだまだやるべきことが残っているのか足早に教室を出て行った。
クラスの中の生徒がいくつかのグループに固まって下らない談笑を交わし、教室を騒がしくも明るい空気が流れる中、窓側のカーテンは窓から差し込む冬の冷たい風に棚引きながら…………。
誰もが冷たい風を避けるように、そこだけ暗鬱な空気が漂っていた。