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理想都市ノア  作者: 伊佐伊波
3/9

孤立無援

青年は無気力に無関心に不干渉なまでにふらふらと歩いていた。

 

 自宅である小さなマンションの一室を出るといつも通りの見飽きた光景が数十分と続く。

 初めは住宅街の道を進み、駅で改札を通り二つほど隣の駅まで。駅を出た先はたくさんのビルや露店、デパート。車道は多くの車がその車輪を止めどなく回し続け視界を埋め尽くす。

 人の数も家を出てから時間が過ぎるほどに増えていく。

 閑散としていた静かな朝の静寂は、やがて忙しない人間の喧騒に呑み込まれる。

 行きかう人を危うげに躱しながら人工建造物に囲まれた歩道を進んでいく。

 人ごみが鬱陶しいのに、”心をもっと落ち着けておきたかった”のに、まるでそれを陰険に邪魔する様に歩けば歩くほど人間の数は増えてゆく。


 目的地にあと数分で着くであろうところで。


 周りにいるのは皆同じ身なりをした者たちだった。

 皆一様に青年と全く同じ格好をしている。

 

 そう、周りにいるのは学生であり、青年と同じ方向へと皆がその足を進めていく。

 同じ方向に同じ身なりで足を進め続ける、まさに若さを持て余しているといえるまだ幼い学生たち。

 

 そして若さを弄びながら持て余す彼らは少しずつ他人との距離の測り方を覚え、独り立ちしていくための準備を一歩、また一歩と進めていく。

 しかし、彼らの誰もがそれを順調に身につけていくわけではない。一定の割合で必ずそれに適わないものが現れる。曲解的に言えばそれはきっと不良品に違いない。

 この景色を見るにつまり、良品とは他人と親密な関係を築けているもの、登校中に友人と笑顔を互いに見せつけ合い、より信頼を深め合っているのがそれだ。よって不良品とは、他人との距離の測り方がわからず孤立してしまったものたちである。

 そして良品と不良品の間には確かな差が生まれる。それは副産物から発生する差、いわゆる格差である。

 人間とは群れる生き物である。これは遙か昔から変わらない事実であり、人間の本質である。人間は群れに混ぜてもらうことで安心感と優越感を得る。こと優越感に関しては、群れの偉い位に登れば登るほどそれに比例してより多く満たされることができる。ただ、この群れのうちで激しい優劣をつけることはそうそうない。なぜならば同じ群れにいるのは優劣はあっても仲間であるから。

 だからこそ、彼らは己の優越に浸るためにどの群れにも所属していない劣等者にそのあまり余った欲を、実感という名の悪辣な矛を向けるのだ。

 この人間社会の仕組みはこれからもきっと変わらない、人間という生き物が存在する限り絶えないものであり、真実なのである。

仮に孤立者がいなくなり、全てのものが群れに交わることができたとして、結局は再びその群れから除外された劣等者が生まれるだけなのだ。

 つまり、これは需要と供給の関係にあるのだ。だからこそ真理は不変なのだ。



 



 





   ”だから俺はそこから逸脱した。何者にも縛られない一匹狼になろうと、そう固く誓った。”



 


 

 

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