キャンバス越しのオパール
短いです。
それは、1枚の絵だった。一体どんな画材を使ったのか碧く輝くその絵は、まるでキャンバスそのものが宝石であるかのように光を様々に反射して、深い深い湖の底のような、妙味な色彩を湛えていた。
その色を数分ほど堪能したあとで、その碧はどうやら、トンネルの壁の色だったらしいと気付いた。
奥まで続くトンネルには、点々と花が咲いている。
そして、真っ直ぐに歪んだ道の真ん中に、オパールが立っていた。
いや、違う、正確には少女だ。少女が立ち尽くしている。しかし、彼女は小さな宝石達の中で、一際大きく輝くオパールのようであると、私の目に映ったのだ。
私はオパールが好きだ。白い虹。柔らかく、しかし鮮やかな、言葉に形容できぬ色合い。ただ輝くダイヤモンドよりも、あの奇妙な輝きこそ素晴らしいのだと、私は信じて疑わなかった。
だからこそ、オパール色の少女は、一瞬にして私の心を奪い去っていった。
ほんの少し、作者の稚拙さを映した風になびくワンピース。少し違和感を覚える形の中、煌めく淡くも鮮やかな極彩色。
一本一本細やかに描かれた真白の髪は、その奥に沢山の色彩を秘めながら、風に揺らめいて少女の顔を隠していた。
微かに見える口元は、笑っているのか、泣いているのか。私には到底、理解の及ばないことのような気がした。
少女越しに見えるトンネルの出口。絵と現実を繋ぐ架け橋のように見えるそれは、穏やかに眩しく少女を照らす。
おいでおいで。オパールは唄う。思わず一歩絵に近づいて、まじまじと見つめる。
しかし、その現実味のない美しさと、ほんの少し残った現実世界の良識が、この世界に触れることを阻んだ。
私はその場から、ゆっくり、ゆっくりと歩き出した。
ーーああ、さよならオパール、愛しい子。
高校の卒業制作展で見かけた先輩の作品の感想を書いただけのものでした。