六
「ふざけんじゃないわよ!
なんだって見ず知らずのよく分かんない人にキスされなきゃいけないっての?
あんたがどこぞの偉い人だろうと、あたしには全然全く子猫の毛ほども関係ないわ!
今すぐ謝罪しなさい男らしく!」
「……すんません」
「女の子の扱い方も心得てないなんて、あんたそれでも男なの?
たとえ中学生だからってもう立派なレディなんだから!
節度を持って接しなさいよね!」
「……はい」
ガルダの頬は赤くなっている。
当然ながら正当防衛だ。
気分は最悪。不機嫌は絶好調。
ガルダがどこの何様だろうと、いまあたしには一人の男の子。
だからしっかり謝罪をしてもらい、さっさとシェルシェたちのもとへ送ってもらった。
「うわ風御子様じゃん!」
「なんと!これは一体……
風御子様、頬はどうなされた?」
エンとウォゼフがいる。
緑の太い幹が強そうな、ケヤキの木に降ろされた。
二人は、あたしとガルダの顔を交互に見て驚いていた。
「…我も戯れが過ぎた。この女子を任せるぞ」
ぐったりした顔のガルダ。
あたしはその顔を見て、吹き出しそうになるがなんとか堪える。
「ではな、女子の雲使い」
「またね、風御子様」
風に掻き消えるようにガルダは姿を消す。
状況が飲み込めない二人は首をかしげるばかり。
「なんだか随分仲が良くなられたのう」
ウォゼフは驚いた顔のまま、呟く。
「…そんなことないわ、あんな無礼者なんて大嫌いよ。
それより、やることがいっぱいあるって、シェルシェから聞いたの。
何をすれば良いの?」
エンが赤い髪をくしゃくしゃと掻きながら、ついてこいと指で指す。
「風御子のぐったり顔なんて初めて見たぜ。
意外と肝の座った女なんだな」
ぶつぶつ呟きながら、エンはケヤキの木を後にする。
あたしも、エンの赤い髪を目印に、緑の道を歩いていった。




