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じいちゃんが言うに、雲使いになるにはそれなりに時間がかかるらしい。

だからじいちゃんと過ごした日々を忘れないように、とあたしに手の平ほどの小さな巾着袋をくれた。


「寂しくて辛くて堪らなくなったら、それを使いなさい。

じいちゃんはいつも風音を思っておるからの」


シェルシェに連れられて、あたしはまた学校へと歩きだした。

黙って歩いていたら、なんだか涙が出そうになる。

必死で堪え、首から下げた巾着袋を握り締める。

あたしを横目に見ながら、シェルシェは微笑んだ。


「風音は強いんだなぁ。

だいたい歴代の雲使いはねぇ、この辺で大泣きするんだよ」


ふぅん、と呟くように頷く。

泣きたくなる気持ちをごまかすために、シェルシェの話に耳を傾けた。


「シェルシェも雲使いなの?」


「ううん、ボクは雲使いじゃないよ。

えーとね…

雲使いっていうのは、正式に女神…神様から選ばれた子のことを言うの。

ボクも雲を使えるけど、《風待ち》って言ってねぇ、雲使いを一人前にするための手伝いをするんだよぉ」


どうも実感が湧かない。

ほんの数分前にえっちゃん達と山にいたんだ。

当たり前かもしれない。

ぼーっとしているあたしに構わず、シェルシェは続ける。


「これから忙しくなるなぁ。

湯浴みを済ませて、守竜もりりゅう風御子かぜみこに謁見するからね。

よし、上に戻ろっか。準備を手伝わなくちゃ」


気が付いたら学校に着いていた。

また例のテレポートかと思ったけど、あたしが普通にぼーっとしていただけみたい。

手を伸ばすシェルシェに、頷いて彼の手を握る。


……と、急に割り込むように誰かが手を伸ばしてきた。

驚いてその手の先を見る。


「ほう、これが雲使いか?

どう見ても女にしか見えぬが」


金の瞳。

作り物みたいな、顔。


一瞬その美しさに目を奪われた。

シェルシェが慌てたように、あたしの手を強く握る。


「ま、まだ儀式は済ませておりません!お戯れが過ぎますよ、風御子様!」


「心配するな。しばし借りる」


何かを叫ぶような、うなり声のような音が響いて、

……また、あたりは一変した。


何処かのお城みたいな場所…静まり返った広間に、あたしはいた。


「…なんかいろんなことが起こるなぁ…」


呆れ半分で呟く。

さっきの金の瞳の人はどこだろ、と辺りを見回す。


「我はここじゃ」


後ろを振り返ると、彼が宙に浮いていた。

金の瞳。黒い服。王様みたい。

青黒い髪は編み込みで後ろに垂らしているけど、足元までそれが続いているくらい長い。


「…あたしは風音。

残念ながら女の雲使いよ」


「そのようじゃな。

我は風御子、ガルダ。

我の新しい依り代を先に見ておきたくての」


じろじろとあたしの顔を見るガルダ。

年齢は分からない。

見た目はシェルシェと同じくらいだけど…たぶん人間と同じ年のとり方をしないだろう。

じゃ、とかじいちゃんみたいだし。


「お主…本当に女なのか?」


ガルダの金の瞳が、強く瞬く。

そんなに男みたいに見えるんだろうか。

ハーフパンツだからかな。仕方ない。

さっきまで山登りしてたんだから。


ガルダはさらに近づく。

頬に手を伸ばせば触れられるくらい。

正直そんなにまじまじと見られても困る。

珍しい動物でも見るように、髪の毛を触ったりもしないでほしい。


「あの、女の子なんで…ちゃんと扱ってください」


きょと、と金の瞳が見開かれる。納得したように頷き、あたしの頬に手を伸ばす。


「ちゃんと、か」


私の言葉に小さく呟いて、ガルダは頬にキスを落とした。


「これでいいか?」


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