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学校から家までそう遠くはない。十分程度歩いた一軒家。

近くには何かとよくお世話になっているご近所さんたちの家がぽつぽつあるくらい。

じいちゃんと同じくらいの年の方々が多いから、だいたい今の時間…お昼くらいにはゆっくり横になってるはず。

だからシェルシェと一緒に歩いている姿も誰にも見られず、家に帰ってこれた。


「じいちゃん、ただいま…あの」


玄関を開け、中をうかがう。

林間学校から抜け出してきたことをなんて説明しよう。

それにシェルシェの言っていることがまだ信じられなくて、なんとなくじいちゃんを呼ぶ声が弱々しくなってしまった。

黙って襖をそっと開く。


そこはじいちゃんが座って新聞を眺める席。


でも違った。


「やはり戻ってきたか、風音」


畳のその部屋には、ちゃぶ台を囲むようにしてご近所さんが座っていた。

シェルシェは即座に頭を下げる。

息を呑んで固まっているあたしの横で、膝を折って挨拶をするシェルシェ。


「《風待ち》のシェルシェ、お迎えにあがりました。

この度は女神のご寵愛、おめでとうござります。

…女子の雲使いですが、準備は進んでおります」


シェルシェの言葉に、じいちゃんとご近所さんたちは頷く。分かっていたかのように。


「やはり女神の御意向に間違いはなかったか。

…では風音、こちらに座りなさい。

みんなの前に座るんじゃ。

これから大事な話をする……」


じいちゃんに促され、あたしはそろりと部屋に入った。

重苦しい雰囲気。心臓がどきどきして、口の中が乾く。


「風音、わしらは村の一族。

雲を使役する偉大なる民の一族なのじゃ」


しん、と痛いくらいに静まった部屋。

みんな息もしていないみたいに静かだ。

シェルシェも黙ってあたしの後ろに控えて座っている。


「この村の民は、使役する術さえ識れば、誰でも扱うことができる。

…だが、むやみやたらに外の者に力を見せてはならぬ。


そのために、我らはかつて……多くの民を失ったのじゃ」


知らない話だ。

じいちゃんはこんなに話すほうじゃない。

まるで夢みたいに感じてしまう。


「だから村の者を護るために、選ばれた幼子だけ術を教えることにした。

だから……風音。

雲使いとなり、村を守っておくれ。

突然で驚いたかもしれないが、女神の御意向に沿えるのは、お前にしかいないからね」


優しい眼差し。

優しいことば。

じいちゃんはいつだって優しい。

あたしはだから、そんなじいちゃんが大好き。


「やってくれるかい、風音?」


手を握るじいちゃんの手は、ひどく弱々しい。でも力強い暖かさを感じた。


あたしは頷いて、じいちゃんの手を握り返した。


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