十
「起きよ、雲使い」
目を開ける。青く晴れた空が見えた。
ガルダの声がしなければ、きっと天国だと思っただろう。
体を起こすと、崖が見えた。
一面の緑が、一面の土と岩山になっている。
赤茶色の土の山が隆々とそびえていた。
「ここは…なに、山のてっぺん?」
「お主の寝ている間に、我はそこらを飛び回ったが、ここは特殊な地形だ。
まるで皿の上のようだな」
皿?
どんな地形なんだかよく分からないけれど、ウォゼフがここに下ろしたことに間違いはないんだろう。
じゃなければ、こんな土くれしかないとこに飛ばすワケがない。
できなければ帰さない、という明らかな脅迫。
…やるしかない、か。
「風御子のガルダは雲を操る方法、守竜様から心得ているよね?」
ダメ元で聞いてみる。
予想通り、ガルダは首を横に振る。
「いや。…何も知らぬ」
「そうだと思った…。
ちなみにさ、あたしじゃだめでしたーって、なったら今度は誰かがまた選ばれたりするの?」
いや、と小さく呟くガルダ。
「雲使いと風御子の契約は一度きりだ。
だめだから穴埋めする、なんて簡単なシステムではない。
だからもし…お主がいなくなったら……我はずっと雲使いを持てない」
「責任重大なのね。
雲が操れなかったらあたしたち、用ナシなワケだ」
そうだ、とガルダは頷く。
土の上にまた横になる。
空に漂う雲の群れを見て、ため息。
あのどれかを使って、谷に雨を降らせる…か。
雲を動かすだけでなく、雨も呼ばなきゃなんて無茶だ。
…ここに来てから無茶ばかりだ。
「あたしはまだ中学生なんだけどね…」
「前から気になっていたのだが、ガクセイとはなんだ?」
「人間は大人から勉強しなさいって言われてるの。
中学生ってのは、なんつーか……階級みたいなものかな」
ほう、と頷くガルダ。
どうせ分からないだろう。
竜と人間の世界のシステムは違う。
……ああ。
青の言っていたことが少し分かった気がする。
「オトナになるために、人間は勉強するのか?」
「んー…心や頭の大人なら、そうとも言えるわね。
あたしは早く大人になりたいわ」
大人になって、村の皆に恩返しがしたい。
あたしを育ててくれたのは、この村だから。
ガルダは遠くを見るような目で相づちを打つ。
「…『オトナになりたい』か…」
誰に呟いてるのだろう。
ガルダも偉そうにしてる奴だけど、悩む事とかあるのかな。
ま、とりあえず雲を動かす練習をしなきゃ。
「ウォゼフが言うには、
『雲の群れから動いてくれる雲を探す』、だったっけ……」
全部に同調することは、なかなか至難の業なんだろう。
なんせ…意志持つ雲を意志により動かす、のだから。
横になったまま、雲の群れをじっと眺める。
「どれを動かせば良いのかなぁ」
ため息。
長い練習になりそうだった。




