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チュートリアル__設定



 三カ月後、くだんのVRMMOのサービスがスタートしたその日、当然の如く彼らはプレイを開始した。昆虫の蛹のような形をした機械の中に入り、眠る。睡眠ガスが放射されるので、眠るのは一瞬の出来事である。今までプレイしていたゲームでもこの寝かされ方だったので、あっさりと恭介は眠りへと落ちていった。

 少し甘い匂いがして、意識が夢の中に堕ちた直後、彼はいきなり覚醒したかのような気分になる。さっきまで無機質な機械の中に横になっていたというのに、いつしか彼は草原の上に立っていた。事前に無線を通じて五つの機体を同期させていたため、五人組は全員落ち合うことができた。

 草原の中に、一匹の妖精が現れた。肩に載せると丁度良さそうなサイズの、蝶のような綺麗な羽をたずさえた、可愛らしい女の妖精。触角みたいなくせ毛が一本だけピンと立っている。

 チュートリアルのためのものなのだろうなと、察しがついた。じろじろと眺めていると、不意にその妖精が口を開く。名前はアゲハというらしい。確かに、翅の模様は黒アゲハをモチーフにしているようだ。


「ようこそ、ムソウ・オンラインへ」


 流暢な声で彼女は喋り出した。続いてすぐにユーザー情報の設定を始める。


「自分の名前を頭の中で想像してください」


 これはもう迷うことはない。以前使っていた自分の名前を使うだけだと、全員が一斉に以前のVRMMOでの名前を想像する。


「キョースケ、ツバサ、カグツチ、ワンコ、ドレミで良いですね?」


 恭介が五人分の意見を代表して、首肯する。設定の続行とばかりに、間髪を入れずにアゲハは喋り続ける。


「次に、自らの戦士のタイプをお選びください」


 目の前にいきなり看板が現れる。大きな看板で、そこには五種類の戦士のタイプが載っていた。一つ目は剣士である。戦闘用の能力の特徴は“自分の使用する武器に特殊な能力を付与できる”というもの。近接戦闘に特化しており、耐久力は最も高い。剣士と言ってはいるがハンマーなども扱える。

 次に目に入ったのは魔法使いの看板だ。魔法を使うためには長い詠唱を唱えなければならない。ただし、何の意味もない文字の羅列なので敵からどのような魔法かばれる心配はない。いくつかルールが設定されているので、かなり複雑である。耐久力は弱い部類に入る。

 重要なのは、木、水、火から属性を選び、その一属性と補助魔法しか扱えないとのこと。ただし、補助のバリエーションは広いため、実施る最も多彩な戦闘を繰り広げられる。

 次に現れたのは僧侶だ。僧侶は回復の能力なのだが、人によって回復するために必要な条件を各々設定できるようになっている。手をかざす、近寄る、など色々と考えられるが、どのようにするかはプレイヤーが想像できる。攻撃手段は、聖なる光の力を用いるという事で、レーザーが使われる。どのようなルートでレーザーが使われるかはプレイヤーの想像力に委ねる。

 最も耐久力が低いのがこのジョブだ。


「んー……何か予習してきた通りだね」

「まあな。とりあえず全部に目を通しとこう」


 続きを眺めてみると、弓師だった。弓師の能力は“矢、あるいは弾丸の軌跡や性質の想像”とのことだ。分裂する弾丸、追尾する弾丸、火矢を撃ったりもできる。耐久力は低くはないので、安定した立ち回りが可能である。

 そして最後に超越者。特殊な超能力をその身に宿すもので、最もトリッキーな戦いになる。どのような能力を想像するかは完璧にプレイヤー任せだが、ある程度は運営が強すぎる能力にならないように制限するらしい。


「……やっぱり宣伝通りだ。全部読まなくて良かったんじゃ……」

「そう言うなよ。俺ら五人でタイプが五種類だから、一人一人バラバラでいかねーか?」


 愚痴るように呟いたのは、ショートカットの女子、プレイヤーネームはワンコこと犬山 かなえだ。ソフトボール部に所属しており、かなり男勝りな性格である。一年生ながらベンチに入っているので実力はあるのだが、緊張するくせは中々抜けないらしい。

 それを諌めたのは恭介で、恭介の提案に五人とも乗っかった。


「まあ、あたしは何でも良いよ。余ったので」

「そうか、俺剣士もらっていいか?」


 どれを選んでも面白そうだと思ったのか、かなえは一歩下がって他の人に選択の自由を譲った。思慮深いというよりも彼女には少し面倒くさがりな一面もある。

 そして、高いテンションで剣士を指定したのは、提案者の恭介だった。剣士は想像力が武器だけにしか出ないため、あまり反映されないという理由から不人気なのであっさりと譲られた。


「……どうせ魔法使いは俺以外無理だろ」


 そう言って名乗りを上げたのは土山だ。学年トップの成績を常に保っており、頭もそれなりに回る。記憶力は他の追随を許さないので、面倒な制約や呪文などしっかりと覚えられるという理由から、彼が魔法使いに適任である。

 これも、満場一致で決定する。残るは弓師と僧侶と超越者。手を上げたのは残る二人のうち女子の方だった。


「はーい、私僧侶やりたい。巫女さんとかすっごい好み」


 長戸ながと 麗美れみ。可愛いものに目が無い女子らしい女子である。あまり頭はよくないが、時折ぶっ飛んだ発想を持ちだすため、中々侮れない。運動神経はそれほど良くないが、足は速い。

 やっぱり僧侶は女子の方が良いという理由から、これも決定。残るは二つ。本当に良いのかと、ツバサこと空野 翼はかなえに尋ねた。別に構わないと、かなえは返す。


「じゃあ超越者貰う」

「オッケ。あたしは弓師ね」


 ようやく全員のタイプが決定し、次の段階へと進む。次の段階は、自らの能力を決定しろというものだ。ただし、弓師は撃つ時に矢や弾の性質を決めるのでここでは除外される。

 剣士は武器に付与する能力を。僧侶は回復の方法を、超越者は自らの能力を、魔法使いは自らの属性を。ちなみに、魔法使いの呪文は戦闘中でも通常時でも想像できるため、ここでは属性だけを選択する。

 全員が想像を終えると、またしても能力の想像だった。ただし今度の能力は戦闘中に効果を発揮するものでなく、街を歩く時やダンジョンに潜入する際にのみ使用可能なものだ。こちらは特に強くても問題ないので制限は無い。冒険の際に役立ちそうなものを各々が夢想する。


「これで準備は完了です。続いて戦闘のチュートリアルにうつります」


 どこからともなく、オオカミの群れが現れる。さっきまでそこにはいなかったのに、蜃気楼のようにふっとそこに現れた。普段はシンボルエンカウントなので気にしないでくださいねと、アゲハは補足する。


「それでは、自らの力で片付けて下さい。私のサポートはここで終わりです。これ以降はストーリーに沿ってください」


 あなたに神の御加護があらん事を。そう言い残してアゲハは天へと昇っていった。空間内に、“READY”の文字が現れる。さっきまで静止していたオオカミが急に敵意をむき出しにして牙をむく。

 準備は出来たか? そういう事だと恭介は納得した。


「皆準備できた?」

「できてるよ、恭介」

「俺呪文まだ十個しか覚えてないんだけどな」

「充分早いって。あたし弓使うの初めてなんだけど」

「だーいじょぶだって。ピンチになったら私が回復してあげる」


 全員既にこの手のゲームには慣れっこだもんなと顔を見合わせて苦笑する。“READY”の文字が“GO”に変わったその瞬間、彼らのムソウ・オンラインは始まった。

 数時間後、このゲームに幽閉されるとも知らないで――――。

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