ムソウ・オンラインとは
ムソウ・オンライン。
夢として想像したことが現実となる世界。プレイヤーは夢を操る戦士として、人々に迫りくるモンスターや災厄を狩らねばならない。
己が夢想した力により、無双しろ。想像力こそが己の力なり。
テレビドラマの合い間に挿入されたコマーシャルを見た彼は、そのゲームに目を奪われた。縦横無尽に駆け巡る巨大な怪獣を、剣士や魔法使いといった風貌の者達があらゆる力を用いて敵をなぎ倒していく。地を駆ける獣を剣士が貫き、空を飛ぶ魔物を弓師が射抜く。魔法使いは木のおばけを焼き尽くし、僧侶が傷ついた仲間を治癒していた。
そのファンタジックな世界に、少年は一瞬にして虜にされた。株式会社ベンテンが何年もかけて作り上げた集大成のVRMMO。特殊な機械の中で眠ることにより、夢の中でそのオンラインゲームをプレイできる。今まではとある会社がこのシステムを独占していたのだが、今回初めて他社と共にゲームを作ることとなった。
元々流行っていたゲームも廃れていき、そろそろ新たなゲームを作らねばならない。そんな時期にベンテンから話を持ちかけたら、あっさりと快諾したらしい。
そして何年も研究を重ねていき、ようやっとCMが流され始めた。今までとは全く違うゲームシステムのものが完成したのだ。今までのものは自由度が高かったといえど、武器や職によって完全にスキルが決められていた。だが、今回のこのVRMMOは違う。プレイヤーは固有のスキルを、自ら想像して創造しなければならない。これによって、プレイヤー同士で対戦を行う際も相手の能力を把握するという風に頭を使わなければならなくなる。
元々自分がプレイしていたオンラインゲームに飽き始めていた少年にとって、これ以上心躍るニュースはなかった。上ずった声で彼は台所の母親に話しかける。
「母さ-ん、今やってるゲームやめるから新しいゲームやっていい?」
「いいわよー。どうせ恭介は勉強もしっかりするし」
成績が落ちたら娯楽も没収。そういう家訓があるため、恭介はずっといい成績を保ってきた。といっても自分の中学一年生の百二十人の中で十五番目という、確かに優秀だが上がまだまだいる微妙なポジションだが。
「さーて、皆に連絡入れとかないとな」
そう言って彼はパソコンを取り出した。起動を待ちながら、いつも一緒にゲームをしているメンバーの四人の顔を思い出す。多分皆もこれを知ったら同じ事を考えるはずだ。チャットを開いて皆に呼び掛けてみる。
『いるー?』
とりあえず誰も見ていなければ話にならないため、そのように尋ねてみる。すると、すぐに三人から返事が来た。
『いるよー』
『俺もいる』
『何の用? もしかしてさっきのコマーシャル?』
やっぱり誰か一人は知ってるやつがいるよなぁと恭介は小さく笑った。全員が知らない方が反応を楽しめて良かったから残念だが、説明が分担できるからこれはこれで楽だと納得した。
そこで、二人がかりでさきほどのゲームについて説明を始める。さながら新聞の号外のように、手早く大袈裟に伝えていく。まだ情報を知らない二人の心を掴むのは簡単だった。どうせ同じ穴の狢、ゲームの話に飛び付かない訳が無い。
あっという間にその気にさせた四人は、元々プレイしていたオンラインゲームに飽き気味だった。プレイ人口が圧倒的に多く、どれほど頑張ってもプレイヤーランキングでは百万代が限界だった。ユーザーが億を越えるので、百万は充分凄い数字なのだが、それでも満足できなかった。そのため、新しいゲームに最初から参戦すればユーザーが増えた頃には強くなれると認定されるのではなかろうかと皆が思った。
『サービスが始まるのは三カ月後らしい。ってあれ? 一人いなくね?』
そう言えば、まだ自分を含めて四人しかいないようだと恭介は気付く。誰がいないのだろうかと悩んでいたその時に、自分を除いた四人の最後の一人が現れた。
『悪い悪い、今日はお見舞い行っててさ』
『ああ、ツッチーか。ユカちゃん元気?』
ツッチーこと土山 進の妹の由香は先日重い病にかかった。そのため、毎日学校帰りに病院に出向いているらしい。ちなみに、病院に出向いているのは恭介も同じである。しかし、土山の所属するバスケ部は練習がきつく、かなり遅い時間まで続くのでタイミングがずれる。
『三か月後からだな、分かった』
それだけ言うと彼はすぐにチャットから出ていった。どうやら今日は相当忙しいようである。もう既に大体の説明は終わったので今夜の集合時間だけを皆で決定した。
だが、もう既に恭介の意識はムソウ・オンラインにしか向いていなかった。
そして、三か月の月日はというと、あっという間に過ぎる。