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午前中の授業はあっという間に過ぎて、やっと昼休みになったね。一応は聖徒として入学してきた手前、授業はしっかりと受けないといけないから、こういう時間を使って潜入捜査を進めていくしかない。
リティルダ・詩杏なる少女は有名人らしいから、まずは聞き込み捜査が一番有効だろうね。
羽津香は手作りのお弁当を持って、隣に座るイフエティーに笑いかけた。
「イフエティー、宜しければ、羽津香と一緒にお昼ご飯一緒に食べませんか?」
「……あう、ごめんなさい。僕は、その、いつも大切な友達と、一緒に、その、食べているから」
人見知りが激しい子なのかな。
羽津香を前にしてこんなに緊張する子なんてむしろ逆に珍しいよ。
「そうですか………。それは、残念ですね。それでは、また今度、一緒に食べましょうね」
「あの、ちょ、ちょっと待って」
席を立ち上がって別のクラスメートの方へ向かおうとしていたら、イフエティーが呼び止めてきたよ。
「僕の、大切な友達は、その、悪い人じゃないんだ。きっと、アクエアリさんとも、その、仲良くなれる。僕も、お願いする。だから、みんなで一緒に食べよう」
「はい。そう言う話なら、羽津香はいつでも大歓迎ですよ」
羽津香と同じように手作りお弁当を二つも持ったイフエティーに案内されながら学園内を歩いていく。
やっぱり国内随一の学園だけあって、本当に広いね。
これはリティルダ・詩杏を見つけ出すより前に学園の地理を先に覚えた方が良いのかも知れないよ。
「あの、イフエティー。どうしても、お弁当を二つも持っているのですか。実は見かけに寄らず、大食漢だったりとかするのですか?」
「ううん、違うの。これは……その、僕の友達の、分だから」
いつものように言葉につまらせながら説明してくれるけど、多分、今の言葉につまったのは恥ずかしいからだね。
それだけ想い合える友達がいるなんて、羽津香が清風と出会ったみたいに幸せなことだよ。
連れられてやって来たのは、部室棟にある一室だった。
ネームプレートは何も書かれていなかったって事は、ただの空き部屋なのかな。
「イフエティーのお友達さんはまだ、来られていないみたいですね」
「うん、そうみたい。いつも、その、僕の方が早いから………」
部屋の中には誰もいないばかりか、ほとんど物も置かれていない状況だった。
部屋に唯一あるのは中央に置かれた四セットの机と椅子だけだから、お昼ご飯を食べる場所がそこみたいだね。
「この席って、何処に誰が座るとか決まっているのですか?」
「なんとなく、決まっているかな。そっちの窓側の席は、その、いつも空いているから、座っても大丈夫だよ」
指さしてくれた席にお弁当箱を置いて、席に着く。
イフエティーも残りの席に持ってきたお弁当をおいていく。見るとおどおどしている顔が若干笑っているように見える。
「アクエアリさん、どうかしたの。その、僕の顔に、何かついているの?」
「ええ、飛びっきりに素敵な笑顔がついていますよ」
イフエティーの顔が真っ赤に染まって、いつも以上におどおどとし出して、落ち着き無くきょろきょろとした後、ちょっとばかりすねたような瞳でこちらを見てきた。
「アクエアリさんは、その、ちょっと意地悪です」
とても良い笑顔だよ、イフエティー。
どんなお友達が来るか分からないけど、その人は絶対に幸せ者だね。
「あ~お腹減ったよ。ねえねえ、真瀬、今日のお昼は何を作ってきてく…………あ?」
「あ!」
羽津香とイフエティーの二人きりだった部屋に、待ちわびた第三者がついにやってきた。
でも、やって来た友達は予想外の人物だった。
羽津香は思わず口元を手で覆い隠してしまうし、相手も状況が理解できていないかのようにこっちを見て固まってしまっている。
「あなたが、リティルダ・詩杏……」
やって来たのは羽津香が探し求めていたあのボーイフィッシュな少女その人だった。
「あ、詩杏ちゃん」
ボーイフィッシュな女の子、リティルダが逃げ出した。
イフエティーが慌てて追いかけようとするけど、それよりも早く反応したのは羽津香だ。
椅子が倒れるのもお構いなしにスタートダッシュをすると、一気に教室の外へと出て行く。
見ると丁度リティルダが突き当たりを右に曲がっている所だ。
さっきイフエティーに案内されているときに思ったけど、ここは馬鹿みたいに広い学園だし、地の利は羽津香じゃなくてリティルダの方にある。
一度見失ってしまうと、そこで終わりだから、引き離される訳にはいかない。
「ちょっと、そこの誘拐犯さん。待って下さい!!」
だから、全速力だよ。