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騎士団をなぎ払った放った暴風よりもさらに強力な風が吹き荒れて、羽津香は思わず顔を手で覆ってしまう。
そして、風が止み、視界がはれるとそこには黒髪ロングだけどボーイフィッシュな顔立ちをした女の子がプリセマリーと羽津香の間に立っていた。
「もし宜しければ最初に自己紹介ぐらいはしたほうが良いのではと思うのですが………無理そうですね」
目にもとまらない早さで拳が振り切られた。
紙一重で避けることが出来たけど、ボーイフィッシュ少女の攻撃は止まらない。
今度は下から突き上げるようなアッパーが迫ってくる。
初撃の時から感じていたけど、この少女が生み出す風の強さは本物だ。
さっきの騎士団みたいな雑魚じゃない。
アッパー攻撃をバク転で避けると、そのまま四連続バク転で一端、ボーイフィッシュ少女から距離を取る。
攻撃は完璧に避けたと思ったのだけど、そうじゃなかったようだ。
メイド服のエプロンが裂けて、羽津香の傷一つ無い綺麗な生肌が蒼天の元に曝されてしまう。
「はああああああああ!!」
ボーイフィッシュ少女は羽津香が離れることを許してはくれない。
風の力を利用して一気に距離を詰めてくる。
加速度の乗った重い一撃を何とかガード。
ボーイフィッシュ少女の動きが止まったここからが羽津香のターンだ。
少女の腕を掴み、そのまま一気に背負い投げだ。
「たうぁああああああ!!」
地面に映し出された影がボーイフィッシュ少女の体が綺麗な放物線を描いているのを教えてくれる。
「はぁ!!」
なんとボーイフィッシュ少女はこの状況で風の力を使って地面に空気砲を打ち込んできた。
足場を崩されて羽津香の背負い投げは失敗。
それどころか膝をついてしまった。
一方のボーイフィッシュ少女はと言うと羽津香の手からすらりと抜けだして優雅に着地している。
これはまた攻守交代。
それも、敵を目の前にして膝をついている羽津香はなんと分の悪いことか。
ボーイフィッシュ少女が勝利を確信した嫌な笑みを浮かべたのは見えたけど、その次の瞬間、景色が流れた。
「きゃあああああああ」
風の力を使って威力の増したキックを受けたんだって理解できたのは、羽津香の体が近くの建物の壁に叩き付けられてからだ。
衝撃に頭がくらくらするけど、そんなことは言っていられる状況じゃない。
頭を振ってめり込んだ壁から起きあがる。
こんなの毎日七美から受けている仕打ちに比べたら全然対したことないんだからね。
「アクエお姉ちゃん!!」
プリセマリーが羽津香の方に走り出そうとしたのが見えたけど、その小さな体はしっかりとした掌に握り締められてしまっている。
「嫌だ、離してよ。もう戻りたくないよ!!」
「そうは言っていられないのよ。こっちにもこっちの事情ってモノがあるの。悪いけど、無理矢理連れて行かせてもらうよ」
ボーイフィッシュ少女はプリセマリーを掴んでいるのは反対の拳を羽津香に向けた。
風が吹いた。
舌に上苦い物がこみ上げてきて、そのままはき出してしまう。
風の力を使った空気砲が羽津香の腹部にめり込んできたみたいだ。
空気砲を打つ動作なんて全く見せなかったのに、どうやって打ったというのだろうか。
顔を上げて襲撃者を見る。
もう一度、脇腹が見えない力に押しつけられ、口内に苦い物がこみ上げてきて、そのままはき出してしまう。
やっぱり、空気砲を放つ動作なんて見せてはいない。
敵の攻撃手段が分からないまま羽津香の瞳が閉じられて、そのまま地面へと倒れ込んでしまった。
光に包まれていた道は、闇に閉ざされ、もう何も見えなくなった。