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7-3


「………清風?」


 羽津香の震えているような声が風を通さず、直接脳裏に響いてきた。

 これは、エデンの真紅石によって、頭から上の感覚を共有しているから、羽津香が自分で聞いた自分の声なのだろうね。

 羽津香の方を見ると、隠すことのない大粒の涙がこぼれ落ちていた。

 流石、羽津香だね。もう清風が使う風の術の正体が分かってしまったみたいだね。


「ごめんね、羽津香。本当はもっと、もっと羽津香と一緒の風を感じていたかったよ。でも、今はまだ難しいみたい。あなたの視界を通して、世界を見守ってきたからとても良く分かるよ。清風もね、プリセマリーを救いたいんだ」


 記憶を思い出していく。

 この風の術を身の毛も震え上がるような風の術をまさか、自分で使うような日が来るなんてね、夢にも思わなかったよ。

 でも、みんなを見守っているときに既に覚悟をしていた。

 プリセマリーをアクトリスから救い出すためには、きっとこの方法しか残っていないって………。


「お前……その、風の術は、まさか………」

「そうだよ、アクトリス。エデンへの封印の風の術であり、そしてね……」


 七美の動きを思い出していき、そして、羽津香を通して見てきたアクトリスの風の術も思い出していく。


「あなたになら、分かるんじゃないのかな。これがただの封印の風の術じゃないことがね」

「オレ様が………作り出していた、封印したエデンを取り込む風の術だとっ! 馬鹿な、貴様、何処で、どの風の術を知ったのだ!」

「だって、清風は、ずっと、みんなを見守っていたんだもんね」


 風の術の第一段階は完了した。

 清風の両手に、全てを剥ぎ取ってしまうかのような雄々しい風が渦を巻き始めていく。


「さあ、あなたは、この風の術で、エデンであるプリセマリーを体内で取り込んだけど、今度は外から、もう一度同じ風の術を刻まれると、果たしてどうなるのかな?」

「っく」


 アクトリスが苦虫を噛みつぶしたような顔になっていく。


「プリセマリーを、この世界を破滅に導く狂風になんて、させたりしないよ」

「お前は、馬鹿か。エデンの力を二体分もその体内に取り込むなんて………常人の考えではないぞ。それは、世界を作り替える力じゃない、ただ、世界を壊すだけの力でしかないぞ」

「アクトリスの言うとおりだろうね。エデンの力はそれだけでも、世界を征服できるぐらいに強力だよ。清風と、プリセマリー、二人分の力を一点に集中させてしまったら、それこぞ、世界を破滅させる危険性を持つ存在として、清風の居場所は、この世界にはなくなるだろうね」


 でも、風の術を解いたりなんてしない。

 ただ、右手でコツリと額に埋まっているエデンの真紅石を小突いていく。

 そこで繋がっている世界で一番大好きな彼女から、勇気を分け合えてもらうかのように………。


「それでもさ、我が儘かもしれないけど、清風は大好きな羽津香達が生きている世界を救って………見守っていきたいんだよね」


 風の力で一気にアクトリスに肉薄した。

 両手に渦巻いている風をアクトリスにたたき込もうとするけど、空振りしてしまった。

 エデンの力を最大限に発揮したアクトリスが辛うじて、清風の手を避けていた。

 そのまま体を反転させて、右足を振り上げていく。

 封印の風の術が発動している両手ばかり気にしていたアクトリスは、まさか足技がくるなんて考えもしなかったみたい。

 清風の蹴りがアクトリスを捉えると、そのまま、地面に叩きつける。

 後は、この風の術をたたき込めば………すべてが終わる。

 そう思った瞬間………だけど、アクトリスは何処までも往生際が悪かった。


「馬鹿が、言っただろう。お前は、オレ様の嫁になるんだよ。取り込まれるぐらいなら………オレ様が、お前を取り込んでやるぜぇぇぇぇ!」


 なんと、アクトリス自身も封印の風の術を発動させてきた。

 エデンが生み出す風の術と風の術が激しくぶつかり合っていく。

 それはまさに、均衡状態だった。

 清風とアクトリスの力と風が激しくぶつかり合っていく。


「あなたは、そうして、一人で、世界を変えていくつもりなの?」

「それの何処が悪い。お前とアダムとイブになれないというのなら、オレ様が一人で、その役を引き受けるしかないだろうが!」


 世界を変えようとして、たった一人で世界に喧嘩を売った科学者が吠えている。


「アクトリス。あなたも、自分の意志で、これ以上なく抗っている。正直、この清風をお嫁さんにするなんて馬鹿げたお願いを聞き届けるつもりはこれぽっちもないけど、エデンの力を利用して、新人類を作り出すなんて、初めて聞いた発想で、思わず、目が点になりそうだったよ」


 プリセマリーを吸収してしまったアクトリスを清風は許せない。

 でも、彼も彼の意志で未来に進んでいるのは間違えない。

 誰が、正しくて。

 誰が、間違っているのか。

 そんなこと、神様じゃない清風には分かるわけがない。

 ただ、清風に分かっていることは、たった一つ。

 清風は、エデンだけど、一人で戦っているって訳じゃないって事だよ。


「えっ」


 少しばかり気の抜けた声がしたかと思うと、それまで均衡状態を保っていたアクトリスの風が弱まった。

 その隙を逃す訳にはいかない。


「てりゃああああああああああああああああああ!!!!」


 元々限界だった風の力をさらに引き上げて、封印の風の術をアクトリスの脇腹にたたき込んだ。

 風の術がアクトリスの体に刻まれていって、彼の中のエデンの力が、風となり吐き出されて、清風の中に入り込んでくる。


「………何が起きたのだ?」


 自分の体に起きたことが理解できないとばかりに、アクトリスは呆然と清風を見てきている。

 そっと後ろを指さして、真実を教えて上げる。

 底にいるのは、羽津香だった。

 見慣れたメイド服を着ている羽津香だけど、その顔は苦悶に歪められている。


「自分で、自分の脇腹をさしているだと…………」


 そう、アクトリスが言ったように、羽津香は自分で、自分の脇腹にナイフを突き刺していた。

 みんな、思い出してくれるかな?

 プリセマリーがアクトリスに飲み込まれる瞬間、エデンの宝玉の内、唯一持ち主が決まっていなかったエデンの蒼天石。

 羽津香の首下から、お臍までの感覚を共有することが出来る、魔具を使って、羽津香はプリセマリーとマスター契約を行っていた。

 清風が、エデンの真紅石を使って羽津香と繋がっているように、プリセマリーの体もエデンの蒼天石を使って、羽津香と繋がっている。

 そして、アクトリスは羽津香と繋がっているプリセマリーを取り込んだ存在。

 プリセマリーの力を全て吸収しているというのなら、エデンの蒼天石の能力もまた取り込んでしまっていたのだ。

 羽津香が、自分で、自分の脇腹を刺した意味は、もう分かるよね?

 自分の脇腹を刺すことで、アクトリスにダメージを与えたんだ。

 よく王宮で、自分の脚をつねっては、下半身の感覚を共有している七美に嫌がらせをしているようにね。

 アクトリスの体から抜け出していく風が、渦を巻いて清風の中に入り混み続けてくる。

 巻き上がっていく風を見ていると、その中に、一人の少女を見つけた。

 それは、風が作り出した彼女の思いだったのかな?

 哀しそうな面影をもつプリセマリーが風の中に現れて、始めてみせる笑顔で大きく頷くと清風の中に張り込んできたよ。

 あああ、感じるよ。

 プリセマリーの哀しくても、夢に満ちあふれている、素敵な風が体中で渦巻いていくよ。

 エデン同士、これから仲良くしていこうね。


「やめろ。こんな馬鹿な事は、止めろぉぉぉぉ! 人類の大いなる進歩を、どうして止めようとするのだぁぁぁぁぁ!」


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