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清き風の物語~見守っているからね~  作者:
第六章:超人類の誕生
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6-8


「っく。馬鹿か。このオレ様を封印するという事は、人間の進化を遅らせると言うことなのだよ!」

「馬鹿なことを言っているのは、キミの方だよ。人間はキミが思っているほど、か弱くもなければ、愚かではないよ」


 七美、渾身の蹴りが、アクトリスの顔に打ち込まれるけど、やっぱり、防御壁によってガードされている

 でも、そんなことを気にせず七美は脚を風の防御壁に押し込んでいく。


「………まったく、七美も、無茶するときは無茶をするのですよね」


 呆れのため息を零しながら、羽津香は腰に埋まっているエデンの黄金石に触れた。

 これは、羽津香の下半身の感覚を、七美と共有するための魔具だ。

 普段は、王宮から出ることが出来ない七美が、国の地面を踏み締める感覚を羽津香から共有したり、羽津香が反逆の意味を込めて、自分で自分の足をつねって、七美を困らせたりなんかしているけど、この魔具、実は一つ面白い使い方があったりする。


「さて、足に風の力を生み出すのは、余り練習していないのですけどね」


 そう言うけど、封印の風の術を完成させるためには、足にも風の力を生み出さないと完成しない。

 落ち着いて、小さく深呼吸して、羽津香は足に風の力をためていく。


「風の力が………増しただとっ」


 アクトリスを蹴りつけている七美の風の力が明らかに増していった。

 これが、エデンの宝石の隠れた力だ。エデンの宝石は、羽津香の体の感覚を三分活して、そのそれぞれのエデンの宝石のマスターと感覚を共有できる魔具だっているのは、みんなもう分かっているよね。

 それは、普段は、文字の通り、感覚だけなんだけど、一つだけ例外があって、このエデンの宝石は、風の力も共通出来るのだった。

 いつもは、腕にばかり風の力を生み出している羽津香で、上半身の感覚を共有する、エデンの蒼天石のマスターはこれまで、現れなかったから、この能力を使う機会は全くなかったが、今は少しでも七美に風の力を伝える必要性がある。


「今回だけですよ、七美を加勢しますのわ」


 愚痴を言いながらも、羽津香は封印の風の術を作り上げていく。

 途中で、何度か舌の上に苦い物の感覚が走った。

 清風を封印させてしまった風の術を前にして、平気な訳ない。

 でも、清風じゃない、もう一人のエデンとの約束を果たすためにも、羽津香はやり遂げないといけない。

 舌の上に苦い感覚が走るたびに、額に埋め込まれているエデンの真紅石をコツコツと炊いている。

 頭の芯にまで、直接響いてくるその振動こそが、約束の証だ。


「清風………お願いします………もっと、羽津香に、勇気を下さい」


 羽津香の呟きも風になって、エデンを封印するための風の術へと変わっていく。

 見守ることしかできないけど、でも、だからこそ、目をそらずに、しっかりと見守っていきたい。

 エデンになることを恐れた続けた少女と、エデンの力に魅せられた哀れな科学者を、しっかりと最後まで見守って続けて上げたい。

 だから、みんな、立ち止まらないで。


「………封印の風の術、完成です」


 七美、イフエティー、ルティルダの三人がアクトリスを引きつけてくれたおかげで、無事に封印の風の術が完成した。

 清風を封印したあの風の術を、こんな間近に見てしまうと、怖気が止まらない。怖くて、怖くて、怖くて、どうしようもなく、逃げ出したくなってなくる。

 でも、逃げ出せない。

 逃げ出すわけになんか、行かない。


「みなさん、行きますよ」


 羽津香の決意と共にアクトリスを中心にて、地面が淡く発光していく。

 またしても、あの日と同じ光景が再現されようとしていく。

 清風が封印されたように、プリセマリーがそうであったように、アクトリスが風の術によって絡め取られていく。

 エデンの力を手に入れた金髪の科学者は、必死に抵抗しようと風を無差別に生み出していく。

 距離を取った七美やイフエティーが、被害が広まらないように、エデンの風を撃ち落としていく。

 でも、どんなに足掻こうと、封印の風の術は壊すことが出来ない。

 清風だって、羽津香と離れ離れになるのが嫌で嫌で嫌で、死にものぐるいで抵抗していたけど、結局は封印されるしか無かったんだ。

 エデンの風で、封印の風の術は砕けない。


「大人しく……封印されてください。そして、プリセマリーの………羽津香の大切な友達の願いを叶えて下さい……」


 両手をぎゅっと握り締めて、封印されていくエデンを見守っていく。

 でも、あの天才科学者は、本当に何処までも往生際が悪かった。


「この馬鹿野郎共がぁぁぁぁ! 人間が、人間を超えて進化出来るのだぞ! それなのに、何を考えているんだぁぁぁぁぁ!」


 アクトリスこそ何を考えているのか、何かの風の術の印を切っていく。

 地面に走っている光がアクトリスを中心にして、一点に集まったとき、羽津香の風の術は完成する。

 時間にして、後十数秒だって言うのに、彼は最後の抵抗を試みようとしている。


「もう、無駄です。あなたは、このまま………封印されるしかないのです!」

「ふん、それはどうかな? なあ、主席メイドさん。もし、オレ様を逃してくれたら、清風を封印から解いてやるって言ったら、どうする?」


 唐突な問いかけは、羽津香にとって、なんとも魅惑的な言葉だった。

 羽津香だって、そんなことは無いって分かっている。

 そんな言葉は、ただの誘惑でしかないて分かっている。

 でも、願ってしまうのは、想像してしまうのは、希望してしまうのは、仕方ないのかもしれない。

 清風と羽津香が一緒に暮らしていける、そんな未来を………。

 その時、一瞬の隙が生まれてしまった。

 封印の風の術が決壊するまではないけど、アクトリスに自由を許してしまうぐらいの、僅かな隙が………。

 でも、それが彼に取っては十分な隙だったみたいだ。


「助かったぜ、主席メイド。さあて、これがどうなるかは、賭だが、オレ様は人間を超えたんだ。それをさらに超えるだけだもんな」


 新たな風の術を刻み終えたアクトリスは、風を生み出して、封印の結界から放ち出した。


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