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清き風の物語~見守っているからね~  作者:
第六章:超人類の誕生
41/50

6-5


「っく」


 風の起動から予測すると、真っ直ぐな風が狙いを定めていたのは、アクトリスだった。

 エデンを吸収した新人類であるアクトリスはこの程度では死んだりしないが、おかげで羽津香と七美の首を絞めている力は弱まった。

 気道が確保されて、体に酸素が、頭に血が潤滑していって、ホワイトアウトしていた視界が光と色を取り戻していく。


「アクエアリ、早くそこを退いてよね」


 羽津香に休む間は与えられない。

 上空から聞こえてきた声に素早く反応した。

 首を締め付ける力が弱まっているアクトリスの顔面目掛けて空気弾を叩きつけると、首を締め付けていた力は完全に無くなった。

 自由を取り戻すなり、隣の七美を抱きかかえて、すぐさまアクトリスから後退していく。


「あんたがっ! 真瀬を殺したんだっ!!」


 羽津香が飛び退くなり、上空から五月雨のような空気弾が切れ間無く降り注いできた。

 普通なら、風に力を使うためには予備動作が必要なため、ここまで切れ間無く空気弾を連続で放つことは出来ない。

 だけど、羽津香達は、予備動作なく風の力を操ることが出来る特異体質の少女を知っている。


「ルティルダっ」


 そう、爆発事件に巻き込まれて意識不明になっていた彼女が、無事に意識を取り戻してくれた。

 傷だけの体で空から奇襲を仕掛けてきたルティルダは、休む間もなくアクトリスへの攻撃を続けている。


「っくぅ」


 ルティルダの連続攻撃に対抗するようにアクトリスも風の力で空気弾を生み出して相殺させていく。

 エデンの力を取り込んだ彼もまた、予備動作無しで風の力を生み出す力をもっていた。


「ほうぅ、やはり、お前の能力は面白いな。しかし、所詮は人間だ。オレ様の足下にも及ばないんだよっ!」


 アクトリスが吠えるなり、彼が生み出す空気弾の数が倍増してしまった。

 ルティルダもアクトリスに対抗しようとするけど、人間が幾らがんばってもエデンに対抗できる訳がない。

 ルティルダの風の力を軽く凌駕した空気弾が、彼女へ襲いかかってくる。


「ルティルダっ」


 羽津香は叫ぶことしかできない。

 今は、まだ意識が朦朧としている七美を抱きかかえたままだから、動くにも簡単には動けない状態だ。

 またしても、風が吹いた。

 大人しくて、でも、その奥に誰よりも強い決意を秘めた風が、また吹いた。

 やっぱり、先ほどの風は勘違いとかじゃなかった。

 でも、だとしたら、一体どういう事なのだろう。


「この風って………」


 この風を知っている。

 この風の主が誰であるかなんて、すぐに想像が付く。

 でも、だからこそ、ありないって思ってしまう。

 だって、この風の主は既に死んでいるはずなのに………。


「ごめんなさい。でも、詩杏ちゃんを殺させたりなんかさせないよ」


 どうして、今、彼は、羽津香の目の前に立っているの?


「真瀬っ!」

「イフエティーさん………」


 ルティルダのピンチに颯爽と登場して、彼女を殺そうと迫っていた風を、明後日の方向に吹き飛ばしたのは、アクトリスに殺されたはずのイフエティーだった。

 羽津香は訳が分からずに目を何度も瞬きさせている。

 アクトリスも想定外の人物の登場に危機感を感じたのか、一度ルティルダと、そして、プリセマリーから距離を取った。

 一蹴りで二人から10m以上後方へ飛び退くと、隙をうかがうように、瞳を鋭く尖らせて、イフエティーのことを観察しつづけている。

 死者であったはずのイフエティーが復活している。

 普通なら、こんな事って起きることがない。

 でも、たこの世界には、たった一つだけ、死者が蘇る事例が存在している。


「死者が復活した………つまり、貴様はサルティナになったというのか?」


 そう、サルティナ。

 別名、死者蘇生って呼ばれている現象がこの世界には存在している。

 それは、一度死んでしまった者の肉体を、エデンの残留思念が利用する現象だ。

 つまり、死者はエデンがこの世に復活するための繭となってしまうのだ。


「どうやら、そうみたい………自分的には全く実感なんてわいてきませんけど………あたなに、色々とサルティナ移植の研究材料にされたからでしょうか?」


 確かに、感じてみれば、イフエティーが生み出している風は、これまでの彼よりもさらに強い物になっている。

 サルティナになって、風の力がさらに強くなったみたいだ。


「でも、これでボクは、大切な人を守れる力を手に入れれたんです!」


 ルティルダを背中で守りながら、イフエティーは堂々と宣言した。


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