1-3
「七美は鬼です。悪魔です。鬼畜です」
そして、実は下着を見られて感じてしまう露出狂に違いなんだ。
っと、七美への陰口を吐きながら、羽津香は城下街を歩いている。
七美は羽津香のご主人様であるはずだけど、今はそんなこと全く関係ない。
羽津香の頭は未だに七美への怒りで一杯だ。
『良いこと、そのサルティナを捕まえて、ボクの前に連れてくるまで、帰ってくるな!!』
なんて七美のおみ足で踏みつけられながら命令された訳だから、手ぶらで戻るわけにはいかない。
でも、サルティナの少女を七美の前に連れて行くなんて、それこそ釣った魚をまな板の上に持っていくようなものだ。
羽津香にとって、これ以上不本意な命令はないよ。
「だいたい、七美はサルティナを見つけるとすぐに処刑しようとする事が駄目なのですよ。サルティナは人間じゃないけど、心は通じ合えるのだからきっと、羽津香は人間もサルティナも笑って過ごせる道があるはずだって信じていますよ」
「お姉ちゃんは、本当にそう思っているの?」
「はうわ~~~~~!!」
背後から聞こえてきた声に驚いて羽津香はつい飛び上がってしまった。
羽津香はこの国の主席メイドだから、護身術ばかりじゃなく、王族護衛用の武術も習得している。
そんな羽津香の背後がいとも簡単に取られてしまった。
これは歴史に名を残すほどの強者に違いない。
なんて警戒したけど、そんなことは全然無かったよ。
「はへ? あれれ、あなたさんは確か、今朝ちょっとだけお会いしたサルティナさんじゃないですか?」
臨戦態勢で振り返った先に立っていたのは真っ白なドレスを可愛く着こなした少女だった。
思わず口に出して説明したように、この子は今朝、サルティナと言われて騎士団に追われていたその子だ。
まさか、探し人が向こうからやって来てくれるなんてなんて都合の良い展開なんだろうね。
それに見た頃、さっきみたいに意識隔離が引き起こした暴走状況になっている訳じゃないからちゃんと意思の疎通も出来ている。
これは願ったり叶ったりの状況だね。
「そうだよ、お姉ちゃん。プリセは、プリセマリー・哀夢って言います。お姉ちゃんの名前も教えてくれるとプリセは嬉しいかな」
プリセマリーは右手を差し出してきた。
その手が小さく震えているのは、たぶん寒いからじゃない。
羽津香は違う考えだけど、この世界はサルティナにこれぽっちも優しくなんかない。
プリセマリーも体は小さいけど、サルティナとして虐待の一つや二つは経験しているからこそ、誰かと触れあう事を恐れているのだろう。
「そう言えばまだ名乗っていませんでしたね。羽津香の名前は、アクエアリ・羽津香って言います。これから、よろしくお願いですね、プリセマリー」
でも、躊躇なく羽津香は差し出されていたプリセマリーの手を握り替えしたよ。
あまりにも自然な対応だったからかな。
逆にプリセマリーのぱちくりとした目が可愛らしく何度も瞬きを繰り返してこちらを見つめてくる。
その反応は小動物みたいで、かなりキュートだよ、プリセマリー。
「どうかしましたか、プリセマリー。羽津香の顔に何かついてます? ………あ、このおでこの宝石がいくら可愛いって言っても、絶対に差し上げるわけにはいきませんからね。そこは羽津香はしっかりと主張しますよ」
「哀しいけど、プリセは、そんなださい宝石いらないよ」
即答なんて、非道いよ、プリセマリー。
「そうじゃなくて、お姉ちゃんは本当に、プリセがサルティナでも、怖がらないんだね」
精神的ダメージからなんとか立ち直った羽津香が顔を上げると、スカートの下にあるプリセマリーの可愛らしい水色の………じゃなくて、天真爛漫って言葉がぴったりの笑顔がそこにはあった。