表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
清き風の物語~見守っているからね~  作者:
第六章:超人類の誕生
39/50

6-3


「ついに、ついに、ついにぃぃぃぃぃ。オレは、オレは、手に入れたぞぉぉぉぉ。これが、これが、これがああああああああああああ、エデンの、エデンの、世界を破滅に導くことも可能なぁぁぁぁぁぁっぁ、人類を超えたぁぁぁぁ、力ぁあああああああああああ!」


 生気的に受け入れたくない嫌な声を、否応なく聞かされてしまう。


「はあああああ」


 ため息をつきながら、羽津香はゆっくりと立ち上がっていく。

 毎朝、大嫌いな七美を起こしに行くのを躊躇うかのようなため息だった。

 そんな羽津香の横で、既に満身創痍に見える七美も、ふらふらとしながら立ち上がっていくよ。


「そんな体で戦うのは、無茶すぎるかと思いますよ」

「無茶でも、ボクはこの国の国王だからね。守らなければいけないのだよ。この国の民達を。如何なる驚異からもね」


 七美には聞こえないように、羽津香はもう一度ため息をついた。

 本当に、この国王陛下様は、聞き分けが無くて困ってしまうものだ。

 この十分の一でも良いから、その思いやりをエデンやサルティナに向けてくれたら、本当に申し分のない王様になってくることだろうとつくづく思う。


「あなたが死ねば、清風は封印から解放されて、羽津香は嬉しいですが、変わりにこの国の皆さんが嘆き哀しんでしまいます………無理はしないでくださいませ」

「………ふん。分かっているさ、自分の命にのし掛かっているいる重りなんて、嫌なぐらいにさ」


 啀み合いながらも、互いの信念を認め合っている国王とメイドは、一度だけ微笑みあうと、すぐさま視線をアクトリスに向けた。

 エデンの敵であり、そして、人類を破滅に導く最悪の力を持っている悪魔と対峙していく。


「お前達、馬鹿か。ただの人間がエデンに太刀打ちなんて出来るわけないだろうが。利口な人間なら、逃げ出すのが賢い選択だぞ」


 両手を開いたり閉じたりしながら、アクトリスは忠告してくれるけど、逃げ出した所で、エデンの力を手に入れたアクトリスから逃げ切れる確証なんて何処にもない。


「残念だけど、ボクはこれまで、清風とプリセマリーと、二体のエデンを相手にして、勝ち残ってきた。エデンの力の強大さは誰よりも知っているけど、でも、ボクは一度たりとも逃げりしなかったよ」


 風が足下から吹き上がってくる。

 その風は、いつもと変わらず、凛として力強かった。

 うん、羽津香の頬を叩くかのようなこの風なら、七美は大丈夫だ。


「エデン、エデンって、そんなにエデンって特別なのですか?」


 羽津香はいつもと変わらない口調で、語りかけた。

 エデンであろうが、国王であろうが、サルティナであろうが、名も知らない国民であろうが、清風であろうが、羽津香は変わらず、語りかけてくる。

 だって、それが、羽津香なんだから。


「……エデンの何処とが特別かだって? 主席メイドは馬鹿なのか? 何故、この体と力の偉大さがお前には分からないのか?」

「分かるわけなんて、ありませんよ。だって、エデンだろうが、人間だろうが、羽津香には一緒なのですからね」


 今、隣で七美が羽津香の事を嘲笑した。

 それに、対峙しているはずのアクトリスまでもが、幽霊を見ているかのように目を大きくしてこっちを見てきている。


「………お前は、何処までも馬鹿なのか?」

「馬鹿なのではありません。羽津香はただ、平等なだけですよ」


 これ以上無く最高の笑顔で言い返してやったら、もうアクトリスは何も言い返せなくなってしまっていた。


「…………敵だけど、今のアクトリスに、ボクは同感せずにはいられないよ………」


 横から七美の心に呟きが聞こえてきた気がするけど、


「そんなことは、羽津香は知りません」


 と言ってやって、羽津香の右足を思いっ切りつねることで痛み分けだ。


「つつつぅぅぅ。だから、キミの感覚はボクにも繋がっているんだから、痛いんだよ」

「分かっているから、やっているのですよ。それよりも、無駄話は終わりですよっ、七美」


 羽津香の体が横に逸れた瞬間、刹那の前まで羽津香の顔があった所に、圧縮された空気弾が超高速で通り抜けていった。

 アクトリスを見れば、彼の周囲に数え切れない程の空気弾が浮かび上がっている。

 思わず目をつぶりたくなってしまうぐらいの数だ。

 王宮騎士団のエリート集団だって、あれだけの圧縮空気弾を風の力で作り出そうとすれば、一つで一時間は掛かってしまうだろうに、羽津香と七美がちょっと雑談をしている間に、星の数ほどにも作り出してしまうなんて………。

 これが、エデンの実力っていう訳だ。


「七美、もし封印の風の術を使うとすれば、後どれぐらい回復時間が必要ですか?」

「さあね。でも、一晩以上掛かるのは間違えないだろうね。そして、それまでの間、彼が待ってくるとは、到底思えないね」


 七美は風の力を宿した足を何度も振り回しては、迫り来る空気弾を蹴り落としている。

 プリセマリーを封印するための風の術に、竜巻の一蹴両断と連続で風の力を使ってしまったから、もう殆ど、風の力は残っていないみたいだ。

 今も、風の力を集めるのは、最低限の足差しだけにとどめていている。


「っは」


 空気弾を蹴り落としながら一歩づつ着実にアクトリスに近づいていた七美の前に羽津香は立つと、二人を覆い尽くす風のシールドを力の限り展開していった。


「全く、なに無茶苦茶なことしようとしているのですか?」


 流石、エデンが作り出した空気弾だ。

 羽津香の全身全霊の防御壁もすぐに壊れてしまいそうだった。既に、亀裂が走っている。


「近づくことすら、ままならないか…………羽津香、キミは何か、一発逆転の方法を思いつくかい?」

「そんなのは、簡単ですよ。七美が、清風の封印を解いてくれれば、もう全てが万事甲斐ですよ」

「っふ。こんな状況でも、そんな軽口が言えるって事は………まだまだ大丈夫そうだな」

「むっ。羽津香は冗談ではなく、本気で言っているのですよ~~~」


 一際大きな空気弾が風の防御壁に激突してきた。

 どうやら、もう限界みたいだ。

 これ以上、防御壁に風の力を送るのを諦めて、羽津香は背後を向くなり、七美を抱きしめて、上へと跳躍した。

 アクトリスが羽津香を追って空気弾を放ってくる。


「七美、準備は良いですか?」

「もちろん、一点集中済みだよ」


 たったそれだけの会話で、二人は意思疎通を終えると風の力をためて込んでいく。


「はあああああああああああ、飛んでいけ~~~~!」


 羽津香は風を無作為に作り出していく。

 その幾つかは、空気弾によって破壊されてしまったが、必要数は残っている。


「それでは、行ってらっしゃいませ、ご主人様」


 嫌みを込めてメイドさんらしい口調でニッコリと微笑んで、七美を思いの限り投げ飛ばした。

 迫り来る空気弾の合間を縫って七美が一気にアクトリスに迫っていく。

 アクトリスは余裕の表情を浮かべたままだ。

 ゆっくりと手を持ち上げると一発だけ空気弾を解き放った。

 風を圧縮した銃弾が、空から急降下していく七美を目標にして迫っていく。


「駄目ですよ、エデンとしての力に奢れて、余裕を見せつけるのは………」


 初弾の空気弾から身を守るための防御壁は形成しない。

 両手をクロスして、頭を守って、体を出来る限り小さくして、空気弾をやり過ごす。

 頬を切り裂かれてしまったけど、こんな痛みを気になんかしていられない。


「そんなことしたら、命取りになるかもしれませんよ」


 七美が何もない空中を蹴ったかと思うと、いきなり方向転換して、迫り来ていた空気弾を避けた。


「なんだとっ」


 それも、一度だけじゃない。

 何度も、空気中を蹴ると力学を無視したかのように空気中をジグザグに動き回っていく。

 予想外の出来事にアクトレスは驚いている。

 七美は何もない空中を蹴っているように見えるが、実は何もない所と蹴っているわけじゃない。

 七美が蹴っているのは、さっき羽津香が作り出した風の集まりだった。

 風は無色無形だから、普通は目に見えることができない。

 アクトリスは状況が理解出来ずに考えてしまった。

 なまじ知識がある分、とまどってしまう。

 これが、普通のエデンだったら、何も考えることなく迫ってくる七美を力業な風で投げ飛ばしてることだろう。


「はああああああああああぁぁぁぁぁぁぅぅぅぅっ!」


 反応できていないその隙に、七美がアクトリスに肉薄した、風の力を鋭く形成して、まるで刃物のような鎌鼬を宿した蹴りで、アクトリスの首を切り裂いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ