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清き風の物語~見守っているからね~  作者:
第六章:超人類の誕生
37/50

6-1


「………エデンを封印する風の術はもはや、使えないか。それは都合が良いな」

「この声、アクトレスですか?」


 全ては終わろうとしていた。

 エデンが生みだしていた竜巻は、羽津香と七美の共同作業によって壊したし、エデンになってしまったプリセマリーは、七美の風の術によって今まさに封印されようとしていた。

 プリセマリーという新たなエデンは、この世界を破壊に導くことなく、この世界から異世界に転送されようとしていた。

 なのに、金髪の科学者はまるで、この瞬間を待っていたかのように、高笑いを始めだしたのだ。


「ふはははは。いいど、いいぞ、いいぞぉぉぉぉ。これが全て、オレ様の計算通りだぁぁ!」

「………計算とは一体どういう意味なのかな?」


 羽津香の肩に手を置いて、七美がゆっくりと立ち上がっていく。

 その顔には明らかな疲労の色が見えるというのに、彼女は戦っていく。

 自分の国の国民を守り抜くために…………。


「言葉の通りだよ、天使王。貴様達は、実に気持ちよくオレ様の手の上で踊ってくれたよ。エデンとしての暴走、そして、暴走を食い止めるために、天使王が使用した封印の風の術。いいね、これだけ、この瞬間なんだよ。オレ様が待ち望んでいた瞬間はな」


 アクトリスは来ていた白衣を脱ぎ捨てると、手で印を結んでいく。

 初めて見る風の術の印だったけど、何処か、七美が清風やプリセマリーに使った封印の風の術に似ている様な気がする。


「キミ………その、風の術は、一体?」

「これは、オレ様が独自に編み出した風の術さ。今の天使王の封印の風の術を見て、やっと完成した訳だ」


 印を切るアクトリスの回りに風が巻き上がってくる。

 それは凄く嫌な風だった。

 風が頬を撫でるたびに、怖気が這い上がってくる。

 これは一体、何なの?

 アクトリスは一体何を使用と企んでいるというの?

 ここの一番奥にある、自分が自分である大切な何かが、まるで喰われしまうのではないかって悲鳴を上げている気がするよ。


「ボクの………王家に伝わる秘伝の風の術を一度で見破ったというのか?」

「流石に、全部じゃねえがな。知りたかったのは、エデンの力を無理矢理制御する風の術だったからな。それさえ、分かれば、オレ様が歴史に名を残す、人類史上最高の風の術は………完成だぉぉぉぉ!」


 最後の印を切り終え、アクトリスが高々と叫んだ。

 本当に、これは何だって言うの?

 怖いよ、凄く、怖いよ。

 こんなにも体が奥底から怯えているなんて、はじめの経験だよ。

 ………アクトリスは一体、どんな風の術を生みだしたって言うの?

 見れば、アクトリスの両腕には風が渦巻いていた。

 見ているだけで、心が拒絶を起こして縞そうなぐらいの禍々しい風が………。


「………その風は一体何なのですか?」

「これか? これはな、オレ様が人間を超えるための第一歩となる、風さ」


 アクトリスは、両手を前に突き出した。

 それだけの動作なのに、どうしてだろう、とてつもなく恐ろしい動作に思えてしまって仕方がない。


「ひいいぃぃぃ」


 そして、そんな風に感じていたのは、一人だけではなかった。

 エデンとなってしまったプリセマリーも、アクトリスの動作に対して悲鳴を上げている。

「………エデンが、悲鳴を上げただと………」

 

 七美が驚愕して、瞳を大きく見開いている。

 それはそうだろう。エデンは、基本的に感情がないと伝承されている。

 喜怒哀楽が激しくて、最終的には羽津香と恋仲にまでなってしまった清風の方が、エデンとしては、特異だった。

 普通エデンには感情がない。

 それは、プリセマリーも同様だった。

 羽津香を攻撃している時にも、顔色一つ変わらなかったんだから。

 でも、そんなエデンがアクトリスの動きに、あからさまな恐怖を浮かべている。


「さあ、来い。エデン。そして、このオレ様を、人間を超越させろ!」


 一際強い風が吹き荒れた。

 直接、羽津香を狙ってきた風じゃないけど、この風が頬を……いや、顔中を撫でてくるだけで、思わず悲鳴が上がりそうになってくるぐらいに怖くなってくる。

 風が止むと、アクトリスの腕の中にプリセマリーがいた。

 腕の中でプリセマリーが必死に暴れているけど、風の力で無理矢理押さえつけられているから動くに動けない。


「ボクの風の術を破って、エデンを掴みよせただと………」

「ああ、天使王様の封印の風の術のおかげで、エデンの力が半減以下に墜ちているからな。とても簡単な作業だったぜ。それじゃあ、いただきま~~す」


 身動きが取れないプリセマリーが必死に首を横に振っている。

 でも、そんなプリセマリーの拒絶なんて意に返さず、アクトリスは、プリセマリーの唇に彼の唇を重ね合わせてきた。

 風が吹く。

 それは、何とも形容しがたい、強くて、哀しくて、禍々しき風だった。

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