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全てを飲み込み、壊して、そして、はき出すかのような風が吹き荒れた。
サルティナであった頃とは比べ者にならない風の強さだった。
「っわ」
「っく」
羽津香も、七美も風を生み出して、吹き荒れる狂風と相殺させていく。
羽津香も、七美も普通の人とは比較にならないぐらいの風の力を持っているけど、それはあくまで人間レベルでの話だった。
人間の上を行くサルティナを、さらに超越したエデンを相手に立ち居うちできる術はなかった。
プリセマリーの狂風は、二人の風を突き破り、鎌鼬となって、羽津香と七美を傷つけていく。
「羽津香、何をしても良い。あのエデンの注意を引きつけるんだ!」
「何をするつもりなのですか、七美ッ」
「キミも分かっているのだろう。あのサルティナであった少女は、エデンに孵化してしまったんだ。このまま、野放しにしていれば、世界が崩壊してしまうんだよ!」
そう、エデンは世界を破壊に導く存在。
孵化したばかりの状態で、既にこれだけの風を生み出している。さらに成長を続ければ、世界中の全てを包み込むぐらいの風を生み出してしまうかもしれない。
そんなことは、羽津香にだって分かっている。
羽津香はきっと世界中の誰よりも、エデンの事を思っているはずだから。
友達になるためにはあ、やっぱり、相手のことを知るのが最初の一歩だから。
だから、エデンが世界を破滅に導く存在だって、理解だっている。
でも、理解はしているけど、納得はしていないんだ!
「そんなのは、絶対に嫌です!」
きっぱりと七美に言い切れる。
「キミは、やっぱり、最大の馬鹿だ。いま、ここであのエデンを封印しなければ、世界が破滅するのかもしれないのだぞ!」
「そんなことは、嫌ってぐらいに分かっています。でも、七美だって、知っていますよ、ね。羽津香が、世界と親友を天秤にかけた場合、どっちを選ぶか」
風が吹きあれている。
それは、エデンの生み出している狂風の中においても、負けることのない羽津香の真っ直ぐな想いが生み出した風だった。
風が頬をかすめていく。
何処までも清々しくて、実に気持ちの良い風だった。
「………っふ、本当にキミは、何時でもボクの命令を聞いてはくれないのだね。ここで、ボクが、国王命令だと言っても、メイドであるキミの意志は変わらないのだろうね」
「もちろんですよ。七美は羽津香を、何者だと思っているのですか? なんと言っても、羽津香は七美の事が、大、大、大嫌いなのですからね」
なんて言うわりには、羽津香の声は弾んでいた。
きっとこれが嘘偽りない羽津香の本心なのだろ。本当に、心の底から、七美ことが嫌いなんだ。
でも、嫌いだって本音をこうして、真っ正面から笑いあいながら、言い切れる絆もある。
「本当、キミはいつも、正直な自分で、ボクに接してくれる。そんな所は、大嫌いだけど、嬉しくもあるよ」
七美が動いた。
プリセマリーの狂風が刹那、弱まった隙をついて、一気にプリセマリーとの距離を詰めていった。
七美は、特異体質で、足の裏に風の力を生み出すことを得意としている。
足裏に生み出した風を一気に爆発させて、瞬きする間に、プリセマリーに接近していた。
「はあああああああああああああ!!」
風で加速した勢いを殺すことなく、そのままプリセマリーに蹴りつけるが、エデン相手に人間の攻撃が通用するはずが無かった。
風の力で強化しているはずの七美の蹴りは、無防備状態のプリセマリーの顔面に直撃した。
でも、プリセマリーはびくともせず、瞳を動かして、まるで害虫を見つめるかのような冷たい視線で、七美を見ていた。
何も喋らないプリセマリーの足下で、風が渦を巻いていた。
竜巻の前兆だ。
このままだだと、プリセマリーを中心に鎌鼬の竜巻が、巻き起こってしまう。
「っく」
七美も気づいた。
慌てて、逃げだろうとするが、そんな七美の足をプリセマリーが握りしめていた。
動くに動けなくなってしまった七美の、ましたで鎌鼬が、その牙をむいている。
「はあああああああああ」
鎌鼬が、竜巻となって巻き上がるその瞬間、別の風が吹き荒れた。
エデンの風に比べると威力は弱く、相殺するには至らなかったけど、威力を弱めるには十分だった。
風はただの竜巻となり、七美を吹き飛ばすだけで、彼女を切り刻みはしなかった。
「まったく、キミはボクの事が嫌いだったのだろう………それに、ボクが死ねばキミの大切な清風の封印も解けるというのに、何故、ボクを助けたりなどしたのだい?」
「たしかに、羽津香は七美の事は嫌いですし、清風を救い出したいって思ってますよ。ですが、あなたは、この国に必要なお方であるのも真実なのです。今、こんな所で、死なれては、羽津香と清風の住む国が、ぐちゃぐちゃに成ってしまうではないですか」
吹き飛ばされた七美の前に立つ羽津香は、しっかりと宣言してプリセマリーと対峙してく。
一緒に逃避行をしていた時は、おどおどとした表情の中にも、喜怒哀楽が如実に出ていたのに、今のプリセマリーはまるで、仮面をかぶっているかのようで、見ているだけで哀しくなってくる。
それに、プリセマリーがエデンに孵化してから、何度も彼女の風を、この肌で感じているけど、そのどれにも感情を感じること牙出来ない、ただの狂風でしかなかった。
「プリセマリー、お願い致します。あなたの親友の羽津香です。お願いですから、そんな哀しそうな顔なんてしないで下さい。また、前のように、羽津香と一緒に笑いあいましょうよ」
必死に呼びかける。
プリセマリーにはまだきっと、この声が届くはずだと信じている。
でも、戻ってくるのは、プリセマリーの声じゃなくて、何も感じさせないただの狂風でしかなかった。
差しのばした手に風が当たり、羽津香の手から真っ赤な血が流れ落ちていく。
真っ赤な血が風に絡めとられて、空に舞い上がっていく。
気付いた。
気づいてしまったよ。
真っ赤に染まった上がった風の向こう側に確かにプリセマリーの思いがあったことに。
きっとプリセマリーの自我は、もうエデンに支配されていて表面化することができないのだろう。
でも、プリセマリーはまだそこに生きている。エデンの下から、必死に羽津香に叫び続けている。




