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清き風の物語~見守っているからね~  作者:
第五章:さよなら、プリセマリー
32/50

5-4


 胸の奥で、何かが共鳴した。

 それはとても、嫌な感覚だった。

 この感覚を感じたのは、かつて一回だけ。

 清風がエデンに孵化してしまったあの瞬間だ。


「プリセマリー! 落ち着けて下さい!」


 プリセマリーの肩に両手を置こうとするけど、彼女を中心にして吹き荒れてくる風に吹き飛ばされてしまし、逆にはじき飛ばされてしまう。

 サルティナっていうのは、一度死んでしまった人間が、何故か蘇ってしまった者達を呼ぶ総称だっていうのは、前に言ったよね。

 そして、サルティナは、それで終わり何じゃない。

 サルティナは、あくまで繭のような存在でしかない。

 繭からいずれ時が経てば、成虫が生まれ出てきてしまうように、サルティナも時が経てば、世界を破滅に導くと言われている存在、エデンへと孵化する。

 サルティナから、エデンへの孵化例はこれまで三度しか観測されていないから、何時如何なる条件で、サルティナがエデンに孵化するかは解明されていない。


「あああああああああああああああ!!」


 プリセマリーを中心にして、風が吹き荒れて、暴風となって行く。

 自我なんて全く感じさせない。

 まるで、吹き荒れる風そのものであるかのように、プリセマリーを風が包み込んでいく。

 一緒だった。

 サルティナだった、清風がエデンに孵化するときと同じ光景が、目の前で繰り広げられていく。

 このままだと、世界で四例目のエデンが孵化してしまうことになってしまう。


「ふはああああああああああ。そうだ、いいぞ、いいぞ、いいぞぉぉぉぉ!」


 風に満たされた世界の中で、アクトリスの高笑いが響き渡ってくる。

 アクトリスの真の目的は、清風そのものじゃ無かった。

 彼は、エデンさえ手にいれば、それでよかった。今までは、世界で存在しているエデンは、清風しかいなかったから、清風が狙われることになっていたけど、もし新たなエデンを産み出すことが可能だとしたら、彼は、清風を狙う必要性はなくなっていく。


「生まれろ、生まれろ、生まれろぉぉぉぉぉぉ!!」


 風が、強風となり、暴風となり、今、一つの生命の灯火が消えて、世界を破滅に導く存在が生まれ出てしまう。


 不意に風が止み、そこには、一人の少女が佇んでいた。


 エデン。

 それが、一体何者であるのか、多分誰も知らない。

 エデンである清風自身ですら、その存在が何であるかは分かっていない。

 ただ、分かっているのは、エデンはサルティナをも超越した風の力を操ることが出来ると言うこと。

 そして、過去に存在が確認された三体の内、清風を除く、二体は激しい破壊衝動をそのままに、世界を破滅に導く存在であったということだ。


「………プリセマリー………」


 恐る恐るだけど、羽津香がプリセマリーと同じ姿をしたエデンに向かって手を伸ばしていく。

 プリセマリーがこっちを見た。

 その瞳にもはや、生気は一切感じられなかった。

 またしても、胸の奥で何かが蠢いていく気がする。

 これは共感しているの?

 羽津香に向かって、ゆっくりとプリセマリーが手を差し出してきた。

 本当に、ゆっくりと、まるで獲物に狙いを定めるかのように。

 そして、狂風が吹き荒れた。

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