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清き風の物語~見守っているからね~  作者:
第五章:さよなら、プリセマリー
29/50

5-1


 かつて病院があったはずの場所に降り立つと、目の前に拡がっていたのは焼け野原だった。

 まだ太陽が昇っていない薄闇の世界の中、火柱が至るところで燃え上がっている。

 色々なモノが焼けこげている悪臭が鼻を突いてくるし、響き渡る悲鳴やうめき声は止まることを知らない。


「これは………ひどいです」


 地獄を現実にもってきたのような光景に羽津香は両手を口元にあてて、絶句してしまう。


「まったくだ。でも、見ているだけじゃ、世界も人々も救えないぞ」


 羽津香より先に辿りついていた七美は、倒れている鉄柱を何とかして持ち上げようとしている所だった。

 その鉄柱の下では、看護士さんが下敷きになっている。

 羽津香も急いで七美の側に駆け寄って、一緒になって鉄柱を持ち上げていく。


「ふんんんん」


 風の力を腕に込めて非力な部分をカバーして何とか、看護士さんが抜け出せるだけの隙間を作り出すことが出来た。


「さあ、早く。こっちです」


 七美が差し出した手を看護士さんが何とか掴み取って、そのまま一気に、引きずり出した。

 無事だった別の看護士さんに、後を任せると、二人はまた辺りを見渡していく。

 本当に、前触れもなく、病院内で爆発が起きたのだろう。

 果たして、これは生存者がどれくらい残っていることだろうか………。


「ねえ、ちょっと……お願い………目を開けてよ……」


 燃え上がっている炎の合間を抜けて、知った声が耳朶を打ってきた。

 慌てて声の方を向くと、そこでは、プリセマリーが誰かを守るように、しゃがみ込んでいた。


「プリセマリーっ!」


 羽津香が慌てて、彼女の側へと向かっていく。

 声にプリセマリーも気づいたみたいで、涙で濡れた瞳で、羽津香の方を向いてくる。


「アクエアリお姉ちゃん………」

「大丈夫ですか、プリセマリー。お怪我とかしていませんか?」


 側に駆け寄るなり、彼女の体を見渡してみるけど、それらしい外傷は見あたらなかった。 流石と言うべきか、サルティナだけあって、体は頑丈みたいだ。


「プリセは、大丈夫だよ。でも、でも、でも、ルティルダさんが!」


 涙で真っ赤に染め上がった目で見下ろす先には、傷だらけのルティルダが横たわっていた。

 羽津香は慌てて、ルティルダの側にまで駆け寄っていって、彼女の容態を確認していく。

 見た目の傷は非道いけど、出血多量になるような深い傷はない。

 呼吸も正常だし、どうやら衝撃で、意識を失っているだけみたいだ。


「大丈夫です。ルティルダも、命に別状はありません。ただ、意識を失っているだけのようですよ」


 プリセマリーを安心させるように優しく微笑みかけて上げると、プリセマリーもがんばって涙を止めて、羽津香に向かって微笑みかけてくれた。


「それにしても、これは一体何が起きたというのかい? サルティナ、お前の仕業か?」


 羽津香とプリセマリーの間に割って現れた、七美が問いかけてくる。今すぐにでも、プリセマリーを攻撃してしまいそうな殺気が、体中からにじみ出ていた。

 プリセマリーも七美の殺気を敏感に感じ取ったのか、またしても涙をためながら、ゆっくりと首を横に振っている。


「ち、ちがうよ。これは、プリセのせいじゃないもん。プリセは、ただ、ルティルダさんから、イフエティーさんの話を聞いていただけだもん。そしたら、急に……爆発したんだもん」

 それが真実なんだろうね。

 だけど、七美はプリセマリーに向けている殺気を鞘に収めることはない。

 プリセマリーがサルティナだから、言葉を信じられないのだろうか?

 だったら、そんなのは、サルティナ差別も良いところだ。


「もう、駄目ですってば、七美」


 頭が固くて、分からず屋の七美なんて、後ろから抱きしめてしまって、黙らせれば良いの。

 羽津香は、七美に後ろから迫ってみたけど、


「はっ!」

「はへ?」


 そのまま見事に、背負い投げされてしまった。

 逆に返り討ちにされてしまった。


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