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消灯された病院に、月明かりだけが差し込んできている。
羽津香の前には、一向に目を覚ます気配のないイフエティーと、そんな彼の前に踞って、声を出さずに泣き続けているルティルダだった。
点滴が落ちる音と、ルティルダの押し殺した泣き声だけが、耳朶を打ってきている。
結局、羽津香が何度呼びかけても、イフエティーが目を覚ますことはなかった。
最後の希望も叶わず、もはやイフエティーを助けるための手だては残っていないのかな?
………いや、違う。
もう一つだけ、イフエティーを助け出す方法があるかもしれない。
みんなきっとそれに気づいているけど、口に出すことも出来ないでいる。
だって、それは、彼を助け出すために、羽津香の大切な友達を殺すことになるのだから。
「ねえ、アクエアリお姉ちゃん。そこの男の子って、プリセが死ねば助かるの?」
静かだった病室がさらに一段と静かになった。
ルティルダの泣き声が止まって、縋るかのように、真っ赤に晴れ上がった瞳でプリセマリーを見ている。
「あなた、真瀬のために………死んでくれるの?」
プリセマリーは見て分かるぐらいに震えている。
肩が外れてしまうんじゃないかってぐらいにガタガタと大きく震えている。
それはそうだよね。
だって、死ぬんだよ。
怖くないなんて絶対に嘘だよね。
「ちょっと、何を言っているのですか、プリセマリー! あなた、自分が何を言っているのか分かっているのですか?」
羽津香は震えているプリセマリーを押さえつけるかのように強く肩を抱き締めるけど、逆にらみ返されてしまった。
「プリセマリー………?」
目元には涙を貯めている。
捨てられた子犬のように震えている。
でも、その瞳の奥には、揺るぎない勇気があった。
間違っていると分かっていても、自分の信じる正義を貫こうとする信念がそこにあった。
それ以上何も言えなかった。
ゆっくりとプリセマリーから手を離していく。
プリセマリーも少しは落ち着きを取り戻したのかな。
体の震えがかなり収まってきている。
「ごめんね、アクエアリお姉ちゃん。でも、プリセは誰からも必要とされていないけど………誰かの役に立てるかもしれないんだよね」
そんな目で見つめられて羽津香が何かを言い返せる訳がなかった。
だって、一緒だから。
世界中から、エデンは悪だと言われようとも、羽津香だけはエデンとは友達になると信じている。
そんな羽津香に、己の正義を貫こうとしているプリセマリーを止めることなんて出来る訳がなかった。
「分かりました。でも、羽津香は誰かを守るために、誰かを犠牲にするなんて絶対に出来ません。ですので、プリセマリーがなんと言おうとも、羽津香は、プリセマリーもイフエティーも助け出す方法を見つけ出すことを諦めません」
とは言うもの、そんな都合の良い方法が何処にあるのかまだ分からない。
でも、羽津香はみんなを救うための道を絶対に諦めたりしない。




