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清き風の物語~見守っているからね~  作者:
第四章:帰還 そして、平行線
25/50

4-2


 物珍しい木の実で興味を引いたのが功を奏して、検問を簡単に通過することが出来た。


「プリセマリー。もう、顔を出しても大丈夫ですよ」

「う~~~~ぷわあああ」


 荷台に引き詰められていた木の実。

 その中から羽津香みたいにローブで全身を隠したプリセマリーが顔を出して、小さく深呼吸をしている。


「少しばかり、苦しかったでしょうか、プリセマリー? 木の実を詰めすぎたのでしょうか?」

「ううん、違うよ。騎士団の人にばれないか怖かっただけだよ」

「それは、確かに、私も一緒ね。もし、あそこで騎士団がこの木の実の中に手を入れて、このサルティナが隠れていることがばれたらどうするつもりだったの?」

「さあ、そこまでは考えていませんでしたよ」


 馬車の手綱を握っているルティルダが盛大に肩を落とした。

 そのため、馬車の方向が急激に変わって、


「きゃあああああ」

「わあああああ」


 羽津香とプリセマリーは慌てて、荷台に捕まって振り落とされるのを耐え抜いた。


「もう、いきなり危ないじゃないですか!」

「いや、ごめん。でも、あんたも、もう少し考えがある作戦かと思ったら、すごい行き当たりばったりの作戦だったんだね。あ~~、成功してよかった~~」

「はい、失敗したときの事はあんまり考えてませんでしたけど、どうすれば成功するかはこれでも一生懸命に考えていましたらね」


 フードが邪魔して、よく見えないけど馬車の進む先、小高い丘の上に立っている一際立派な建物が見える。

 あれが、王宮だね。

 エデンの宝石に、従者とマスターの距離感を伝える力はないが、羽津香の下半身の感覚は、羽津香の意志に関係なく、七美に伝わってしまう。

 七美の感覚を持ってすれば、ただ羽津香が歩いているだけで、その地質から羽津香の歩いている場所を感知出来てしまうかもしれない。

 歩くところ、注意しないとエデンの黄金石を通じて、羽津香が戻ってきた事が七美に気づかれてしまう。




 馬車に揺られること数刻。

 やっと、イフエティーが入院しているという病院にやってくることが出来た。

 ルティルダ共々馬車から飛び降りて、病院の中を一気に駆け抜けていく。


「真瀬っ!」


 扉を開くなり、ルティルダは病院の中だというのも関係なく叫んだ。

 病室の中には、形容できない具リア蒼白になっているイフエティーと彼の側に寄り添っている数人の看護婦さんがいた。


「すみません、真瀬は! 真瀬は大丈夫なのですか?」

「ええ、まだ意識は保っています……ですが、以前予断を許さない状態です………」


 看護婦さんの答えを聞くなり、ルティルダはイフエティーの側にまで駆け寄って、彼の耳元に必死に呼びかける。


「真瀬、私よ、ルティルダよ。ほら、聞こえる? 聞こえなさいよ! あなたが言っていたように、主席メイドを連れてきたのよ………だから、お願いよ、死なないでよぉぉぉぉ!!」


 魂からの慟哭とさえ思えてしまう程の絶叫が響き渡っていく。

 それは必死の願いだった。

 世界中に願いを聞き届け欲しいと懇願しているかのような、哀しみに満ちた叫び声だった。

 こんな声を聞いたのは、これで二度目だった。

 一度目は、清風が七美に負けて封印される瞬間だ。

 あの時の羽津香の叫び声にも負けて劣らないほどの声が、想いが、懇願が、ここにはある。


「イフエティー。呼ばれてやって来ましたよ。だから、早く目を覚まして下さい。そして、今度は、羽津香とイフエティーとルティルダの三人で………あの部屋で一緒にご飯を食べましょうよ」


 羽津香もイフエティーの耳元で何度も叫びかける。

 大切な友達がまた、笑ってくれるように、何度でも呼びかけ続けていく。

 でも、結局はルティルダの願いも、羽津香の声もイフエティーに届けることは出来なかったのかな?

 どれだけ、声をかけ続けても、結局はイフエティーが目を覚ますことはなかった。

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