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清き風の物語~見守っているからね~  作者:
第三章:プリセマリー救出作戦
23/50

3-9


 そして、羽津香のプリセマリーの逃避行は二週間を迎えたその日に、終わりを告げることになった。

 コンコンコン。

 ログハウスの扉が誰かにノックされた。

 今は羽津香もプリセマリーもログハウスの中にいるから、ついにこの場所を突き詰めた誰かがやって来たってことだ。

 プリセマリーが震えながら羽津香に抱きついてくる。

 でも、安心して良いよ。羽津香はフォルッテシモ神国で、主席メイドを勤めている強者なんだから、そこらの暗殺者ぐらいじゃ、逆に返り討ち出来るんだからね。


「申し訳ありませんが、どちら様でしょうか?」


 怯えているプリセマリーを背中で庇いながら、扉に向かって問いかけた。

 すると聞こえてきたのは、ちょっとばかり意外な人の声だった。


「私、ルティルダ・詩杏よ。その声、やっぱり、アクエアリなのね。あなたがいるということは、例のサルティナも一緒なのかしら?」

「ルティルダ………どうして、ここが、お分かりになったのですか? それに先の怪我の方はよろしいのですか?」


 一時は和解したとは言え、ルティルダの本来の目的は、サルティナであるプリセマリーの体を利用して、彼女の大切なイフエティーを救うことだったはず。

 ログハウスの中の風の気流が変わっていく。

 プリセマリーが本能的に風を集めている。


「大丈夫ですよ、あなたは羽津香が、何があっても守り抜いてみせますから」


 プリセマリーを興奮させることは、彼女のエデン化をより進行させる危険性も持っている。

 プリセマリーの肩をそっと抱きしめて、羽津香は安心させるように耳元でそっと囁いた。


「やっぱり、そこにあのサルティナもいるのね」


 風が吹き抜け、ログハウスの扉がいとも簡単に切り裂かれてしまった。

 ルティルダの強くて、彼女らしい一直線の風は、でも何処か迷いが感じられる。


「………ルティルダ?」


 再会した彼女は、二週間前とは比べモノにならないぐらいに憔悴しきっていた。

 眠れていないのか、目元にははっきりと隈が残っている。


「やっぱり、天使王様が言ったように、この森の中にいたのね。天使王様も詳細まで知らないから、探し回ったわよ」


 その言葉に嘘はないみたい。

 一歩を踏み出すだけでも足腰はしっかりとせず、ふらついて、壁に手をつくことで何とか体勢を保っている。

 でも、彼女はありったけの気力を振り絞って、


「お願い、あなた、イフエティーの友達なのよね。そんなサルティナなんて放って今すぐ、王都に戻ってきてよ!」


 鬼気とした瞳で睨み付けてきた。

 充血したその眼力に圧倒され、背中に隠れているプリセマリーが思わず「ひぃぃ」って泣き出しそうな悲鳴を上げていた。


「落ち着いて下さい、ルティルダ。一体何があったというのですか? どうして、羽津香を連れ戻そうとするのですか?」

「真瀬が、危篤状態なのよ! もう何時死んでもおかしくない状況だって、先生が………。でも、そんな真瀬が………意識も、もうろうとしているはずの真瀬が、何故かアクエアリの名前を呼び続けているのよ! 訳分からないけど、真瀬が望んでいるなら、叶えて上げたいって思うのは、当たり前のことじゃないのよ!」


 理由はよく分からないけど、イフエティーが羽津香のことを呼んでいることだけはよく分かった。

 友達が危篤状態で、苦しんで助けを求めているのに、その声を無視するなんて羽津香に出来るはずなんて無い。


「状況は大体分かりましたわ。ですが、イフエティーの元に向かうのには、一つだけ条件がありますが、よろしいでしょうか?」

「………それは、何なのよ?」

「羽津香だけが行くのではありません。プリセマリーも一緒に、王都に戻ります。彼女だけを一人ここに置いてなど、羽津香には出来ません」


 ルティルダに負けずとにらみ返す。けして曲げない決意がここにあるって見せつけるために。


「何を言っているの。主席メイドであるあなたは、特権的に指名手配は免れているけど、そこのサルティナは違うわ。天使王によって、王都、いや、国中に指名手配がかけられているのよ。国民の全てが、そのサルティナの顔を知っているのよ。そんな中、王都の中に無事に入れるわけなんてないでしょう!」

「だから、ルティルダも、サルティナであるプリセマリーが無事に王都に潜入できるように、ご協力して下さい」


 ちらりと後ろを振り向けば、プリセマリーが震えていた。

 彼女は、自分が何時、エデンに成ってしまうのか不安で怯えて続けている。

 大丈夫だよ。

 そう伝えて上げたかった。

 エデンになることは怖い事じゃないよ。

 エデンになっても、絶対に守ってあげるよ。

 でも、そんな想いを伝える術は何一つ持っていなかった。


「大丈夫ですよ、羽津香はプリセマリーを見捨てたりなどしませんから」


 羽津香はそう言って、プリセマリーの柔らかそうな頬を両手で包み込んで上げた。

 プリセマリーの震えが少しずつ収まっていく。


「さあ、時間がないのは、多分、羽津香もルティルダも一緒ですよね。悩んでいても、羽津香達の答えは一緒ですよね。ならば、早いところ行きましょう」

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