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「ふぅう。一仕事完了です」
メイド服の裾で額の汗を拭って、羽津香はご満悦だった。
小川から汲んできた水と雑巾だけで、あの埃だらけのログハウスを、まるで新品同様にまで磨き上げたんだから、成果を自負しても罰は当たらないだろう。
清風と羽津香の思い出が詰まりに詰まったこのログハウスは、けして大きな部屋じゃない。
一般的な大きさの部屋が一室だけあって、その上その中に、物置台とかも置かれているんだ。
四人も入ればもう一杯な狭いログハウスだ。
でも、ここには掛け替えのない思い出が詰まっている大切な場所なんだ。
「清風………」
珍しく羽津香から弱音が出てくる。
やっぱり、ここに来てしまうと、どうしても思い出してしまうよね。
羽津香の瞳から涙がこぼれ落ちて、哀しく頬を伝っていくよ。
「………アクエお姉ちゃん、どうして………泣いているの?」
「プリセマリー! 目が覚めたのですか?」
今度はメイド服の裾で涙を拭いて、急いでプリセマリーの側まで駆け寄っていく。
今、羽津香のことを見て、アクエお姉ちゃんって言った。
それはつまり、今はちゃんと、プリセマリーの記憶があるって事で、エデンに体を支配されていないって事だ。
「ちょっと、アクエお姉ちゃん。いきなり抱きついて苦しいよ………」
「良かった。清風に続いてプリセマリーまで、エデンになってしまったら、羽津香は………また、大切な人を守りきれないのではと思うと………つい、泣いてしまったのです………大丈夫ですか、プリセマリー?」
「うん。凄く怖い夢を見ていた気がするけど………アクエお姉ちゃんの声が聞こえてきたから、悪夢に打ち勝つことが出来たんだよ。でも、きっともうすぐ、プリセは、悪夢に負けちゃうんだよね………」
羽津香がぎゅっと抱きしめて、プリセマリーも抱きしめ返している。
「プリセは………もうすぐ、エデンになっちゃうんだよね」
「違います。そんなこと、羽津香が絶対に阻止してみせます。そして、もしプリセマリーがエデンに孵化してしまったとしても、羽津香は………あなたの友達で居続けてみせます」
サルティナを守ると言い続けている少女と、エデン化の進行が末期に近づいている少女は、お互いに抱きしめあい、涙を零していた。
世界から切り離された様なログハウスの中で、二人の泣き声だけが耳朶を打ち続けた。




