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フォルッテシモ神国の首都から少しだけ離れるとそこはもう、緑豊かな木々に囲まれた森林になっている。
意識を失っているプリセマリーを抱きかかえながら、羽津香は何一つ目印がない森の中を歩いていく。
目印なんて何もなくても、羽津香が迷うことなんてない。
何故なら、この森で過ごしたさの三ヶ月は、羽津香と清風にとってこれ以上ない思い出に満ちあふれた日々だったのだから。
どれだけ時間が経とうとも、色あせることなんてない。
「………よかった。まだ、残っていてくれたのですね」
視界を遮っていた木々が開いた先に、少しだけ朽ちているログハウスが見えた。
流石に手入れをすることなく放置していたから、朽ちているのは仕方ないけど、まだ使えそうだった。
締まりの悪い扉を無理矢理押し開いて、中にはいると予想していた通り、埃が舞って、
「ぎゃほげほ」
羽津香は思わず咳き込んでしまった。
まずは気を失ったままのプリセマリーを安静にさせないといけない。
アクトリスの研究施設から逃げ出す際に、エデン化がさらに進行している前兆なのか、プリセマリーは気を失ってしまって、それ以降全く意識を取り戻す気配はない。
「例え、あなたがエデンになろうとも、羽津香は友達のままですよ」
比較的埃の少ない床にプリセマリーを寝かしつける。
ぐるりとログハウスの中を見渡していくと、物置台の上にまだ桶が残ってくれていた。
羽津香は桶を手にとって、近くの小川に向かうことにした。
物置台の中には雑巾もあったし、ここが主席メイドの腕の見せ所だ。




