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清き風の物語~見守っているからね~  作者:
第三章:プリセマリー救出作戦
19/50

3-5


「天使王だと………どうして、ここが分かったんだ?」

「そこに、ボクの脚がいるからね。彼女から緊急SOSが伝わってきて、飛んで駆けつけてきたのだよ。しかし、羽津香、これはボクが来なければならない程の緊急事態だったのかな? 見たところ、例のサルティナが一体いるだけだけど?」


 さて、ここで伏線回収と行きましょう。

 まず最初に、羽津香の頭と胸とおへそにはそれぞれエデンの宝石と呼ばれる宝石が埋め込まれている。

 そのうち、おへそに埋め込まれている黄金石は、羽津香のおへそから下、つまりは下半身の感覚を、同じ黄金石を持つマスターに伝達することが出来る。

 その黄金石のマスターって言うのが、大嫌いな七美だ。

 つまり、七美はどんな時であろうと羽津香の下半身の感覚を強制的に感じちゃう訳。

 これが一つ目の伏線だね。

 そして、アクトリスの隠れ家に入るときに羽津香が自分の足を叩いた。

 アクトリスに注意されて止めざるを得なかったけど、あの行為って実はモールス信号だったわけ。

 アクトリスの隠れ家の場所や羽津香の危機的状況を、黄金石を通じて七美に伝達していたって訳だ。

 だから、アクトリスから選択を迫られたときに、羽津香はあえて時間稼ぎをした。

 羽津香からの情報を得た七美が、この場所にやってくるだけの時間を稼ぐためにね。


「ええ、大問題ですよ。だって、そこの彼は、清風の封印を解いて………実験モルモットに使用としているのですからね」

「エデンの封印を解くか………なるほど、それは確かに大問題だね」


 アクトリスはまるで騎士団に憧れる少年のような純粋な視線を七美に送ってきている。


「なあ、天使王。少し、今後のために確認させてくれないか?」

「何かな。答えられる範囲でなら、教えて上げるよ」

「お前が王家に代々伝わる秘術で、イールシェット・清風を封印したんだよな?」

「その通りだよ。でも、そんな事は国民全員が知っていることだね。キミが聞きたいのはそんな事じゃないよね」

「もちろんだ。俺が確認したいのは、イールシェット・清風。すなわち、エデンを復活させるための方法だ」

「ほう? 残念だが、そんな国を危険にさらすような機密事項は、教えることが出来ないね」

「なら、聞いてくれるだけでも良いぜ。俺が調べた所では、エデンに施した封印の風の術を破るための方法は二つだ。一つは、術者が女性だった場合、その物の処女性を奪うこと。そして、もう一つは術者が風の力を維持できない程に疲弊してしまうこと。このいずれかだな」


 アクトリスの言葉に七美は表情一つ変えていない。

 流石、一国を治めていることだけあって、見事なポーカーフェイスだ。

 でもでも、アクトリスが言っている、清風の封印解除方法は正解だった。

 だから、夜な夜な羽津香は七美に夜這いしてなんとか処女を散らせてやろうと画策しているのだけど、一向に上手くいかない。


「戯れ事は終わりかい? ならば、エデン復活並びにサルティナの隠蔽という特級犯罪を行ったキミを拘束させてもらうよ」


 七美がまるで駆け出そうとしているかのようにゆっくりと腰を下ろす。

 彼女の足下か風が渦巻いて螺旋状に上り詰めている。

 通常、羽津香達風の民は、拳に力をためることで風の力を生み出すのを得意としている。

 だが、七美は常人とは異なり、足から風の力を生み出す方が得意としている。

 そのため、七美の戦闘方法も足技を主とした戦法になっていく。


「はあああああああ!」


 七美の足下から産み出された風が、竜巻となった。全てを飲み込んでいく突風がアクトリスの研究施設の中で、暴れ回っている。


「なんだと! 馬鹿か、天使王! こんな密閉空間でそんなことしてしまえば、お前達まで無事では済まないだろうが!」


 アクトリスは自分の風で、迫り来る研究機材の破片から身を守るので精一杯だ。

 こんな密閉空間で竜巻を産み出すなんて、無茶苦茶で、豪快な戦い方としか言いようがない。

 竜巻に飲み込まれた研究機材がボーガンのように休むことなく打ち出され続けている。

 並の人間なら、自分の身を守るだけで精一杯だっただろう。

 だが、羽津香は主席メイドだ。

 戦闘能力だって、そこら辺の奴には負けたりなんかしない。


「これがチャンスなのですよね」


 荒れ狂う竜巻の中、羽津香は進んでいく。

 迫り来る研究機材の残骸をかいくぐり、時には風の力ではじき飛ばして、前に進んでいく。

 羽津香には助けたい大切な友達がいる。

 七美も竜巻が荒れ狂う中を、前に進んでいた。

 七美は考え方が全く違う、嫌な嫌な嫌な奴で、大嫌いだ。

 でも、羽津香が絶対に曲げない信念を持っているように、七美にだって絶対に屈したりしない正義を持っている。

 だから、七美のことは大嫌いだけど、信じられる。

 羽津香が手を伸ばした先に掴み取ったのは、サルティナであるプリセマリー。

 七美が手を伸ばした先に掴み取ったのは、国民であるルティルダとイフエティー。

 それぞれが守りたいと願ってやまない人たちを、自分の信念に抗うことなく守り抜いた。

 羽津香が見ている先で、七美が苦虫を噛みつぶしたように顔を歪めている。


「ありがとうございます、七美。羽津香は、あなたは絶対にルティルダ達を助けてくれると信じておりました!」


 羽津香はこれ以上ない笑顔で七美にお礼を言ったけど、七美は苦虫を噛みつぶしたような顔でこちらをにらんでいる。


「全く、キミはこのボクを利用したというのかい? この犯罪者が」


 七美の顔がさらに歪んでいくよ。


「犯罪者でも構いませんよ。それで大切な人が守れるのでしたらね」


 七美を中心として、さらに風が巻き上がっていく。でも、この狭い研修施設の中では、まだ台風が暴れ続けているから、いつものように風の力で羽津香を蹴り飛ばすことは出来ない。

 粉々になった研究設備が竜巻に吸い上げられて、まるで砂嵐のように羽津香の視界を覆い隠していく。

 そして、がらくただらけの竜巻の中、羽津香は一気に戦線を離脱していった。


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