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 極北の国、フィザーンの冬は長く暗い。

 南部に位置する首都オルボリンナでも、朝のかなり遅い時間にならないと空は明るくならない。そして僅か数時間後には、黄昏に呑み込まれていく。

 夜に冷やされ凍った空気は、市街とそれを取り囲むように点在する森や湖に深く沁み渡り、融けることなくそのまま次の夜を迎える。朝の寒さは、だから日を重ねるごとに厳しく辛いものとなる。


 夜の明けない朝の時間、この日もイルマイラはオルボ宮殿の暗い祈禱室(きとうしつ)で、ひとり精神を研ぎ澄ませていた。

 軽く伏せていたまぶたの向こうで、ふいに、水面(みなも)が陽に煌めくような眩しさが視界に差し込んできた。慣れ親しんだ感触、予見の前兆だった。

 息を詰め軽く身構えた瞬間、光の糸で織りあげられるように、その光景は唐突に現れた。

 滑らかな黒髪が目の前に流れ落ちてくる。

 風に黒い髪を踊らせているひとりの娘の姿が、そこにはあった。

 イルマイラは予見者(よけんしゃ)だった。国の未来の光景を見、よりよき道へと導く国付きの筆頭予見者。

 緑溢れる光の中、黒髪の娘は穏やかに微笑んでいた。隣に誰かがいるのか、時折そちらに視線を上げ、幸せそうに話している。

 ―――誰?

「!?」

 食い入るように見つめていたイルマイラは幻視した光景に目を瞠り、あまりのことに身を震わさずにはいられなかった。

 胸に、赤子を抱いている。

 ―――あれは……!

 あの赤子は。

 波のように揺らめく光景は、幾つも幾つも移り変わる。それらから導き出される、ひとつの結論。

 激しくなる鼓動に、息を整えるのも追いつかない。胸に手を添え、溢れかえりそうな気持ちを懸命に落ち着かせる。

 この予見の意味するところは、ただひとつしかなかった。


 まろぶように祈禱室から出たイルマイラは、すぐさま王に報告をした。

 辺縁(へんえん)から姫君がおいでになる。

 王太子殿下を授けてくださるために。

 このフィザーンに、神が姫君を遣わしてくださる―――。

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