序章 シャボン玉の唄
散らばった七色の積み木。トネリコの枝から降りた丸太ブランコ。石鹸玉の内外を舞う半透明な妖精達。
「こんばんは」
砂場に出来た山の際に建つ積み木の塔。その頂上に真っ赤な三角屋根を置こうとした少年が振り返る。
「こんばんは、小母さん。遅かった?」
「小母さんは大人だから夜更かしする事もあります。友達との楽しいお喋りの電話とか」
「白い鳩の?」
途端、頭上から瞳まで真っ白な鳩が数羽公園に舞い降りた。気難しい彼には珍しくイメージが気に入っているらしい。
「残念、電話していたのは普通の雀さんです」
お返しに両手を組んでパッ!と放す。チュンチュン囀る白黒茶色の小鳥は、しかし見慣れないせいか鳩程興味を引かなかったようだ。
「僕、“あっち”キライ。小母さんはいないし」ポケットから零れんばかりの錠剤を取り出し、わざと落として全部念入りに踏み潰した。「“あっち”では飲んでも飲まなくてもぶたれる。僕、ずっとこの淡いにいたいよ。毎日楽しい夢を眺めて、偶に小母さんとこうして」
「それは無理。夢の世界ならともかく、ここで肉体を失った魂を変質無く維持し続けるのは不可能です。無害な死霊ならいいけれど、最悪悪霊化して人を襲うようになります」
「でも小母さんは」
「小母さんは誤魔化すのが上手なだけです。身体もあるし、ね」
パタパタパタ……雀がシャボン玉の箱庭から飛び立って行った。今宵は気に入った夢にお邪魔するのだろう。
―――ねえ、またあの歌を歌って。
―――いいわよ。余り大きくならないように。
幸福な夢を見ているはずだ、私は。悪夢でない、現実に限り無く近い夢を。
「一つ訊いていい?」
―――この人形が、主とあなたの祈りを受けて病を癒すでしょう。
「あなた、本当は誰なの?」
義息のフリをした者はニヤリ、子供では有り得ない不気味な表情で嗤う。
「私を忘れたの?」
ぱちん、とシャボン玉が割れた。