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運があれば異世界最強! 〜前世最悪だった僕、運だけで無双する〜  作者: 咲夜


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運だけで噂を流したら、民主化革命が起きました

ヴァルカン軍事国家の国境近くの森の中。空調の効いた快適な馬車で一晩を明かしたルークは、朝の光とともに目を覚ました。


アイリスが用意してくれた温かい朝食を食べ終えると、ルークは思案顔で腕を組んだ。


「う〜ん……昨日はいろいろ考えたけど、やっぱり部屋の中に閉じこもっていても良いアイデアは浮かばないよね。何か解決のヒントがないか、もう一度街の中を調べてくるよ」


「お気をつけてくださいませ、ルーク様。くれぐれもご無理はなさらないでくださいね」


アイリスが見守る中、ルークは『変化のマント』を身に纏い、ヴァルカン軍事国家の一般市民の姿へと変身すると、単身で城下町へと向かった。


◇


昨日は軍の司令部に潜入したため、今度は民衆が暮らす一般の市街地を歩いてみることにした。


街へ足を踏み入れたルークは、すぐに異様な違和感を覚えた。


(あれ……? なんだか、街の人たちの顔がすごく暗いなぁ……)


昨日潜入した軍の司令部では、将校たちが余裕たっぷりに笑みを浮かべていた。しかし、この街を行き交う民衆の表情は対照的に暗く沈み込み、誰もが疲れ果てた顔でうつむきながら歩いている。司令部と民衆の間の温度差があまりにも大きすぎるのだ。


「何か事情があるのかな……直接話を聞いてみよう」


そう思ったルークは、通り沿いにある食堂へと足を踏み入れた。


店内は昼前だというのにどんよりとした空気が漂っている。ルークは空いているテーブル席につき、隣の席に座る二人の男性客の会話にそっと耳を傾けた。


「……はあ、また税金が上がるらしいぞ。今度は小麦の徴収量が二割増しだ」


「冗談じゃないぜ。ただでさえ年中どこかと戦争していて、稼ぎのほとんどを軍税で持っていかれているのに……これ以上どうやって生きていけっていうんだ」


「食い物だってひどいもんだろ。まともな食材は全部軍に持っていかれて、この食堂の料理もカサ増しされた味気ないスープと干からびたパンばかり……そのくせ値段だけは跳ね上がっていやがる!」


「それだけじゃない。うちの十七歳になる息子にも、来月軍からの徴兵令状が届いたんだ。あんな前線に行かされたら、生きて戻れるかどうか……」


「この国には娯楽の一つもありやしない。毎日毎日、お上の戦争のために死に物狂いで働かされて……俺たちは一体何のために生きているんだろうな」


隣の席から漏れ聞こえる切実な悲鳴に、ルークは胸を痛めた。


(そうか……この国の人たちは、絶え間ない戦争のせいで過酷な重税と強制徴兵に苦しめられて、まずくて高い食事にもずっと不満を溜め込んでいたんだ……)


ヴァルカン軍事国家の層は、上層部の好戦的な意思とは裏腹に、足元の民衆の心がすでに限界を迎えて破綻しかかっていたのだ。


(もしかして……軍事国家を内部から変えることができるんじゃないかな?)


ルークの頭に、ある一つの閃きが舞い降りた。


武力でこの国を力任せに叩き潰せば、双方に大きな犠牲が出る。だが、この国に住む民衆自身が「自分たちの意思で国を変える」と立ち上がるなら、無理な戦争そのものを止められるかもしれない。


ルークは隣のテーブルの男性客たちに向かって、世間話を装うように明るい声をかけた。


「あのう、お話が聞こえてしまったんですが……大変ですね。僕、旅の商人なんですけど、ここから遠く離れた『グランヴァリア王国』という国に行ってきたばかりなんですよ」


男性客の一人が不機嫌そうに振り返った。


「グランヴァリア王国? ああ、あの大大陸にある5大国の一つか。それがどうしたってんだ」


「ええ、すごく良い国だったんですよ。あんな大国なのに完全な中立国で、基本的に他国と戦争なんて一切しないんです。町は豊かで治安も良く、夜でも安心して出歩けるんですよ」


「はあ? あんな大国が一切戦争をしないだと? そんな夢みたいな話があるわけ……」


ルークは【運∞】の加護を全身に纏いながら、グランヴァリア王国の魅力を具体的に語り続けた。


「それだけじゃないんです。食事がとにかく美味しくて、新鮮な野菜やお肉、それに冷蔵庫を使った冷たい飲み物まで、すごく安く食べられるんですよ。税金もこの国の半分以下ですし、街には『王立グラン劇場』っていう素晴らしい舞台が見られる劇場や、夜空を彩る幻想的な魔法花火ショーみたいな娯楽が溢れているんです」


「な……! 食事が旨くて安いだと!? た、税金も半分以下で……娯楽まであるというのか!?」


「はい。それに子供たちが勉強できる『語学学校』まで整っていて、みんな将来の夢に向かって笑顔で暮らしているんです。本当に幸せそうな国でしたよ」


ルークが語るグランヴァリア王国の豊かな暮らし。それは、ルーク自身がこれまで仲間たちとともに試行錯誤し、作り上げてきた実績そのものであった。


ルークの言葉には、運∞の効果もあり、聞く者の心を強烈に惹きつけ、隠された真実へと開眼させる圧倒的な説得力が宿っていたのである。


「な……なんだって……!? 世の中にそんな夢のような暮らしをしている国が存在するというのか!?」


「それに比べて……俺たちのこの国はなんだ!? まずい料理に高い金を払わされ、上層部の贅沢と戦争のために搾り取られ、子供は徴兵される……!」


食堂にいた他の客たちもルークの話に聞き耳を立てており、一瞬にして店内は激しい衝撃とどよめきに包まれた。


自分たちがいかに理不尽で不幸な環境に押し込められていたのかを思い知らされた民衆の不満は、ルークの投げかけた一筋の光によって、一気に臨界点を突破したのである!


◇


ルークが流したグランヴァリア王国の噂は、まさに乾燥地帯に放たれた一筋の火種であった。


【運∞】の力によって噂は恐ろしいスピードで街中に拡散し、「グランヴァリア王国のような平和で豊かな国になりたい!」という民衆の切なる願いへと変わっていった。


「俺たちはもう戦争の道具じゃない!」 「過酷な重税をやめろ! 徴兵を撤回しろ!」 「俺たちにも美味い食事と人間らしい暮らし、娯楽を渡せ!」


噂が広まってからわずか数時間後。怒りに燃える数千人、数万人の民衆が街頭へと繰り出し、大規模な民主化デモ運動が発生した!


「うわあぁぁっ! なんだこのデモは!?」 「民衆が暴動を起こしたぞ! 鎮圧せよ!」


焦った軍の警備兵たちがデモ隊を抑え込もうと槍や銃を構えて立ちはだかった。


(まずい! このままだと民衆と兵士が衝突して犠牲が出ちゃう!)


陰で見守っていたルークは、すぐさま行動を起こした。


ルークは変化のマントで姿を消したまま、縦横無尽にヴァルカン軍の兵器庫や武器庫へと潜入した。


知識や構造を熟知しているルークは、保管されていた大砲、小銃、剣、弓矢、さらには魔導兵器に至るまで、固有魔法【影収納(シャドウストレージ)】を発動させ、全ての武器を影の中へと一瞬で丸ごと吸い込ませて持ち去ったのである!


「な、なにぃぃぃっ!? 武器庫の中身がスッカラカンだー!?」 「大砲も剣も消えている!? 一体どうなっているんだ!?」


武器を根こそぎ失った軍の兵士たちは、民衆を攻撃することができず、怒号を上げて押し寄せる巨大なデモ隊の波を前に、ただただ引き下がるしかなかった。


ルークの機転により、一人も傷つくことなく、民衆のデモ隊は王宮の目前まで到達したのである!


◇


「国王を出せ! 我々の声を聞け!」


大群衆となった民衆が王宮を囲い込んだ。しかし、分厚い王宮の巨大な鉄門は固く閉ざされ、中からの反応はない。


ルークは変化のマントを羽織ったまま、壁を飛び越えて王宮内部へと潜入した。


豪華絢爛な王宮の回廊を進むと、裏門近くの車庫で、金銀財宝をこれでもかと詰め込んだ豪華な馬車に乗り込もうとしている人物を見つけた。このヴァルカン軍事国家の国王である。


「ええい、素早く積み込め! 民草どもが暴徒化しおって、もうこの国は終わりだ! 蓄えた財宝を持って他国へ高飛びするぞ!」


悪徳国王は自らの欲望のために民を痛めつけておきながら、都合が悪くなると国と民を捨てて一人で逃亡しようとしていたのだ。


「自分の国と民を見捨てて逃げるなんて……絶対に許されないよ!」


ルークは影の中からヴォルカを呼び出した。


ルークの影が急速に巨大化し、そこから体長三十メートルを超える真っ赤な守護竜【ヴォルカ】が姿を現した!


「ひえぁぁぁぁっ!?? ど、ドラゴンが出たぁぁぁっ!?」


突如出現した巨大竜に、逃走を図ろうとしていた国王と護衛兵たちは腰を抜かした。


ヴォルカは巨体を揺らすと、逃走用の馬車をガバッと優しく、しかし絶対に動けないように押さえつけた。


「うわああぁぁっ! た、助けてくれぇぇっ!」


ヴォルカの頭の上に飛び乗り、王宮の大きなバルコニーへと躍り出た。そして、王宮を取り囲む数万人の民衆に向かって、声を張り上げた。


「みんな、聞いてくれー! 逃げようとしていた悪徳国王は、僕たちの手で捕まえたよー!」


巨竜の上に立つルークと、足元で捕らえられた国王の姿を見て、民衆から大きな歓声が上がった。


ルークは大声で言葉を続けた。


「これからは、一部の偉い人が勝手に戦争を決める国じゃなくて、国民のみんなが話し合って自分たちの暮らしを決める『民主的な国』にならなきゃいけないんだ! もしまた民を苦しめるような軍事国家に戻ろうとするなら……その時は僕が許さないからね!」


ルークの力強い宣言に、民衆は地鳴りのような大歓声と拍手で応えた。


こうして、長年過酷な軍事政権に苦しめられていたヴァルカン軍事国家は、ルークの持ち込んだ噂と【運∞】の導きにより、一人も犠牲者を出すことなく、平和的な「民主化革命」を達成したのである!


◇


ルークは捕らえた悪徳国王をそのまま縛り上げ、国境付近に陣を敷くアルシャール砂国とヴェルディア王国の連合軍本陣へと連行した。


「な……何ということだ……! 攻め込む前に、敵の国王が捕縛され、内部から軍事政権が崩壊したというのか!?」


連合軍の司令官たちは、目の前で起きた信じられない快挙に開いた口が塞がらなかった。


首謀者である国王が捕まり、ヴァルカン軍事国家が完全に武装解除して民主国へと生まれ変わったことで、戦争を継続する理由は完全に消失した。


「ルーク殿……貴方は本当に、誰一人として命を落とさせることなく、この巨大な戦争を終わらせてしまわれたのか……!」


司令官たちは感涙にむせびながら、即座に全軍へ停戦と撤退の命令を下したのだった。


◇


数日後。


無事にグランヴァリア王国へと帰国したルークたちは、国王様に一連の顛末を報告した。


「まさか……噂一つと民衆の力を生かし、一人の犠牲者も出さずに軍事国家を解体してしまうとは……。勇者ルーク、お主の深謀遠慮には脱帽するばかりじゃ」


国王様は深く頭を下げて称賛した。


そして後日、マリンフェル王国で中断されていた『5大国首脳会議』が正式に再開された。


円卓の冒頭、砂漠の大国アルシャール砂国の国王と、緑豊かな大国ヴェルディア王国の国王が立ち上がり、ルークに向かって深々と頭を下げた。


「勇者ルーク殿。貴方は我が国とヴェルディア王国の兵や民の命を、ただの一人も損なうことなく戦争を終結させてくださった。さらに、今回の戦争の首謀者であったヴァルカン軍事国家の国王を捕らえ、見事に平和的解決へと導いてくださった……!」


「この計り知れぬ功績に対し、我がアルシャール砂国より、感謝の褒美として金貨1,000枚を贈らせていただく!」


「我がヴェルディア王国からも、同じく金貨1,000枚を贈らせていただく!」


二大国の破格の申し出に、会場がどよめいた。


すると、それを見た主催国のマリンフェル王も頷いた。


「世界大戦争の危機を未然に防いでくれたのだ。我がマリンフェル王国からも、同等の金貨1,000枚を授与しよう!」


さらに歴史ある大国ヴェルガルド帝国の皇帝も笑みを浮かべた。


「ふむ、大国としての気概を見せねばな。我が国からも金貨1,000枚を出そう」


最後に、グランヴァリア王国の国王様が誇らしげに胸を張った。


「我が国の誇る勇者の偉業じゃ! 我が国からも金貨1,000枚を出すことに異論はない!」


「え……ええええぇぇぇっ!??!?」


ルークは目を丸くして絶叫した。


世界5大国の首脳陣が競い合うように金貨1,000枚ずつを放出し、合計でなんと【金貨5,000枚】という超大金がルークへと贈られることになってしまったのだ!


◇


グランヴァリア王国の自宅に戻ったルークは、リビングのソファでギルドの通帳を開き、そこに記された数値を二度見、三度見していた。


今回与えられた金貨5,000枚が加算された結果、ルークの総資産は【金貨7,200枚オーバー】という、開いた口が塞がらないレベルの巨額へと爆増していたのである!


さらに、毎月口座に振り込まれる所得も130枚を超えており、何もしていなくても資産が増え続ける状態であった。


「……あのさ、アイリス」


「はい、ルーク様?」


お茶を淹れてくれたアイリスに、ルークはひきつった苦笑いを向けた。


「僕、ただ誰にも死んでほしくなくて、みんなで仲良く暮らせたらいいなぁって思って頑張っただけなんだけど……なんでこんなにお金が増えちゃうんだろう……?」


アイリスはクスリと可憐に微笑んだ。


「ふふ、それこそがルーク様の徳と、世界を救われた聖者への当然の報いですわ。これほどの大金、一体何にお使いになりますか?」


「そろそろ本気でお金を使わないと……」


世界に平和をもたらした大勇者は、増え続ける資産の使い道に、頭を悩ませるのであった。

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