イチゴの香り
よろしく、凍星蚊帳っす。青い空に、月の白。月の淡泊さは冷ややかに。
しかし又、月がきれいですね。
何を書こうか、わたくしは。薄鼠の空はいつものようで、四角い木枠の縦の小窓からしんしんと雨音が染みてくる。なるだけ、なるたけ、そう手を動かそうともやはり、針時計のちっちっと打つ音のこの部屋にこだまするばかり。思い付かなさは確かな影を心に落として、そうして私の心象はこの雨脚の鈍さ加減に滲んでいた。
隅のランプの橙は木目の机を照らしていて、その電燈自身も又影を作る。ランプの笠は切り取るように支えだけの姿を壁に映しては影は三脚のよう。強調される木目、動かぬ指の影と差す明かり。が、その影を机の下へと落として、私は一人机の上に突っ伏すのだった。硬い感触が頬を刺す、角張った机の角に喉が押される、座り方も悪いのか腰の湾曲に感じる歯切れの悪い気持ちの悪さ、こうして私は一つ嘆息した。声もざぁと雨にかき消された。暫く伏してこと切れるように眠くなる、体のだるさが瞼に乗った。
つんつん。ねぇ、寝てるの~。ほっぺを指で押されていた。心地の良い指の押し具合にふふっと声が漏れてしまう。あぁ、やっぱり起きてんじゃん!私はあんまり構わない。ねぇ~、起きてんでしょ~。今度は頬をしつこく押してくる。半身のぬくもりに、仄かな風に、そうして知らないキミの声。私はじっとしていた、外からの日が本当に気持ちのよいもので私の呼気も緩くなった。も~、パフェ溶けますぞい。イチゴのパフェが二つ、温かな日の中に置いてある。そうだね、食べよっか。日当たりのいい窓際の席に私たちは向かい合っている、目の端に丈の長い植物のはっぱがちらちらと。イチゴの甘い香り、銀の匙で丁寧にほぐした薄紅になったほのかなクリーム、それをゆるりと口に運ぶ。おいしかった、おいしかったから君にも食べてほしいとそちらを向くと、キミの顔は微笑んでいる。ふふっ、おいしいね~。なんだよ、ほれ。私を見つめるキミが何だかいじらしくなったから、少し意地悪に、こじんまりしたイチゴのスプーンを彼女の方へとやってみた。にやけていたが、はむっとほおばるキミの瞳は私の瞳をじっと見ていた。すると途端に恥ずかしくなって見つめ合うのをよして、その視線を机の下に落とす。まだ余熱があるようだ、きっとパフェも溶けてしまう。だから・・・。そしてキミは笑った、も~(笑)っていう風に。ふへへ、手ぇ貸してみて。そう。私は手を伸ばす、するとキミが握ってくれる、この温もりがどれ程うれしいことかキミは知らないようで何だかきょとんとして。だから・・・。君が寂しくないようにおまじない。そういってこの手を両手で包んでくれる。だからさ・・・。君が壊れちゃわないようにおまじない。だから・・・。キミは私の瞳をじっと見つめた、なんにも溢さぬようにじっと、じっと。君が死んじゃわないように、上手に生きてくおまじない。だから私はこの夢を終わらせたくなかった。温かな日差しがパフェの器に昇った、もう私たちは平らげて、キミは私の手をやわらかな掌に包んだまま。もうじき終わる、もう会えないだろう、キミは私に近づいてほんのり香るイチゴの匂。
これからもお元気で、そうキミと私は唇にほのかなイチゴを感じた。
瞼を開けると橙の電燈が頬を照らしていた。もう雨は止み木枠の窓から空気が冷えた。胸が何だか冷ややかだった。私は眼の端に涙の玉を光らせていた。頬が何だか濡れていた。それを拭こうと手をやると、鉛筆を持っていることに気づいたんだ。
これからもお元気で。




