◇ ◇ おしまい ◇ ◇
◇ ◇ おしまい ◇ ◇
少し時間が流れました。
アング殿下ですが、当然王陛下の出したクエストをクリアすることはできませんでした。
善戦したとは言っておきます。
暫定王太子とただの王子では与えられる歳費も格段の差があります。
その中から賠償金を支払わされたわけです。毎年、大体半分ぐらいですかね。
その残りから王子としての公務に必要な費用を支払わなくてはいけません。
王子として働いた分ですか?
それがこの歳費ですよ。
食費はかからないのですが、衣装代は公務用のお仕着せ以外は自費です。
かなり切り詰めて、アイリス嬢の教育費用を捻出してました。
ご立派。
王陛下や王妃陛下に頭を下げて教師の手配をして教育体制を整えてました。
本当に頑張ったといっていいでしょう。
でも、世の中には頑張ればほめてもらえるお仕事と、結果を出さなければ何の意味もないお仕事があるのです。
もちろんこれは後者。
そもそも私は子供のころから上級貴族としてマナー教育を受けてきているわけです。それに加えて王族としてのマナーを別に覚えなくてはなりません。
ただこれは上級貴族としての基礎があればそれほど難しくはありません。
しかし立ち居振る舞いからその基礎となる知識まで、覚えることは多いです。
しかしアイリス嬢が受けてきたのは下級貴族としてのマナーでしかありません。
しかもそれも婚約者のいる男性に擦り寄ることを恥と思わない程度にしか身につけていないのです。
ほとんど最初からマナー教育をやり直すようなものですね。
私たちが子供のころから厳しくしつけられ、長じてからも日々の生活の中で磨いていくものを、十数年かけて覚えるものを、一年弱で身につけるというのはかなり難しいのではないでしょうか。
それに語学も徹底的にやらされます。
この大陸にはいくつも国があって、交流がある国を網羅しようとすれば自国語のほかに三か国語を覚えないといけません。
彼女、語学の成績は良くなかったはず。
しかも学校で教えているのは一つだけです。頻繁に使う同盟国の言葉だけ。
普通の令嬢ならそれで十分だからですね。
さらに経済の話、国際情勢の話、大陸の歴史、国と国のかかわり、そして国内の税金の話。
これらを僅か9か月で?
私が5年もかけて大変だったものを?
もし出来たら本当の天才ですね。
この国の未来を預けるに足る才媛と言えるでしょう。
もちろんそんなことはなく、試験に落ちてしまったのですが。
殿下の『開いた口が塞がらない』顔はとても面白かったです。
アイリス嬢はこんなの無理に決まっていると逆ギレしてましたけど、同感です。絶対無理だと思いますよ。
で、最終的にどうなったかというと、王子は臣籍に降ろされました。
と言っても、爵位を貰って領地を貰ってのんびりと、というほど我が国は甘くありませんでした。
王陛下曰く。
「王族が贅沢な暮らしをして許されるのは、その命が国のために費やされることが決まっているからだ。
その対価としてわれらは王族としての権力を振るうことが許されるのだ。
王族籍を失ったとしても、今まで王族として様々なものを享受してきた以上、それは国に返さねばならぬ。
そなたは騎士として前線に赴き、兵としてその命を国にささげるがよい」
ということで、アング殿下は一騎士として軍に入隊させられました。
アイリス嬢に関しては王族として利益を享受することが少なかったことから特別の温情で『修道院で神に仕えるなら前線送りを免除する』と言われて、当然のようにそれを選びました。
同じように民のために尽くすお仕事といっても危険はありませんからね。
ただハードさはどうでしょう。
話を聞いた限りだと結構大変そう。
後日、陛下は改めて貴族たちを集めて言いました。
「民は貴族の僕、貴族は王の僕、王は国の僕。そして国とは民である」
と。
つまり自らの行使する権利は、同等の義務をもって贖われるのだということです。
殿下もそういわれて育ったはずなんですけど、頭だって悪くないはずなんですけど、基本的に性格が春ですからねえ…
無理に婚約破棄などしようとしても結局はうまくいかないというお話です。
おしまい。




