◇ ◇ はじまりまじまり ◇ ◇
◇ ◇ はじまりまじまり ◇ ◇
「クラウディア・グランナ公爵令嬢・貴様との婚約をここに破棄する」
えっと、この国の王太子であるアング殿下が壇上で高らかに宣言しました。
その腕にはふわふわピンク髪の令嬢がしがみついています。
確か、学園でかわいいと評判の令嬢ですね。なんて立派な胸部装甲でしょう…
肩こりそうです…
あっ、皆様初めまして、わたくしがクラウディア・グランナです。
つまりあの残念な王子の婚約者ですね。
そして今は王国の最高学府、王立アカデミー高等部の卒業記念式典の真っ最中です。
「殿下、どういうことでしょう?
わたくしたちの婚約は、わたくしたちだけの問題ではありません。
それを前提に長い間いろいろな人が準備のために多大な労をとってくださっているんですよ」
ちゃんと文句を言いますとも。
殿下との婚約が決まってから、これも貴族の務めと、学校の勉強はもちろん、王妃として立つために、より高度な教育に耐えなくてはいけなかった日々。
やめましょう、はいそうですかというわけにはいきません。
それに、殿下は御覧の通り、結構アンポンタンです。なので『王妃になるあなたが頼みの綱よ』なんて現王妃様に頼まれているんですから簡単に放り出すこともできません。
「黙れ、お前がここにいるアイリス嬢に嫉妬して様々な嫌がらせをしてきたことはすでに聞いた。
まことに許しがたい。
お前のような心の狭い女が、王妃となったりすれば我が国は終わりだ!
ゆえにお前との婚約を破棄して、私はこのアイリス・アンタンを妻に迎えることにしたのだ。
アイリスはまことに心根の美しい娘だ。きっとこの国の王妃として暖かい春の時代をもたらしてくれるだろう」
はい、国に春が来る前に殿下のおつむに春が来ちゃったんですね。
困ったことです。
チラリと殿下の後ろを見ると殿下の側近の方たちがものすごく真面目な顔で後ろに並んでいます。
この顔は知ってましたね。
というか、殿下一人でこんな大舞台に出てこれるはずもないので、たぶん後ろの人たちが協力したんでしょうね。
何を考えているんでしょう…
「そうですか、では、このことは王陛下もご存じでいらっしゃる?」
「ぐっ…陛下もきっとご賛同いただける。
貴様のような罪人を王族に迎えることをよしとするようなお方ではない」
「罪人と申しますが、証拠がおありですか?
証拠もないのに罪人扱いなど、看過できることではありません」
当然ですね。
抗議しなければ認めたことになってしまいます。
「貴様の悪事に関しては証人がいる。悪あがきはやめることだ。
今この場で貴様の罪を…」
「そこまで」
鋭い声が式場に響き渡りました。
扉が開いて、悠々とした足取りで会場に現れたのは王陛下の補佐官である方ですね。
王城でたびたびお見かけしました。
若いながらかなりの切れ者という印象でしたが。
「アング殿下におかれては直ちに王城に帰還せよとの王陛下の勅命でございます」
ああ、ここって王城から近いですからね。
誰かが知らせたというより、こちらの状況は伝わるようになっていたんでしょうね。
「なんだと、おれは今忙しいのだ、そんなことは後にしろ」
補佐官の眉がびくりと動きました。
王様の勅命をそんなこととか言っちゃだめですよね。
「ならば力づくでお連れしましょう」
「ふざけるな、騎士たち、あの痴れ者を排除しろ」
補佐官の人は頭痛をこらえるように頭を振って、ぱちんと指を鳴らしました。
そうしたら騎士たちが動き出して、当然のように殿下たちを文字通り簀巻きにして運んでいきます。
良いですねあれ。
抵抗を許さず、なおかつ対象に怪我をさせない絶妙な配慮です。
「お騒がせした。
王陛下から、構わずに式典を続行するようにとのお言葉を賜った。
合わせてこの良き日に王族に連なるものが騒動を起こし、式典を妨害したことに対して遺憾の意を表明するとのことであった。
今日は諸君らにとっても記念すべき日、まずは卒業章の授与をしっかりと受けることが肝要だ。
あなたたちの未来を照らす証でだからね」
補佐官殿の言葉で教師たちが動き出し、かなり無理やりではありましたが式次第が粛々と進められて行きます。
私は補佐官殿から、式の後、王城にお運びいただくようにと指示を受けました。
はあ、どうなるんでしょう…




