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ラブコメ主人公、ご乱心  作者: 本郷隼人
【第一章】ラブコメ主人公、覚醒
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7話 スルメ

「す、スルメ……一緒に食べたいなぁ。とか…………あ、あははは……」


 その場の時が、一瞬止まった。


「「「「「え」」」」」


「す、すっす、スルメ、食べたいなぁ」


 苦笑いで、源が誤魔化した。

 瞬間、地震は止み、大雨は過ぎ去り、陽射しが窓から差し込む。


『速報です! 地震が、大雨と雷が止みました! そして沖の方へ大津波が引っ込みました! 地底人の情報もデマとの事です! 我々人類は救われました! やったーーーーぁぁ‼』


 落ち着き友のスマホから再び映像が流れる中、中島は顔を引きつらせていた。


「す、スルメ……かい?」


「あ、は、はい……スルメ、食べたい……です……」


 呆気に取られた中島を誤魔化す。


「す、スルメかぁ。なるほど、スルメ」


 中島は、初めこそ動揺を見せていたものの、すぐにうんうん頷き始めて、やがて「よしっ!」意気込んで、すぐさま源の手を握る。


「え、あ、あわわ、なな、中島君⁉ て、ててて、手⁉」


 いきなり右手を取られ、源の顔が茹蛸に劣らない濃い赤色なる。

 そして口元が緩み、次第に目がトロンとなる。胸の鼓動も加速していく。


「あ、ァ…………」


 どう見ても完全に恋する乙女の顔な源。耳まで真っ赤だ。

 そんな乙女に中島はキラキラ輝かせた目を近づけて、そのイケメンフェイスを接近させて、嬉しそうに叫ぶ。


「―――――ならば食べに行こう! 放課後に! というか一緒に下校しないか? いやしてほしい! というか今日どこかで遊ぼう」


「え」

「「「「え」」」」


 源と他四人は固まりが。その場の時がまた止まって。


「一緒に帰ろう! 源さん! そして遊ぼう!」


「え、あ、はい」


 完全に絆され、恋する乙女の表情な源は、反射的に答えてしまった。


 ☆


 そして放課後。


「し、信じてもらえましたかね。わ、私の話」


「「「「……………あ、うん」」」」


 小声で聞く源に、疲労感満載の四人は俯きがちに返答する。

 中島の提案で、長い坂道を下りながら、中島と源とクラスメイト達の計六名は下校していた。


 説明通り校舎は丘の上にあるので、全生徒達はこの長く斜面が厳しい坂道を徒歩かバスで登下校しなければならない。が、バスは本数が少なめな事もあり大体の生徒は徒歩である。長距離を用いるスポーツの部活はよく走り込みをしていて、そのおかげか成績はそこそこ良いそうだが、帰宅部生徒にとっては心底迷惑な坂ではある。因みに自転車・バイク通学は禁止である。大変である。


 そんな坂道を六人は下る。下って最寄りの駅へと向かう。駅は学校から大体20分といった距離であろうか。


「ふ~んふんふんふ~ん♪」


 先頭を中島が進む。源と遊べることが嬉しいのか鼻歌を口ずさんでいる。スキップまで刻んでいる。よく言えば幸せそうであり、悪く言えばお気楽そうな背中である。

 そんな中島から少し距離を置いて他五人は歩いていた。源は中島と遊びに行くという状況に陰鬱そうであり、クラスメイト達は事情を一切知らないで呑気そうな中島の背中に、呪いを飛ばすような憤怒の視線を送っている。なんなら四人とも『アイツ転んでくんねえかな』などと願っていそうな目である。


「あの野郎、呑気に鼻歌なんか歌いやがって……」


「なんかムカついてきた」


 気さく友に落ち着き友が同意する。それに源が被せる。


「な、中島さんには呪いの説明できません。た、多分今後もガツガツアプローチをしてくるので、さ、先程も申し上げた通り、皆さんにそれを阻止する手助けをお願いしたいです………」


「それはまぁ、分かったけど。実際ウチら何すればいいの?」


「な、何でもいいです。その……こ、こここ告白とか、す、スキンシップとかをその、色々妨害とかしてくれれば。あとは自力で何とか中島君を振って……みせます」


「「「「告白を振る、ねぇ……」」」」


 ぎこちなく宣言する源を、四人は怪訝そうに見つめる。


「振る気があるなら何で中島の誘い断んなかったんだよ!」


 威圧的友ともの、ごもっともな指摘に「うっ、ごめんなさい……」と縮こまる源。


「だっ、だってぇ……あんなに強引に迫られたら断れないんですよぉぉ! い、いつも家族としか話さないから、全然対人への免疫が無いんですぅ……‼ い、いいい今だって皆さんと会話するのも滅茶苦茶緊張しててぇ…………というか無理ですよねぇ‼ あんなイケメン男子に迫られたら、もう相槌か震えるぐらいしか出来ないんですよぉコミュ症は‼ あああああああチキショおおおおおおおおおおおおおお‼ 呪いが無かったら付き合いたかったァァァァァあああイケメン高校生と青春ラブコメしたかったァァァァァァァああああああ‼‼‼」


 泣き叫び出す源。魂からの、本気の叫びであった。


「ちょっ⁉ 馬鹿おまっ、中島に聞こえる⁉」


 咄嗟に口を塞ぐ威圧的友。恐る恐る中島の方を見やると、中島は気にせず鼻歌って楽しそうである。呑気なのが功を奏した。四人は深く安堵する。


「ほ、ホントに大丈夫なのかな? 源さん根は良い子そうだけど、凄い危なっかしいんだけど?」


「なんか意志もグラッグラに揺れてんもんな……」


 落ち着き友と威圧的友が、源に聞こえない声で呟く。


「でもまぁ、やるっきゃないだろ。だからこうしてオレ達が同行している訳だし」


 気さく友がそう言うと、アホ友が気分を落とした。


「うぅ、気が滅入る……世界の命運が……」


「あ、アタシはまだ信じ切ってないからね! あ、あんなん絶対偶然だから……うん、そうでしょ絶対に。絶対!」


「まだ言ってんのかよ。いや気持ちは分かるけど」


 自己暗示するに、気さく友は呆れた。


「おーーーーーーーーーーーーーーーーーい! 何やってるんだ皆、早く行こう!まずは遊んで、スルメはそれからだ! それにしても……………フハハハハハ、心躍って仕方ないなァ‼ えぇ‼ 愛しい人との遊戯はさァ‼」


 そして、随分先まで下った中島は、相変わらず楽しそうであった。


((((―――うぜぇ))))


 四人は心の中で意見がハモって、同時に中島のアプローチを全力で邪魔してやろうという意思が湧き上がってくるのであった。


 しかし、湧き上がってきたのだが。そうそう上手くはいかないのが人生なのである。

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