3話 呪いの人形系ヒロインと主人公の超パワー
源は、校舎中を駆けまわる。本校舎に、西校舎、グラウンドに部室等。
源は逃げた。後ろから追いかけてくる中島からひたすら逃げた。
逃げたが、運動音痴で普段外に出ない彼女は、この終わりなきマラソンは一苦労どころではなかった。
「ひぃ、ひぃ……」
昼食を摂っていたらいきなりイケメンに求婚を迫られた上、なんだか将来の話をされた。しかも相手は何故か自分の詳細を把握しているストーカー? のようである。
幼い頃から対人関係が苦手で、コミュ症でいつも人と会話しない(しないというよりは出来ない)。そんな友達0人の根性無いし女こと源が、あまりの恥ずかしさと理解不能な存在に混乱し、たまらず逃げ出すのは当然の行動であった。
しかし、告白してきた彼に悪印象を抱いているかと言われると、それは少し違った。
それはハンサムイケメンの中島が自分を好きであるという嬉しさもあるが、どちらかというと、哀れみや心配の感情が近かかった。
(あ、アレ、朝、駅で、拾ってくれた、人だよね?)
過呼吸になりながらも東校舎一階を全力で駆けながら、朝の出来事を思い返す。駆けると言っても常人にとっては早歩きぐらいの遅いペースだが。
(あの反応からして、もしかしてと思ったけど、あ、あの人、まさか、私の、運命の人⁉ う、嬉しいけど……………………でもそれだと、ヤバい)
突き当たりの階段を必死子いて駆け上がるが、背後から彼の声が聞こえてくる。
「待ってくれ源さーーーーーーん! 告白の返事をーーーーーーーーーッ!」
「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいーーーーーーッ‼」
振り返ればすぐそこまで迫っているではないか。
源は駆け上がる。いままでにない程に脚を回し階段を昇る。
昇って、屋上へのドアを開く。日光が降り注ぐ外へ出る。
これはつまり、行き止まりを意味している。
「ひ、ひぃ…………行き止まり………」
「源さーーーーーーーーーーーん! どうか返事をーーーーーッ‼」
「ッ⁉」
中島も屋上へと到着。源が後退っていく。
「す、すまない、驚かせてしまったね! 突然の告白で無理もない。だが心配しないで欲しい! 僕は君を幸せにする! 必ずだ! だから怯えないで欲しい!」
「ハァ、ハァ……いやあの……ハァ、怯えてるわけじゃ……ハァないというか………!」
息切れしながら後退っていって、手すりにぶつかる。もういよいよ逃げられない状況だ。
「おーい!中島ァ!」
「はぁ、やっと追いついたよ~」
中島を追ってクラスメイト四人も来た。
と、その内の一人、落ち着き友は中島と源の状況を一瞥して、すぐに顔を青ざめた。
「二人共! そこから離れて! 『屋上の手すりは老朽化してて壊れやすいから、当分の間は屋上は立ち入らないで』って、朝のホールルームで先生言ってたんだ!」
落ち着き友の叫びが屋上に響いた。それと同時だった。
―――――バキンッ。
「「「「あ」」」」
源の寄りかかっていた手すり。丁度その部分が嫌な音を上げ、折れた。
「え」
そしてそのまま源は宙へ投げ出され、逆さまになって地面へ落下していく――――――。
「いやあああああああああああああああああああああああ」
三階建ての屋上から落ちていく源。
(あ、死んだ………)
絶望に打ちひしがれ、走馬灯のようなものが脳内に映る。
思えば退屈した人生だった。別に特別災難だった出来事はなかったが、この陰湿な見た目と人見知りのせいで恋人どころか友達すら碌に出来ず。携帯の連絡先には家族と広告のアカウントのみで、いつも学校でしていることは一人で寝たふりか窓の外を眺めるか本を読むことぐらい。担任の先生にすらたまに存在を忘れられてしまう。
(嗚呼、一度でもいいから甘い青春を送りたかった。好きな人とデートとかしたり、抱きしめてもらいたかったなぁ……)
教室にいると聞こえる同級生たちの高校生らしい楽し気な会話にあこがれを抱きながら何もできずこのまま死んでしまう人生…………。
―――とは、ならなかった。何故なら中島が居るからである。
「―――ッ‼」
それは、例えるなら落雷だった。
通常、物体の自由落下の速度は、空気抵抗が無ければ一秒間に約9.8メートル毎秒。二秒なら19.6メートル毎秒であり。物体の種類によって空気の摩擦で速さは異なるものの、落下距離が長いほど速さも伸びるのが常識であろう。
簡潔に言うと。校舎の高さは約14メートルであり、屋上から人間が落ちれば、地面に激突するまで約1.7秒といったところである。
しかし、中島は違った。〝空〟を蹴ったのである。比喩表現はしていない。
源が地面に到着するまでの1秒強の時間。中島は水泳選手のように空中に飛び込むやいなや、脚に全力を込め、ピンと伸ばすようにして蹴った。
クラスメイト四人は、確かに目撃していた。中島が蹴った位置に、〝空気の層〟を見た。そして確かに、『晴れた日なのに稲妻が走った』瞬間を目撃していた。本当に走ったのだ、一瞬、嘶く電撃が。
ドゴン。空気を蹴ったことによる衝撃音が辺りに響いたとほぼ同時。中島は、源を抱きかかえ地面に着地していたのだった。コンクリートの地面はひび割れ、凹んでいる。
しかし中島は地面の心配なんかしない。心配するのは、そう。
「怪我はないかい。マイハ二―」
腕の中で震えている愛しき人であった。
「あ、あわわわわ…………」
源は死から解放された安堵と、イケメンに助けてもらえたこと且つ、抱きかかえてもらえたこと且つ、優しい微笑みを向けられたことにより脳内の理性が大暴走する。
「ああ、やっぱり、君の顔は凄く美しい。ガラス細工の様だ」
「あ、あわわわわわわわわわわわ…………」
ドクンっ、鼓動が高鳴って、加速していく。体の血液が高速で巡って、全身が熱くなっていく。特に胸が熱い。そして痛い。心臓が誰かに握られて締め付けられる感覚が襲う。
(か、カッコいい)
初めての感覚。唇が震える。手足がしびれる。視界がやけにクリアで、しかし見えているのは自分を抱きしめている男子のみで周辺の風景が認識できない。
というか、この男子が凄いカッコいい。顔が整って見えるし実際イケメンだし、こう、顔の周りがキラキラ光っている。その声を聴くたびに耳がトロけ堕ちてしまうんじゃないかと錯覚するし、抱いている腕から熱が伝わってきて心地よいが、その熱は安らぎよりも興奮状態にさせてくる。興奮作用がある。興奮する。嗚呼、ああ…………。
―――ああ、これは不味い。なるほど運命だ。これが運命の相手なんだ。
なるほど、これは不味い。運命という名の呪いを振り切る自信が、たった今お亡くなりになった。
運命は手強い。これは、好きすぎる。
「可愛いよ、源さん」
彼が優しく微笑むと。
(――――あ、好き)
源自身は、初恋を自覚せざる負えなかった。
そして、動悸が限界に達し、
「うへ」
ばたりと気絶する他ないのであった。
「み、源さん⁉ 源さーーーーーーーーーーーん⁉」
「おーい中島ぁーーーー」
屋上から四人が大慌てで見下ろす。
「大丈夫かーーー中島――――っ‼」
気さく友が叫ぶ。中島もハッと上を見上げ叫ぶ。
「僕は大丈夫だ! それよりも源さんが気絶してしまった! 泡吹いてる!」
「あ、泡⁉ いいから早く保健室連れてけ!」
「よし、待っててくれ源さーーーーーん!」
瞬間、中島は全力疾走で保健室へと駆けてく。
「アイツ、なんで生きてんの………………?」
威圧的友が信じられないという感じで、そんな中島の背中を眺めていた。
「「「いやぁ~…………?」」」
否、他三人もそんな感じで眺めていた。
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