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2話 陰キャ女子

「あー、えーと、どの子が源さん?」


 面倒くさそうに聞く威圧的友に、小声で中島が返す。


「あの美女だ」


「ん? 何処?」


「分からないか? アレだよく観ろ!」


「いや何処だって」


「よく観ろ! あの絶世の美女だ!」


「いやだから何処だって! 具体的に!」


「あの窓際の席の彼女だ! 前から三番目の! 長い黒髪!」


 中島が指さす。「窓際……」と四人が目線を合わせた。

 窓際の、前方から三番目の席。そこには一人の女子が、購買で買ったであろうコッペパンをもそもそ齧っていた。


「嗚呼、食事の姿も美しすぎる」


 女子は、中島の説明の印象とは少し違った容姿だった。

 確かにロングの黒髪であり、重たく長い前髪が目元を隠している。その前髪から眼鏡の下部分が少し見えるのも中島の説明通りである。肌も白いと言われればそうで、体躯も全体的にか細い。が。何というか、四人の想像していた美少女というよりかは…………。


「の、呪いの人形」

「ば、バカお前っ」


 つい本音がポロっと漏れた威圧的友を、気さく友は咎めた。しかし四人とも、それこそ普段は人に気を使える気さく友でさえ、内心は威圧的友と同意見であった。

 絹の様で綺麗と中島に称されていた長い黒髪は、実際には使い込まれた古い手拭いのようにボサボサだった。

 肌も白いというか真っ青で、一切日を浴びていないような非健康的な色。白紙のノートでさえもう少し色彩を感じられる。腕や脚も病人一歩手前な細さで、白アスパラガスといったところだろうか。軽い力でぽきりと折れそうである。


 当然座っている姿は芍薬や牡丹だとか品性に満ちた花々とは程遠く、あえて例えるなら…………枯れた彼岸花。いや、枯れて彼岸花でさえもう少し堂々とした風貌をしている。しかし女子の風貌は弱弱しく不気味で、シンプルに不快である。


 顔が隠れているため可愛いのかどうかは判定しづらいが、全体的に見れば『病人の姿を模した呪いの人形』。通常なら近寄りたくないぐらいには恐怖のオーラが溢れていた。


 ハッキリ言って、本当に近寄りたくない。


「え、アレが源さん? なんか………想像してたのと全然違う? あんな子いたんだね」


 アホ友が小声で呟く。それに落ち着き友も頷く。


「全体的に雰囲気が暗くて怖いな。ブレザー着た地縛霊って感じ」

「あー、ゴメンちょっと分かるかも」

「おい馬鹿やめろ! マジで聞こえんだろ!」


 気さく友が咎めるが、確かに怨霊っぽさもあった。


「な、なあアレが源さんで合ってんの? 中島はあの子のどこに惚れて……」


 気さく友が、訝しげに中島へ聞く。

 人の好みは千差万別であれど、何故あんな特徴的(酷い方向に)な女子に一目惚れなんてしたのか。そもそも事前情報とはかけ離れてた容姿だが、よくもまあ魅力を感じられたものである。恋は盲目どころではない。一体全体アレのどこがそんなにいいのか。

 だがしかし、中島から満足のいく回答が来ることは無かった。


「………………………………」


 当の本人は返答するでもなく、源をジッとただ見つめている。


「中島?」


「……………………ハァ、はぁ」


 名前を呼ばれても反応せず、中島は息を吐く。


「…………すぅ、ハァ、すぅ、はぁ」


 息を吸って、吐く。表情が少し険しくなった。


「お、おい中島?」


「すぅ、ハァ、すぅ、はぁ、すぅ、ハァ、すぅ、はぁ」


「おい、どうした中島? おい?」


 急に息を荒げ始める中島。その顔も段々と、獲物を見つけた空腹の獣みたいに真剣…………いや、興奮していた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ―――――っ‼」


 限界まで開かれた眼球は血走り、歯を食いしばった口元からは涎を垂れ始めている。息も〝荒げる〟というより、もう病人がするような〝過呼吸〟になっていた。

 まるで映画でよく見る、ドーピングさせられた人間のソレだった。

 クラスメイト四人も流石に、中島を不思議そうに見始めた。


「はぁ、はぁ、だ……駄目だもう、我慢できない…………源さん、源さん源さん……」


「おい中島⁉ 本当にどうし、」


 気さく友が、労りの言葉を掛けようした瞬間。


「源さーーーーーーーーーんっっっ‼‼‼」


 ――――ガターンッ。勢いよくドアを全開にし、中島が愛しい人の名を叫び出した。


「「「「ッ⁉」」」」


「伝える……伝える……伝えるぞ僕はァ‼」


 メガホン越しに叫んだような大声に四人は、二年二組に居た生徒全員が、廊下に出ていた生徒達が、周囲の人々が身体をビクつかせ、一瞬にして中島に視線を集めた。

 中島はそれを無視し、源の席へと歩み寄っていく。


「源さん‼」


「え、あ、え…………」


 面を喰らっている源の隣で跪いて、その細い手を取った。


「ほえ⁉ ちょっ、ほわ…………ッ⁉」


「どうも、中島です。朝ぶりだね。昼食中すまない。じゃあ早速だけど伝えようと思う」


「???????????????」


「源さん、好きです。結婚を前提にお付き合いしてください」


 中島が、整った口元を微笑ませて語る。


「「「「「―――――――――えッ⁉」」」」」


 そこに居た誰もが挙げた驚愕の声が、綺麗にハモッた。


「源さん、君を愛してるんだ」


「え、あ、え⁉⁉⁉⁉」


 源は、急な出来事に何も言えずにいる。


「これから共に幸せな人生を歩んで行こう源さん。個人的に子供は三人ぐらい欲しい。家はベッドタウンの一軒家。夏には九州辺りでバカンスを楽しみ、冬には一家団欒で鍋をつつこう」


「な、ななななにを言っ……」


「そしてたまの休日、二人きりのデートに行くんだ。僕らの子供達は『二人きりでずるい』だとかいうんだけど、そこは僕の両親に預けて、二人で愛のランデブーに行きたい。いや行こう! ふはははは、久方ぶりの二人の時間! 君は好物であるデミグラスハンバーグを食すんだが、口元にソースが付いてしまって僕は呆れ笑いをしながら指でふき取るんだが、思いの外照れてしまって源さんに『成れないことするから~』といじられるも君の耳元を見ると紅くなっていて僕がそれを指摘して二人で照れ笑いをするんだ――――――」


「ちょ、え、みんなが見て……っ!」


 中島の感情が高ぶってどんどん早口になっていくにつれ、源も見る見ると顔が赤くなっていく。


「あ、そうか両親との挨拶も済ませないとだな! 安心してくれ、ボクの両親は優しいから君のことを大切に思ってくれるだろう。しかし問題は源さんの方かもだな。絶対に優しい人達であるのは君の親族なんだから確定だろうけど、しかし大事な愛娘をどこの馬の骨とも知らない僕にくれるかどうかだが、しかし安心してくれ源さん! 僕は必ず君のご両親を説得してみせるよ」


「ひ、ひぇ……」


「あぁそうそう、取り敢えず君のことがよく知りたいとも思ってるんだ。まぁ午前中に大体の情報は入手していて、君の趣味趣向、好きな食べ物、ファッション、家族構成と簡単な経歴、休日のスケジュールやその他諸々は何とか把握できたんだけど、もっと君から直接〝源さん〟を知りたいんだ! だから放課後二人で語り合いた、」


「――――ひ、ひぇええええええええええええええええええええええええ」


 バッ! っと、なんだかもう色々と耐えられなくなった源が席を立つ。そして一目散に走り出し、ドアに居たクラスメイト四人を押しのけて廊下へ逃げだした。


「待ってくれ源さん!」


 中島も後を追う。

 四人は、一瞬唖然としながらも、すぐに慌て始めた。


「え、ちょっと中島⁉」

「なんだなんだマジで⁉ どうしたんだ今日のアイツは⁉」

「と、とりあえず二人を後追うぞ!」


 四人も中島を追いかけて行った。

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