1話 迷子
その後、クラスメイト達四人は次々に中島へ挑んでいったが、悪戦苦闘を強いられ、そして悉く玉砕していったのだった。
しかし不幸中の幸いというべきか。依然として源は他者から触れられていなかった。
彼女が人混みに当たらないよう、必死に避けている努力面は評価すべき結果であり、感情が抑え込まれ冷静になっている今回だからこそ織りなせる結果だった。
それと、中島が源に一切接触しようとしない点も良き傾向だった。
源が「触るな」と牽制はある程度効力を発揮すると予測できたが、まさか何もしてこないのは、四人にとって想定外であった。
(まぁ、唐突に抱き着かれるよか良いけど。にしては意外だな)
引き続きデートの偵察をしている気さく友。現在二人は、遊園地中央に聳え立つお城付近を歩いていた。時刻は十五時過ぎである。
「結構色んなアトラクションに乗ったね。何が楽しかったかい?」
「どうでしょうか。どれもそれなりでしたが」
「そっか。僕はどんなアトラクションに乗っていても、源さんが一緒なら楽しいよ」
「…………そうですか」
そんな二人が会話をしていると、
「えーーーーん!」
目の前に、大声で泣いている子供がぽつりと一人。
大体四、五歳ほどだろうか。クマさんがプリントされたポーチを身に付け、女の子はわんわん涙を流す。
「おかーさーん! おとーさーん! どこ~~~~~~!」
「むむむ! 迷子の子供か!」
「みたいですね」
二人は子供に近づいて、「お嬢さん、大丈夫かい?」だとか「お父さんお母さんとはぐれちゃったの?」と尋ねながら慰める。
余りにも泣いていたので、中島がダッシュで園内にあるキャラメルポップコーンとクレープとアイスとジュースと…………取り敢えず甘い物を片っ端から買ってきて挙げると、女の子は泣き止んでパクパク食べ出す。お腹が空いていたようであった。
女の子は、「お城に見惚れてずっと眺めていたら、いつの間にか両親と離れてしまった」と語ってくれた。父はメガネを掛けて赤い服を着ているらしく、と母は水色のワンピースに、女の子に買い与えた遊園地のキャラクターのぬいぐるみを持っているそう。
(お、おい皆な動けるか? 迷子の子だ、全員で両親を探すぞ!)
(ナニぃ⁉ 迷子だって⁉ すぐ探さないと!)
(まいご! ウチもまいごさがす!)
(た、タコさんウインナーは流石に…………偵察続けてた方がいいだろ? ふ、二人をノーマークにしとくのは、不味いって…………)
気さく友の呼びかけにより、落ち着き友と、幼児退化したアホ友と、満身創痍の威圧的友は各々返事をする。
(わ、分かった。コイントスマスターもあんま無茶するなよ? あと三浦海岸の方は良い子だからワクワクパークの中から出るな)
三人は気さく友の指示で、女の子の両親を探し始めた。
一方、中島の方はというと、
「よし、迷子センターに連れていこうか」
「そうしましょう。ここから近いですもんね」
女の子を迷子センターへ連れて行くことで話は纏まっていた。
二人の間に女の子が入り、三人並んで目的地まで目指す。
お城から迷子センターまでは左程距離は無く、ゆっくり歩いても十数分程で着くだろうか。
「ふははは、こうして歩くと何だか家族みたいだね、源さん!」
「……そうですかね」
二人がそんな会話していると、女の子は提案する。
「おてて、つなご?」
「手?」
「おてて、つなご」
二人に、女の子は両手を差し出してきた。どういう風の吹き回しか分からないが、どうやら手を繋いで歩きたいらしかった。
「ふふ、僕で良ければ喜んで。お嬢さん」
断る理由もないので、中島は手を繋ぐ。女の子が心を開いてくれて良かったと中島は笑う。
「お姉さんの方も」
女の子は、源の方を向いた。
しかし、源は内心どうしたものかと逡巡。手と手が触れたら魔法が解けてしまうからである。子供の頼みを断るのは、今の源でも流石に心苦しく思ったが、しかしここで受け入れてしまえば今までの努力は水の泡である。
「すみません、先に行ってます」
「え、源さん?」
悩んだ末、源は逃げるという選択肢を取ってしまう。そそくさと早歩きで迷子センターへ向かっていった。
「行ってしまった……」
「もしかして、きげん、わるい?」
「そう……みたいだね」
中島が苦笑いする。すると女の子はこう聞いてきた。
「かのじょさんとけんかしてるの?」
不思議そうにする女の子に、中島はゆっくり首を振る。
「そういう訳ではないんだけどね。ただちょっと、色々あるのだと思うよ」
「いろいろ? わたしのおとうさんとおかあさんも、けんかしてるときにりゆうをきくと、『いろいろあるんだよ』ってきくよ!」
「そっかそっか。きっと、君を心配させたくないんだね」
「?」
「ふふふ、大きくなればいずれ分かるよ」
中島は、女の子の歩幅に合わせてゆっくりと歩く。
少し間が空いてから、中島はふと聞く。
「お嬢さん、おとうさんおかあさんは好き?」
「うん、だいすき! いつもなかよしだし、わたしのことも『すごくだいすき』っていってくれるの!」
「なるほど、それなら良かった」
「おにいさんも、かのじょさんのことだいすき?」
女の子が質問を返してくる。
中島は、ふッ、と決め顔で笑った。
「宇宙で一番大好きさ! まぁ、実は彼女ではないのだけどね…………まだ」
「そうなの⁉」
「そしてここだけの話だが、実は今日、源さんに告白しようと思っているんだ」
「えー⁉」
「ふふふ、お嬢さん、これは僕達だけの秘密だよ?」
「う、うん! わたし、だれにもいわない!」
そう言って、二人は楽しそうに笑い合う。
するとふと、何かを思い出した様に女の子は忠告する。
「そうだ! おとうさんがいってたけどね。こくはくするときは、だいたんにつたえるほうがいいんだって!」
「え?」
「『自分の気持ちを素直に隠さず伝える』のがこうかてき? っていってたよ!」
「気持ちを素直に隠さず。………………そう、出来るといいのだがね」
またしても、苦笑いする中島。
「おとうさんはこれでおかあさんにプロポーズしたんだって! さんこうになった?」
「…………ああ、助言に感謝する。良いお父さんだね」
そんな話をしている間に、迷子センターへと着いた。
施設には先に到着していた源と、
「琴音‼」
「ああ、良かった無事で…………」
女の子の両親らしき人らが二人居て、二人は女の子に近寄って、嬉しそうに抱きしめた。
中島と源は、ほっとした様子で、家族らを眺めていた。
「ふぅ、良かった……」
気さく友も、陰ながらホッとしていた。




