8話 迷路
「よし、じゃあ次は迷路に行こうか! この迷路も結構有名らしいよ」
という中島の提案により、今度は巨大迷路へ目的地が絞られた。
(迷路というと、北エリアですね。そうなると…………)
(今度はウチ、か。ふははは、人気投票侍の仇、この三浦海岸が取ってしんぜよう!)
カフェテラスにアホ友は、高笑いしながらそう思念を送る。
(因みに一つ聞きたいんですけど、その三浦海岸ってどういう意味なんですか?)
(ん? 普通にウチ、地元が三浦海岸だからだよ。学校も三浦海岸駅から通ってる)
(あ、そうなんですね)
そうなんである。だから三浦海岸なのである。
因みに、気さく友のコードネーム・『タコさんウインナー』の由来は、単に彼がタコさんウインナーが好きなだけであり、威圧的友の『コイントスマスター』は彼女が地味にコイントスが上手いからである。
そして、そんな事は心底この話には関係なく、中島と源は北エリアへと向かうのであった。
☆
巨大迷路も、この遊園地で有名な施設の一つである。
といっても、難易度が高いとかゴールするのが難しいという訳ではなく、老若男女が楽しめる仕様となっていた。
ただ、巨大迷路というだけあってデカい。プレイ時間は約一時間であり、各所に休憩スペースがまであるぐらいにはクリアに時間が掛かる。
(うわぁ、噂には聞いてたけど相当広いなぁ)
お城の頂上にて、気さく友は双眼鏡で巨大迷路を見下ろす。
デート中の二人が、迷路の丁度中央辺りでウロチョロしているのが見える。
(いたいた二人共。三浦海岸、出番だぞ)
(よし来た。このボールを当てればいいんだよねぇ~)
そして、同じく迷路の中央付近にいたアホ友が両肩をこきこきと鳴らしていた。
特筆すべきは、現在アホ友は『変装の魔法』において子供の姿になっているという点。丁度小学二年生ぐらいだろうか。間抜けそうな女児がそこにはいた。
そして右手に、アホ友はある物を持っていた。
丁度ソフトボールぐらいの大きさの、その白い球。源によれば『マジックアイテム』という貴重な代物らしく、名前を『知能低下球』。
知能低下球を対象の生物に投げると、球に当たった生物はしばらくの間、著しく知能が低下するそう。大人に当たれば、幼稚園児ほどの知能にまで下がるそう。
しかし、一つ懸念点もあって、
(でもさ。知能低下球、だっけ? これをどうやって中島なんかに当てるの?)
そう、アホ友の言う通り。超人の中島に物を当てるなど至難の業。避けられるのが容易に想像出来る。
が、そこは気さく友も把握済みで。
(大丈夫だ。そのボールをよく観ろ、ガラス製だろ? 地面の落ちたら、まず粉々になるだろ?)
(う、うん)
(だから、「取ってください」って言いながら、ゆっくり中島に投げろ)
(あーなるほどね! 子供から投げられたボールなら、中島もすかさずキャッチするって事か!)
(そういうこと。理解した?)
という事である。
色々不信感や不安点はあるが、まぁ取り敢えず、アホ友は作戦を開始することにした。
(タコさんウインナー、二人は今どこ?)
(えーと……あ、近いぞ! お前から見て左の方向にいる!)
(左ね、よし来た)
アホ友は、気さく友の誘導により、二人の元へと向かう。
向かうのだが………………。
(馬鹿違うって! そこ角を右だ!)
(え、どこどこ?)
(そこだって! お前の目の前にある!)
アホ友は、移動に難航していた。
理由はただ一つ、アホ友の平衡感覚が凄く乏しかったのである。
(うへぇ~~今どこ~~~)
(あ、ちょっ、遠のいてるって! 今来た道戻れ!)
アホ友は、そこそこの馬鹿だった。
テストはいつも赤点ギリギリであり、ナゾナゾやクイズを解けた試しがあまりない。
中学の頃ソフトボールでエースだったぐらいには運動神経は抜群だが、しかし知恵働きはからっきしで、実際高校入試の問題は一夜漬けと持ち前の悪運で挑んだ程であった。
(やばいやばい、これじゃあ中島と源さんが先にゴールしちゃう!)
焦るアホ友。気さく友もどうすればこの戯けを誘導できるのかと必死に打開策を練っていた。
「くっそ、なんでこんなに馬鹿なんだコイツ! いや、オレの指示が悪いのか? ともかくどうすれば…………ん、あれ?」
しかし、そんな中、アホ友はそんな自身の悪運に助けられる。
(ちょっと待て! お前なんか逆に二人に近づいてるぞ⁉)
(へ?)
なんと、混乱しながら闇雲に移動していたアホ友のルートが、偶然にも二人への近道だったようであった。
双方の距離はもうすぐそこまで迫っていた。
(よし、いいぞ! そこの突き当たりを右だ! お前から見て右だからな! そしたらそのに二人が居る! いいな!)
(りょ、了解!)
途端に元気になったアホ友。すぐそこに居るのなら、こっちのモノ。駆け足で突き当たりの通路を右へ行く。
(あ、いた!)
二人の背後を確認。手を繋ぎ、仲睦まじく並び合って歩いてる。
アホ友はすぐに振りかぶって、知能低下球を振りかぶって、
(ん、アレ? 手ぇ繋いでる?)
そして気付く。
何故、他人に触れてはならない源が、よりにもよって中島なんかと手を。
しかし、気付いた時点で何もかも遅かった。
まず、アホ友は力強く踏み込み過ぎた為、足を滑らせてしまった。
(あっ、やべ)
そして、投げかけだった球は方向を変え、真下の地面へと勢いよく投球される。
ここで予想外の事態が起こる。ガラス製で壊れやすそうだった知能低下球は、実は凄く頑丈であり、コンクリートの地面に砕け散るどころか、勢いよくバウンドしたのである。
球は、凄まじい速度で跳ね返り、そしてアホ友の顔面に直撃した。
「ぶへぇぇ―――――――――ッッッ⁉⁉⁉」
激痛が走る顔に断末魔を上げながら、ドタリとアホ友は倒れ込み、同時に変装の魔法が解け、元通り等身大のアホ友になってしまう。
―――――そして不幸は重なる、知能低下球の効力は発揮され、
「…………う、うぅ~~~~、ママぁ~~~~‼ ママどこぉぉぉぉぉ~~~~‼」
傍から見れば、女子高生が子供みたく泣き叫ぶ痛々しい光景の完成である。
「う、うわ、なんだろう。あの人なんで泣いてんだろう……」
「ちょ、気にしないで行こうよ」
アホ友の前方にいた二人……………………中島と源によく似たカップルは変人を見る目で振り返ると、すぐに先へ進んで行った。
「あ、あ~……べ、別人……やらかしたわ」
一部始終を見ていた気さく友は、罪悪感で胸が一杯になって、顔を引きつって苦笑い。すぐにアホ友の回収へと向かうのだった。
「ゴール! 無事ゴール出来たね源さん!」
「あ、そうですね(三浦海岸さん、来なかったなぁ)」
一方その頃、中島と源は無事にゴールしていた。
☆
そんなこんなで、二人のデートは続いており、引き続き気さく友は二人を偵察していた。アホ友は近くにあったワクワクパークという児童向けのエリアに置いてきた。
(しかし、今日の源さん頑張ってんなぁ)
街路樹に隠れながら、気さく友は感心していた。
魔法により他者との接触厳禁な源は、行き交う人混みに当たらないよう避けながら進んでいた。今日は週末なので遊園地中に人混みがあり、移動するだけで大変であるのだが、源は根気強く頑張っていた。
(昨日まではあんなに頼りなかったのに。心なしか逞しく見えるな)
うんうんと、感慨深く頷く。
それはそれとして、気になるのは中島の方である。
(今日のアイツ、いつも通り気持ち悪いけど、そこまで可笑しくはないんだよなぁ。いつもなら出会い頭に告白して、移動中に告白して、会話の途中ですら告白してんのに)
しかし、今日の中島は大人しかった。源とデート出来て嬉しそうではあるが、いつも感じる変人性、みたいな物を感じない。口調自体はキモいが、特段変な行動を取るでもなく、傍から見れば普通にデートを行っていた。
(予想じゃ滅茶苦茶ボディータッチすると思ってたけど、そんな事も無いしなぁ。源さんが牽制してくれたお陰か?)
考えてはみるが、答えは出そうには無かった。
もし仮に中島が源に触って魔法が解けた場合。すぐに気さく友が飛び出し、無理矢理にでもデートを中止させる手筈だったが、そうならないのであればコチラとしては好都合である。
このままデートを行い、その上で中島を振る。そうすれば中島は『デートをしても恋心は伝わらなかった』と源を潔く諦め、元の好青年に戻ってくれる、筈である。
そして、源さんから思念が送られた。
(こちら特級呪霊、次は西エリアにある観覧車に乗るそうです)
(お、西エリア。アタシの出番か)
西エリアの売店にてチーズバーガーを買っていた威圧的友がニヤリと笑った。
(油断すんなよ? 他の二人は失敗してんだからな? あくまで目標は『源さんの魔法を解かせないこと』何だし、無茶はやめろよ?)
気さく友の忠告に、威圧的友が、今度は鼻で笑う。
(ハッ、あんな奴らの子供じみた作戦と一緒にすんなって! アタシの作戦、か~な~り完璧だから!)
(えーホントかよ?)
(任せなって! 観覧車っしょ? じゃあもう勝ったも同然だもん! アンタは泥船に乗ったつもりで待ってなって!)
(大船な。泥船は沈むぞ)
(………………ま、まあ待っててよ! 良いニュース持ってくるからさ!)
自信満々に、威圧的友はチーズバーガーを頬張った。




