5話 イマジナリー源
明日のデートの為、早くに就寝していた僕は、その夜、夢を見ていた。
「むむ、ここは」
僕は学校のグラウンドの、ちょうど中央で棒立ちになっていた。
夢なのに意識はハッキリしている。手足も自由に動かせた。
「つまり…………明晰夢というやつかッ!」
初めて経験するので、少し驚いたが、しかしその感情は更なる驚愕によって上塗りされる。
「いいの中島君? それで?」
「ッ! この声は⁉」
鈴の音の様な心地よい声音の主へ振り向く。
そこには、制服姿のマイヴィーナス……源さんが居るではないか。
「み、源さん⁉ いや、ここは夢の中…………つまり僕が生み出した源さん、イマジナリー源さんか‼」
うーむ、想像で造られた源さんも素晴らしいが過ぎるなぁ。可愛いが過ぎる。
「中島君は、それで満足なの? 満たされてはいるの?」
イマジナリー源さんにうっとりしてしてりると、当の本人が淡々と投げかけた。
「貴方、明日は自身の欲望を抑え、源さんに合ったデートプランを実行しているわね? 本当にそれでいいの?」
「ッ? ど、どういう事だい源さん?」
質問の意図が分からない僕へ、ビシッと指を差して応えるイマジナリー源さん。その姿は美麗でありながら何処か不服といった印象を含んでいた。
「貴方は先日、〝私〟を電車から助けた後、『人に合わせた、適切なアプローチ』という考えで行動しようとしている」
「あ、ああそうだとも! それがどうしたというんだい!」
「――――――いいのか? 中島君はそれで満足なのか?」
「なッ⁉」
ずぶり、言葉が正確に僕の胸へと刺さる。
「確かに! 相手に合わせたコミュニケーションをするのは悪い事ではない! いいや寧ろ良い事! だが……………しかし!」
「し、しかし?」
「中島君、貴方自身の内側に秘めた、『源さんに最大限の愛をぶつけたい欲』をこのまま一生隠し続けるつもりなの⁉ それが貴方に出来るの⁉」
「ッ⁉ そ、それは……」
続々と、イマジナリー源さんの言葉の矢が僕へと突き刺さっていく。
その矢の名前は、〝図星〟である。
「だがしかし! 僕の愛では源さんを…………君を傷つけてしまうかもしれなくて!」
「『四の五の言わずに愛をぶつける』。それが〝最適解〟」
「なにッ⁉」
「そして、もう一つだけアドバイスを言ってあげる」
途端、イマジナリー源さんは天使のような羽を発現させ、宙へ、羽ばたき始めた。
「源さん!」
「『私はいつでも、貴方の愛を受け入れられる。受け止められる度量を持ってるんだよ、中島君!』」
空高く、羽ばたいていく―――――――――――。
「み、源さーーーーーーーーーーん‼」
「『また明日ね、マイダーリン。デートを楽しみましょうね!』」
「イマジナリー源さーーーーーーーーーーーーーーーーんッッッッ‼」
僕は、それへと羽ばたいていった天使の名を叫んだ。
そして目が覚めた。
「…………な、何だったんだ今の夢は」
部屋の時計を見やる。朝の六時。約束の時間までまだ四時間ほどあった。
僕は今まで見ていた夢の内容を思い返し、あの言葉を反芻する。
「『四の五の言わずに、愛をぶつける』、かっ。本当にそれでいいのかい? イマジナリー源さん…………」
――――決戦の日が、始まる。




