1話 変わってしまった主人公
「…………と、いうのが朝に起きた出来事なんだ! 理解したか?」
中島は、意気揚々と、四人のクラスメイトに朝の出来事を語った。
「「「「…………………」」」」
当然四人は話の内容が理解できず、ポカーンっと大きく口を開くことしか出来なかった。
ゴールデンウイークも開けた5月の中旬。過ごしやすい気温に湿度、天気は快晴。半開きになった涼しいそよ風はカーテンを揺らして、昼休みで賑わう教室内の温度を下げる。生徒達はそんな教室で各々が食事を摂り、しばしの休息に心と体を満たしていた。
窓の外を見れば、透き通った青天と燦燦と輝く太陽がテニスコートを照らす。
青い空と心地よい風、お弁当の匂いと味、そして生徒達の笑い声が、「嗚呼、学校の青春だ」と温かでアンニュイに満ちた海に浸らせる。
そんな、神奈川県某市にあるこの高校は丘の上に位置しており、交通の便が若干不憫なのと少しくたびれた校舎に目を瞑れば、よくある普通な高校である。
そんな高校の、2年1組の教室にて。すらっと伸びた背格好と銀幕スター顔負けの容姿の男子高校生・中島は、ズタボロでずぶ濡れの制服を身に纏い昼休みのタイミングにやって来た。
「中島どうしたその恰好⁉」と仲の良い学友の四人が心配しているのに対し、中島は朝起きた出来事を(約七割が源への愛の囁きだったが)語り、そして現在に至るのだ。
「ああ、最高だ。僕はいま最高の気分だ。このクラスの隣に我がフィアンセ(予定)の女性が在籍しているっていうんだから、さっ☆」
満身創痍な恰好とは裏腹に、中島は満面の笑みで天井を仰いでいた。
クラスメイト四人は、幸福を嚙みしめる中島を、やはり奇異の目で見ていた。
「…………えーと、遅刻した理由がそれ?」
四人の中の一人、前髪を七三分けにした、気さくで人当たりが良さそうな男子の友人(名称が長いため以降は〝気さく友〟と呼称。因みに一人称は〝オレ〟)が口を開く。
「あぁそうとも。川に流されて溺れかけて、気付いたら海にまで流されたせいで、こんな時間になってしまった……………だがまぁそれは些細な事、不幸だとは思わないさ! なんたって朝に源さんに会えたんだからな! どう考えても幸運だ!」
気さく友の質問に、うんうんと頷きながら中島は答えた。
「今思い返せば、やはり彼女は美しかった。長い前髪の間から見えた瞳は、夕焼けに彩られた港町の様で、綺麗だが儚げで、しかし人肌みたいな暖かさを感じられて。それが僕の心を揺さぶり、恋心を奪った。――――嗚呼、源さん! 僕の一生のプリンセスであり魂の大海! 絶対に貴女をあらゆる災厄から守りたい。幸福だけを感じさせてあげたい……」
何やら勝手に熱くなっている中島に、やはり四人は奇異の目を向けた。
一人の女子が小言で呟く。
「ね、ねえなんか、キモくない? 言動とかが、なんか今日凄いキモくない?」
なんだか明るさだけが取り柄で、全体的にアホそうな見た目の女子の友人(以降、〝アホ友〟。一人称は〝ウチ〟)が中島に聞こえないように言う。
「酷い恰好で遅刻してきたと思ったらコレだし。ちょっと保健室連れて行った方がいいんじゃない?」
大人びていて、どこか落ち着きがある風貌の男子の友人(以降、〝落ち着き友〟。一人称は〝俺〟)がそう提案すると。
「それもそうだけど…………そもそも源さんって誰? 隣にいたそんな子?」
肩まで伸びたウルフカットと鋭い眼光が威圧感を放つ女子の友人(以降、〝威圧的友〟。一人称は〝アタシ〟)が三人に聞き返した。
「いや知らねぇ。聞いたことねぇわ」
「ウチも~。どんな子なんだろ」
「まぁ正直気にはなるけど……」
「ふはははっ! そうか気になるか皆ぁ!」
「「「「⁉」」」」
中島には聞こえない距離感で話していた四人の会話に、中島本人が割って入って来た。
「――――ならば行こう、隣のクラスへ! 『これでもかってぐらいの〝女神〟』を見せてやろう!」
「え、ちょ、おい中島⁉」
気さく友の制止を無視して、中島は廊下へと駆けていく。明日に休日を控え帰宅していく勤務終わりのサラリーマンの如きステップは、文字通り浮足立っているように見え、正に幸福の絶頂と言わんばかりだった。
四人は慌てて中島の後を追う。
「えぇ~、なんだ今日の中島。ちゃんちゃら可笑しいじゃん…………」
とことこ歩きながら落ち着き友が呟く。アホ友と威圧的友も同乗する。
「あれホントに大丈夫なの? 怖いんだけど?」
「マジで頭でも打ったんでしょ。さっさとアタシらで保健室連れてこ」
なんて事を会話しながら隣のクラスに行くと、中島がドアの隙間から二年二組をジッと覗いている。
「ほら、来いみんな。アレが僕のエンジェルでありヴィーナスだ」
中島に手招きしされた四人は、怪訝そうに中島へと近寄って、半開きになっているドアの隙間から、一緒になって二組を覗き込む。
感想等、よろしくお願いします。




