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ラブコメ主人公、ご乱心  作者: 本郷隼人
【第二章】中島の葛藤
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5話 決着

 僕は全身に力を込め、バッと勢いよく席を立った。机と椅子があられもない方向へと吹っ飛ぶ。先生が何事かと驚くが、僕は「結婚指輪を買ってきます。では!」と告げ教室を出る。

 クラスの喧騒を肌で感じながらも、僕はそれを無視し、駆け足で廊下を出て、そのまま猪突猛進の勢いで廊下の窓を突き破り、校舎の三階から飛び立った。


 白鳥の如く羽ばたき、風の層を突き抜け、勢いよくダイブして、我が身はグラウンドの丁度中央辺りに着地する。ドゴンと爆発音のような音がして、着地地点から放射線状にひび割れ、地面が抉れる。グラウンドが無人で良かった。あとで土を均しておこう。


「宝石店は確か……街はずれ!」


 そして僕は走った。学校を飛び出し、丘を転げ落ちるように下る。ここから宝石店まではかなり距離がある。早く行かねば。急がねば。

 いや別に焦る理由なんてない。けど、心が僕を急かしてくるんだ。『早く告白しろ』『源さんの指に結婚指輪を嵌めろ』と。


 だから急ぐんだ…………源さんへ告白するために急ぐんだ! 深い理由なんてない!


「急がねば……急がねば! ふん!」


 全力で街を往きながら、建物の屋根に飛び乗り、別の屋根から屋根へと忍者の様な軽やかなステップで跳び、宝石店へ目指した。このまま最短ルートで突っ切る。


「ムムっ! アレは!」


 がしかし、そう簡単にいかないのが人生辛いところ。屋根の上では街全体が良く見通せる。なので交差点で子供が大型トラックに轢かれそうになっているのを見つけた。助けねば!


「死なせない!」


 マンションの屋上から飛び立ち、急直下で交差点まで向かう。

 無事着地し、子供を抱きかかえ、瞬時にクルっと翻って、トラックをぎりぎり数センチで回避する。


 子供に怪我は無いことを確認し、「次からは気を付けるんだよ」と微笑んでから、周りにいた通行人たちの拍手喝采を横目に再び走り出す。やれやれ時間をロスしてしまったが、命を救うためには仕方ない浪費だ!


「むむ!」


 しかし、またしても事件を目撃する。目の前でひったくりだ。おばあさんの鞄を黒ずくめの男が奪って、バイクで逃げていくではないか!


「させるか!」


 通行人の波を避けながら、全力ダッシュでバイクを追いかける。

 直線の道路を、おおよそ80キロは出しているか? 中々の爆走具合だな。


「――――フっ、無問題」源さんに対する愛が目覚めたこの僕には、たとえ光であっても追いつける者はない。


 ――――何故なら、そう、源さんを好きだからだ‼ 説明不要ォっ‼


 ひったくり犯に追いついた僕は、すかさずバイクの前へ出た。猛スピードで前輪が脚にぶつかり、弾け、パンクする。特大の愛に目覚めた者の耐久度に勝る物質は無い。


 慣性で前に吹っ飛びそうな犯人を片手で捕まえ、もう片方で鞄をキャッチ。その鞄をおばあさんへ届けから、たまたま近くのコンビニに駐車していたパトカーの側にぐったりしている犯人を置き、その場を去る。


 急がなければ、急がなければ。

 早く源さんに伝えたい。愛を伝えた。


「むむむむ!」


 おいおいおい、神たちの間では、僕に試練を与えるのが絶賛流行中か⁉

 前方100メートルの地点、今にもビルの屋上から女性が飛び降り自殺をしようとしているではないか⁉


「あの人に振られて、もう生きてる意味ないの! 死ぬしかないの!」


 泣き叫ぶ女性が、その人生を幕引かんとダイブする。


「感心しないなぁ~、その失恋への決着(しにかた)は」


 とぅっ! 落下する女性へ僕は思いっ切り跳んで、彼女を空中でキャッチし、三回転捻りと4回宙がえりを加えながら、放物線を描く様にしながら地面へ落下。着地する。

 ふふふ、愛の金メダルも夢ではないかもしれないな。


「へ、へ? 私、死んでない? 生きてる?」


「死なせるものですか。貴女が死ねば、貴女を振った人が悲しみに暮れるのは必須! もしその人を本当に愛していたのであれば! 貴女が幸福を掴み取り、愛しき人の安然と幸福を願う事こそが、失恋への唯一の決着。それが落としどころであり、貴女の生きる意味へと繋がるのですよ!」


「き、君はいったい……」


「ふふ、源さんと結ばれる為に運命と戦う男。―――――――名を中島」


「………え?」


「ではさらば! 貴女の恋路に幸あらん事を! とぅ!」


 女性をそっと地面に下し、僕は跳んで屋根に乗り、忍者スタイルで街を駆け抜ける。


 しかし、こんなことがもう何度かあった。

 ヤンキーに絡まれてる中年男性の方とか、川で溺れているご年配とか、ナイフを持った通り魔とか、エトセトラ………………。この街は大丈夫なのか? 源さんと結婚したらこんな危険の多い街ではなく、もっと安全な街で暮らさねば。深くそう思った。


 全てを愛のパワーで解決し宝石店に着いた頃には、割と時間が経っていた。学校から出て三十分ぐらいか? 見積もりでは五分で往復できていた筈なのに……不甲斐ない。けどまあ着いたには着いたのだ。さっさと買わねば。


「ここで一番高く美しい結婚指輪を買います。金ならありますよ?」


 店員にそう告げ、滅茶苦茶高額な物をマフィアの懸賞金で買った。


 アルプスの水を汲んでいた帰りに、たまたまマフィアの本部に立ち寄ってしまった時は流石に驚いたが、壊滅させたことで警察から高額の懸賞金を貰えたのは願ってもない幸運だ。指輪も買えたわけだしな。

 そして、僕は学校へ帰る。急いで帰る。告白したいがために急いで。


 ――――指輪、告白。指輪、告白。指輪、告白!


 頭の中にはその二単語しかない。早く告白したい。指輪を渡したい。


「源さんは……こっちだな!」


 学校に着くや否や、僕の第六感、源さんセンサーが『体育館にいるよ!』と囁く。丁度五時間目が終わったタイミングだった。

 駆ける。僕は駆ける。源さんの元へ――――――。


「源さん!」


「な、中島君⁉」


 体育館の出入り口、女神の名を呼ぶ。彼女の驚く姿も美しい。


「早速で申し訳ない、だが、伝えさせてくれ! そしてどうか君の気持を教えてくれ!」


 僕は女神の前に跪き、我慢できない感情を叫んだ。


「好きだ源さん! 結婚を前提にお付き合いしてくれ」


 指輪の入った箱を開き、祈りを捧げるように、彼女に差し出した。

 キラリと輝く宝石は、目の前の彼女と同じく、煌びやかだ。


「返事を聞かせてください! 源さん!」


 一心不乱な僕の一斉が響いて、辺りがシンと静まり返る。他の生徒達の視線がスポットライトのように僕ら二人を照らし、世界から綺麗に切りとった。

 今この瞬間は、僕と源さんが舞台の主演であり、重要シーンと云わんばかりに。


「………………っ」


 源さんは、いつものように逡巡してから、


「め……」


 覚悟を決したのか、なにか単語を発しようとする。


「め? なんだい源さん?」


「め……い……」


 め、い。

 ……………………めい?


「迷惑です―――――」


 源さんの言葉は嫌にクリアに聞こえて、呆気なく僕を斬り裂いた。

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