3話 昼飯
というわけで昼休み。中島と源、クラスメイト達四人の合計六名は、西棟の空き教室にて楽しく昼食を摂ることとなった。
「「「「…………………」」」」
否、楽しくはない。殺伐した空気感が教室に満ちていた。
(――――に、睨まれてる! 殺気を送られている!)
主に源が、四人に殺意が籠った視線を向けられていた。
当然である。世界が滅ぶという大前提がありながら、勝手に中島と昼食を摂る約束をしていたら、純粋な殺意が沸くのは無理もないのだった。
「いや~、個人的には源さんと二人きりで昼食を摂りたかったんだが、皆が一緒に食べたいと聞かなくてさ~」
しかし、そんな空気感を中島は感じ取れていないようで、呑気そうに弁当を頬張った。
「ははは、水臭いこと言うなよ~。皆で食べた方が美味しいだろ~? ―――――なあ、源さん」
空笑いしていた気さく友が、他の三人が、更にきつく源を睨んだ。四人にガンを飛ばされ、源の身体がビクンと跳ねた。
「確かにそうだな。まあ、二人きりの食事はまた後日としようかな! ははははは!」
中島が高らかに笑う。
「「「「はははははははっ!」」」」
四人も一斉に笑い出した。
「え、あ、あははは………」
源がその状況に困惑しながら、取り敢えず釣られ笑いし始めた。
し始めた途端、コンビニ弁当を食べていた落ち着き友が、箸を源の足元に全力で投げた。
「ひぃ⁉」
「あーごめん箸落とした」
(い、いやいや投げてたけど⁉)
狼狽えながら内心でツッコむ源に、他三人も箸をぶん投げる。
「あ、ごめん~アタシも落としたわ」
「オレも」
「ウチも」
「ッ⁉ いや、な、投げて……」
「はははは、何をやってるんだよ皆! ドジだな~!」
笑う中島に落ち着き友が「あ、窓の外の雲、源さんみたいな形しているな」と窓を指差すと、中島が「何⁉ 写真に収めなければ⁉」と飛びつく様に窓を全開にしてスマホを取り出す。
中島がありもしない雲を探している合間に、四人は一斉に源へ歩み寄って、各々箸を拾って、起き上がり際に、
「てめぇふざけんなよ」
「なに昼飯食べる約束してんのさ」
「やる気あんのか」
「ホントに殺すからな」
一斉に耳元で恫喝し始めた。「ひぇっ」源の血の気が引いていって、奥歯がガタガタ震え出した。
「ご、ごごごごごめんなさい……断ろうと思ったんですけど、あああ、圧が強くて、断れなくて……」
「いや、そこは気張ってよ! 中島がカッコよくて圧が強いのは分かったけど! 頼むよ!」
アホ友が言うと、ご、ごめんなさい……、と心底申し訳なさそうに呟いた。
四人はお互い顔を見合わせてから、はぁと呆れて溜息を吐いた。
「俺達も出来るだけ中島を阻止するけど、源さん一人の時は流石に防ぎきれないよ。源さんが対人関係苦手なのは分かったけど、せめて『いやです』ぐらい言えないと」
落ち着き友が優しく叱る。源は申し訳なさそうにもう一度謝った。
「ご、ごめんなさい。い、言えるように、ホントに頑張ります……」
四人はもう一度お互いを見やってから溜息を吐いて、悪戯をした子供を許すように微笑んだ。
「まぁ反省したなら頼むよ? アタシらもやれるだけの事はするからさ。ガンバろ?」
威圧的友がポンと優しく肩を叩く。源はその優しさに「み、皆さん……ありがとうございます」と一縷の涙が目から零れた。
「なあ! 源さんの形をした雲なんて見つからないのだが!」
「そんな雲あるわけないだろ」
「な⁉」
血眼になって探す中島に、サラッと落ち着き友が叫んだ。
それから、六人は昼食を進めた。その間、中島は終始源を愛してるだの源は素晴らしいだのなんだの語っていたが、それ以外は大した出来事は起きず、特筆すべき点もなく、割と楽しく六人は談笑をしていた。
空き教室には開かれた窓から舞い込む風の音と、六人の喋り声以外に音は響かない。まるでこの空間だけ世界と切り取られ、六人だけしかこの世にいない様に錯覚する、たまに廊下から響いてくる他生徒達の笑い声に、この世界が地続きで、確かに他の人間が存在するのだと認識させる。風はささやかに室内を循環し、徐々に室温を下げていく。その気温変化が大変心地よく、快晴なのも相まって、思わず鼻歌でも奏でたくなっていく。
…………なんて思っているのは中島だけである。
「ああ、心地よい風。心地よい空間。シチュエーション。いつか源さんと結婚して家を建てるとなったら、こんな風に心地よい家に住みたい。具体的にいうと高台の眺めが良い場所が良い。今みたいな涼しいそよ風と町の景色をリビングで嗜めながら、源さんと子供二人、一緒になって美味しい食事を和気藹々と楽しむ。うん、実にいいな。ん、おっと間違えた、その時は源さんの苗字は中島だね。いや待て、そうなると子供の名前も苗字に合ったのが良いな。となると男の子なら…………『健太郎』だな、女の子なら『育美』。中島健太郎に中島育美かぁ。健やかに育ってくれそうだし、それに容姿は源さんの子供だから優れているだろう。今から待ち遠しいな。ふふふふっ」
「「「「「………………………」」」」」
他五人を置いてけぼりに、気持ち悪い想像をブツクサ呟いていた。
「あ、あの……一応聞きたいんですけど、中島君のあの独特な喋り方は、ま、前からあんな感じなんですか?」
中島に聞こえないよう小声で源が聞くと、気さく友が聞き返す。
「なわけねぇだろ」
「あ、ですよね」
「前はもっと爽やかっていうか、なんていうか好青年? みたいな感じだったもん。言動も全然あんな気持ち悪くなかったし」
アホ友が補足する。確かに今の中島は爽やかというよりは、諄いという印象であろう。実際クラスメイト四人はそう思っており、昨日まで透き通った水が流れる小川だったのが、今日になって爽快グレープソーダが氾濫する激流の川になっていたイメージであり、面倒くささと厄介さと近づきがたさが合わさった存在になっていた。
「や、やっぱり呪いの影響が、元の性格まで変えているのかもしれません」
「いやよく分かんないけど、だからってアレは酷すぎるけどね」
威圧的友が中島を指差した。まだブツブツ妄想を垂れ流しており、その内容は『子供が反抗期になった時、どう対処すればいいのか』というものだった。五人は苦笑いした。
「ま、まあ、私が振れさえすれば、呪いも元に戻ると思うので、そこは安心してください」
「そうなの? 普段の中島に戻るの?」
落ち着き友に、源が頷く。
「ぶ、文献にはそう書いてあったので、恐らくは」
「じゃあ尚更頑張らないとだね。ウチ等も全力でサポートするから」
「は、はい! お願いします!」
源は意気込んだ後、パクパク自作の弁当のおかずを食べていった。
そして、ハッと何かに気付いて、ふと吐露した。
「…………そ、そういえば、高校で誰かとご飯食べるの初めてかも」
すると、『老後は二人で老人ホームに入りたい』という話をしていた中島の耳に入ったらしく、すかさずコチラに振り向いて驚く。
「そうなのかい源さん?」
「え? あ、は、はい。こ、高校に入って友達とか出来ませんでしたし、い、いやそもそも小中で友達も出来なかったし。よ、幼稚園もいつも遊び相手は先生か外にいたダンゴムシとかバッタとかで……………へ、へへへ………全然、出来ませんでした。友達」
(((((―――せ、切ない)))))
重苦しい内容に、クラスメイト四人に中島が、初めて意見を一つにした。
そんな五人に気を置かず、源は照れくさそうに話す。
「だ、だから、その……う、嬉しかったりします。皆さんと一緒にご飯を食べるの。楽しいです。なんて…………」
「源さん……」
「ご、ごめんなさん変なこと言って。迷惑でしたよね。ちょっと、浮かれているのかもしれません……へへへ」
恥ずかしそうに顔を俯かせているのに対し、クラスメイト四人は一瞬呆気に取られた顔をし出すが、次第に優しい笑みを浮かべ始めて、
(源さん……)
(いい子だなぁ……)
(めちゃいい子じゃん……)
(いい子ぉ……)
と、源の純朴さが胸に響いて、シミジミと感じていたのだった。
そしてそれは、当然四人だけではないのである。源大好きの中島は、四人以上に言葉の真っ直ぐさが浮き刺さったようであり、
「源さん。いつでも、皆で食事を摂ろうね」
「な、中島君……」
一筋の涙を滴らせながら、源へ歩み寄って、そっと、その細い体躯を抱きしめた。
他四人は、うんうんと中島の言葉を肯定する。優しく微笑みながら。
「「「「ん?」」」」
そして気付く。中島が源を抱きしめている事に。




