2話 勝手に約束
朝、自室のベッドにて源は目覚め、学校へ行くための身支度をする。
しながら、決意する。
(きょ、今日こそは中島君を振ってみせるぞ!)
中島の『朝の痛バ告白事件』から今日までの三日間、源は幾度となく中島に迫られ、その度にキュンキュンして、絆され、うっかり自ら告白しそうになり、中島のクラスメイト達に助けられることを繰り返していた。
その数は、実に十数回。
(毎回毎回毎回毎回、告白しそうになってしまっては皆さんに助けてもらってる。本当に申し訳ない…………)
罪悪感に顔を歪ませながら、もそもそ卵焼きを頬張る源。母に殻でも入っていたかと尋ねられた。
(このままじゃいけない! 他者に力を借りずとも、自力で中島君を突っぱねてみせなければ!)
決意を胸に、制服に着替える。ぼさぼさの髪を櫛で梳かすが、そもそも髪自体にキューティクルも何も無いので、梳かした前と後で左程変わってない。
(まあでも、流石に私も告白されまくってるし。そろそろこの状況にも慣れてきた気がする。うん、何だかんだ人間って慣れる生物って聞くし。うんうん、いける気がしてきたぞ!)
玄関で靴を履き、ドアを開く。行ってきますの言葉が心なしか逞しく響いた。
(よし、張り切っていくぞ!)
外の日差しが暖かく、覚悟を秘めた源を出迎えた。
「源さん好きだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」
「うへぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
その覚悟はすぐに塵になった。
教室にて、中島が大量のバラを手に源へと告白していた。
「源さん! 好きだ好きだ好きだーーーーーーーーーーーーーーー」
(ひぇ~~~~~~~~。やっぱり無理です慣れてないです中島君好きすぎる~~~~~~~顔が良い~~~~~~~~~!)
中島のイケメンフェイスに、とろけた甘い声に、愛の告白に、へなちょこコミュ症陰キャの源がそうそう慣れるわけがないのだった。
「聞かせてくれ! 君の気持を!僕をどう思っているんだい源さん!」
「あ、えっ、あ、わぁ……」
しりごみする源。限界が近い。今にでも「私んも好きです付き合ってください」とでも言ってしまいそうな心境である。二人のやり取りを、今日も懲りずにやってるなぁ、と他人事のように静観する周りの生徒達。もう周囲は中島の行動に慣れつつあった。
「あ、す、す……」
そんな状況に耐えられなくなった源が、無意識のうちに好きを伝えようとしていると。
「ふんふんふふっ~~~……………んッ⁉ あ、おい何やってんだお前ら!」
そんな中、たまたま廊下を歩いてきた気さく友が目撃。教室に入って、二人に詰め寄る。
「あ、やぁおはようさん」
「おはようさんじゃねぇよ! 中島お前、生徒指導の先生に『もう朝っぱらから騒ぎ起こすな』って怒られてただろ! 何やってんだよ!」
中島に怒鳴ると、鼻で笑われ、反論される。
「ふふっ! 愛の暴走機関車を、止められる者はいないのさ! たとえ教師であってもね!」
中島の反応が癇に障ったので、気さく友はその頭を一発殴った。
「ねぇてか源さん? 今完全に好きって言いかけてたよね⁉ 〝す〟って言ってたよね⁉」
「うっ、ご、ごめんなさい……つい中島君がカッコよすぎて……」
痛がっている中島に聞こえないよう、コソコソ話す源と気さく友。
「いやカッコよすぎてって何⁉ 頼むよマジで⁉ ホントに⁉」
「ひぃぃい、す、すみませんすみませんすみません!」
全力で謝る源に溜息を吐いて、気さく友は中島を引っ張って、
「じゃあ、まあ、こいつクラスの方に持って帰るから」
「あ、はい」
自分達の教室へと戻っていった。
「あ、ちょ、源さーーーーーーーーん! 約束、楽しみにしてるね~!」
引きずられながら、中島の悲痛な叫びが辺りに響くのだった。
「………ん、約束?」
気さく友が歩みを止め、源に振り返った。
源は「うっ」気まずそうに眼を逸らした。
そんなやり取りから数分後。ホームルームが終わった後の事だった。
「「「「源さんと昼飯を食べるだぁ⁉」」」」
クラスメイト達四人の吃驚が、教室に響き渡る。
「ああ、約束したんだ! 今日の昼休み、空き教室で一緒にご飯を食べようと! これはもう僕達が結ばれる日も近いな~」
得意げに語る中島に、気さく友は鬼気迫る表情で問い詰める。
「お、おいそれいつ? いつ約束したんだ?」
「ん? さっきだよ。お前が来る前に」
(あ、アイツぅ……‼ なに勝手にそんな約束してんだよ……‼)
気さく友の内側から怒りの感情が、沸騰したお湯の如くふつふつ湧き上がってきた。
まさか自分が来る前にそんな話をしていたとは。というか待て、昼食の約束をしておいて尚且つ告白までしようとしていたのか。とんだ自制心皆無女である。ふざけんなやボケカス‼ そんな感じで、気さく友は心中で源を罵倒しなければ済まなかった。
「ね、ねぇどうするこれ?」
中島に聞こえぬよう小声で威圧的友が呟く。他三人は、互いの顔を伺い、すぐに決心し、威圧的友に視線を集めた。その意図を汲み取った威圧的友も、皆に頷く。
((((―――二人の昼食に割って入って、ムードを無茶苦茶にしてやる!))))
四人の心は一つになった。
「ふふふ、良いムードになったところで、告白しちゃおっと!」
中島は、そのことを知る由は無い。




